第19話 勇也の虚言

【大河雄大視点】


 天の声をみんなが聞いた後、全国でレッドスライムの出現が報告された。

 100体のスライムが合体する事でイエロースライムに進化する。

 更にイエロースライムが約100体合体する事でレッドスライムに進化する事が分かって来た。


 会議室に政治家が集まり、渋い顔をしながら話を進める。


 モニターに映し出された会議資料には『ユウヤがレッドスライム・マウンテンを討伐しました』の文字が大きく映し出される。


「で?ユウヤの正体は掴めたのか?」


 秘書が困った顔をしながら答えた。


「いえ、まだです。現在各市町村にユウヤの捜索を依頼しております」

「全く、冒険者の管理を強化すれば『人権の侵害だ』と怒り出し、自由を強くすれば『ユウヤの情報を隠すな』と怒り出す」


『ユウヤがレッドスライム・マウンテンを討伐しました』


 この声は日本にいる全員の頭に響いた。

 その結果、国民の一部が意味不明な陰謀論を噂し始めた。


『国が俺達に情報を隠している。ユウヤは国の特殊部隊に違いない』

『政治家だけを守る秘密の特殊部隊を隠し持っている』

『上級国民だけ護衛され、その税金を俺達が払っている』


 根拠のない噂話を真に受けて、政治家の事務所に大量のメッセージや電話、手紙が送られてくる羽目となった。

 

「全くだ。無知な民衆の陰謀論には困ったものだ。大体日本は地方分権が進み、政治家は力を失っている。国民は何かあれば政治家をつるし上げ、政策がうまくいくけばそれが当然だと思っている」


「モンスターパレードが起きた後、多くの政治家や官僚が人の手によって殺された。特殊部隊の護衛があれば暗殺などされない。冷静に考えれば特殊部隊が居ない事など分かるはずなのだがな」


 モンスターパレードが起きた後、『政治家のせいで家族が死んだ』『国の対応の悪さが皆を殺した』などと言って政治家や官僚の暗殺や殺害事件が多発した。

 その矛先を逸らすために国は地方の権限を強化し、地方に目を向けさせた。

 それでも何かが起きると国が悪者にされる。


 まだ直すべき理由があればよいが、多くの場合は根拠のない陰謀論や間違った情報を鵜呑みにする者から来る怒りの声だ。

 


「仕方がない。根拠のない陰謀論を信じる馬鹿が無くなる事は無い。どの国でもそれは変わらない」

「このままでは国民から批判が出続けるだろう。私としては地方に捜索を依頼した事を公表したい」


「それしかないだろう」

「ボールを抱え込む事は無い。地方に投げるべきだ」

「地方もよく分からない要望を国に投げてくる。お互い様だろう」


 国は地方に責任を押し付け、地方は国に要求を突き付けてくる。

 国も地方もボールを投げ合っている状態なのだ。

