第21話 仙道優也VS鬼道勇也

 鬼道は俺の答えを聞くと何も答えず立ち去って行った。

 いつ見てもあの笑顔は気色悪い。




【試合当日】


 試合は市営の旧グラウンドを使って行われる。

 グラウンドの10カ所で流れ作業のように試合が行われている。

 ついでに社会人の昇格試験も同時に行われているのだ。


 ここは山を切り開いて作られており、モンスターの発生報告も寄せられている。

 試合は数日にわたって行われ、当日の試合が無い生徒は周辺を探索してモンスターを狩る授業も行われる。


 モンスターの中には人が多い所に集まって来る個体もいる。

 俺達はモンスターをおびき寄せるおとりであり、討伐する者でもあるのだ。


 自衛官や鬼道勇也を採用した冒険者管理会社の者もいた。

 冒険者もチャンスとばかりに集まってきたモンスターを倒してドロップアイテムを回収する。



 本来ファイターDランクの鬼道とオールFランクの俺が戦う事は無い。

 出来るだけランクが同じ者と闘い、無理な場合は1ランクだけ離れた相手と闘うのがいつものパターンだが、今回は戦う本人同士、そして先生もOKを出した。

 先生は俺が変わった事を何となく察しているようだ。

 だが俺に詮索せず、知らない振りをしてくれている。



「ユウヤさ~ん!頑張ってくださ~い!」

「お兄ちゃん!頑張って!」


 ヨウカとあかりも応援に来ていた。

 あの2人は目立つ。

 なんなら戦う俺と鬼道より、ヨウカとあかりの方が目立つ。


「仙道、お前は勘違いをしている。お前は弱い。そして俺は強い。このままでは仙道の為にならない。試合でお前の弱さと俺の強さをを知ってもらう」


 でた。

 批判の後の自慢と正当化。

 鬼道が喧嘩を売って来る。


「手加減してくれるのか?」

「そう言っている。何で理解できないんだ?」

「はははは、そうかそうか。奇遇だな。俺も同じ気持ちだ」


 1発で気絶できると思うなよ。

 じわじわと苦しめて気絶させてやる。


「そうだ、お前は俺に勝てない」


 んんんんんん?

 この話の流れで俺の言いたいことが伝わらなかったのか?

 俺も手加減してやると、そういう意味だったんだけど?


 いや、

 鬼道だし、

 俺もはっきり自分の能力を分からせていない。

 どうでもいいか、今から分かってもらおう。



【大河雄大視点】


「仙道優也と生徒の戦いが始まるぞ」

「あ、はい」


 俺についてきた女性自衛官が試合を見る。


 審判の合図で試合が始まった。


 あの生徒は、確か鬼道だったか。

 あの気持ちの悪い笑い方は覚えている。

 モンスターパレードで仙道がモンスターに包囲された時だ。

 逃げ遅れた仙道を見て同じように笑っていた。


 鬼道がバリアの魔法を使って仙道に迫った。

 2人が近づいた瞬間、鬼道が吹き飛ばされて地面に転がった。


「ら、ラッキーパンチだ!俺が手加減してあげたおかげだ!!調子に乗るな!!」

「……そう思うんだったらかかってきたら?」

「お前は弱い!俺は強い!お前はオールFランクで才能もオールFだ!俺はDランクファイターだ!!勘違いするなあああああ!」

「……だから俺を倒せばいいだろ?後話聞けよ無能が!!」


「仙道と鬼道は水と油、いや、周りの生徒を見る限り、鬼道はいつもああなのか……それよりも仙道の動き、見えたか?」

「ええ、ギリギリ見えました」


「仙道は1発目のパンチで剣をはじいて2回目は手の平から魔力を飛ばして鬼道に当てる事でバリアを解除させた。3発目も魔力を飛ばして鬼道を吹き飛ばした。生徒には見えていない」

「注目して見てないと見逃しちゃいますよね。しかも優也君のパンチはほとんど振りかぶっていません」


「ワンインチパンチか」

「仙道君は出来るだけゆっくりと動いて最低限の力で攻撃を当ててます。分からない子が見れば、鬼道君が間抜けに見えるでしょうね」

「ふ、仙道のあの顔、にやにやしている」


「それに、仙道君は素手です」


 そう、仙道は銃も、近接武器も杖も装備していない。

 体術を使うにしても、グローブ位は装備するのが普通だ。

 素手のFランクにボコボコにされる鬼道は特に目立つだろう。


 試合が再開された。


「調子に乗るな!」

「それはお前だろ?話をやめて試合をしようか」


 鬼道は仙道の言った事にまったく答えず批判と自慢話しかしない。

 野次馬がどんどん集まって来る。

 試合が進まない。

 声をかけてやるか。


「おーい!この後の試合もあるんだ!早く戦ってくれ!」


 多くの生徒も異変に気付き始めた。


「おい!鬼道が仙道に負けてるぞ!」

「DランクがFランクに負けている!」

「鬼道のランクは本当にDなのか?ただの間抜けに見えるぜ」

「金持ちの親が無理やりDランクファイターにねじ込んだって話だぜ!」

「ひでえな。でもいい気味だ」



 鬼道が外野に怒鳴った。


「うるさい!黙れえ!!俺より弱い無能がおかしなことを言うな!お前らは何もできない!俺の足を引っ張るだけで何もできないお前らが口だけ出すな!」


「鬼道、怒鳴ってないで試合をしろ、俺から殴りに行けばいいのか?それでもいいけど後から仙道が不意打ちしてきたせいで負けたとかおかしなことは言うなよ」


 確かに鬼道はDランクファイターとしては弱い。

 DランクとEランクの境界程度の強さだ。

 だが運が良ければDランクへの昇格は十分可能だ。


 動きがおかしいのは仙道だ。

 明らかにFランクの強さではない。

 出来るだけゆっくり動いて、自分自身の力を隠しつつ、鬼道が無様に見えるように立ち回っている。

 かなりの実力差が無いと出来ないだろう。


 体術スキルは持っていないように見える。

 能力値の差か。

 仙道には鬼道の動きが遅く見えているようだ。

 もっと言えば、仙道は鬼道が気絶しないように手加減している。

 何度も攻撃してうっぷんを晴らすようにいたぶっている。


 鬼道が叫んだ。


「そうか!そういう事か!カウンターのスキルだな!仙道、かかってこい!カウンター無しで勝負しろ!」

「遠慮なく」


 仙道は何度も何度も鬼道を殴った。


「やめ!ひぎい!!」


 鬼道が殴られて奇声を上げた。


「鬼道、俺に勝てないんだろ?気絶する前に負けを認めたらどうだ?」


 仙道は鬼道を煽っている。


「本気で戦ってぎひ!あげふううう!」


 鬼道が吹き飛ばされた。


「な!?だから言っただろ!!お前はFランクで素手の俺にすら勝てない!!」


 仙道は大きな声で言った。


「仙道君、煽ってますね」

「異界の件以外にも色々あったんだろう」


 周りの生徒が騒ぎ出す。


「鬼道が負けてるぞ!みんな見に来いよ!!」

「鬼道は口だけだからな」

「鬼道、無理だ!ギブアップしろって!!」


「黙れええええええええええええええええええええええ!!!無能が喚くなああああああああああああああ!!!」


 鬼道が大声を上げると更に周りから人が集まって来た。


「仙道!今倒す!」


 鬼道が仙道に剣を構えて斬りかかった。

 そして鬼道は剣を弾かれて何度も殴られた。


「ストップ!ストップだ!もう終わりだ!!」


 教師が試合を止めた。


「鬼道、負けを認めろ。もう無理だ」

「ふー!ふー!負けて、いない」

「審判、鬼道が負けを認めません。もっと殴ればいいですか?このままでは気絶させるまで終わりませんよ?」


「う~む、だが、これ以上は……」


 鬼道が気絶した。


「試合終了!勝者仙道優也!」


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」


「鬼道!ざまあ!」

「鬼道の間抜け!」

「鬼退治、終了!」

「いい気味だ」

「スカッとしたぜ」

「あいつ絶対Dランクじゃないよな」




「……鬼道君、嫌われてますね」

「だな」


 鬼道が目を覚ます。


「俺は、勝ってその後眠くなったのか?」


「鬼道君が怖くなってきました」

「異常者のように見える」


 先生が鬼道に近づいた。


「鬼道、お前は仙道に負けた!何度も言う!おまえは負けた!意味が分かるか?お前は負けたんだ!」

「いや、違う」


「鬼道!現実から、目を逸らすな!き・ど・う・は・し・あ・い・に・ま・け・た!」


 先生は3歳児に言うようにゆっくりと、大きな声で言った。


「俺は負けていない。地面につまずいた」

「地面は平らだ!お前は動かず仙道の攻撃を待っていただろう!鬼道!現実を見ろ!」

「先生、無駄ですよ。鬼道はこういう人間です」


「仙道、だがなあ、このまま社会人になってしまったら鬼道は本当にこのままだ。最後の最後だけは頑張りたいんだ!」


「皆が俺に嫉妬して、罠にハメようとしている」


 話が終わらない。

 鬼道はまるで精神病患者だ。


「失礼します。私、鬼道勇也君を正社員として採用しました。冒険者管理会社、ソクトウ株式会社、人事課の早見と申します」


 そう言って先生と鬼道、そして俺に名刺を配る。

 ソクトウはこの市で一番大きな企業だ。


「提案があります。もう一度仙道君と鬼道君の試合をしませんか?ですがもし、また鬼道君が負けた場合、ソクトウへの入社を辞退していただきたいのです」


 鬼道は不気味な笑顔を浮かべた。


「次は仙道を一方的に倒す」

「納得して頂けたようですね」

「仙道君もそれでいいですね?」

「お断りします」


「「えええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」」

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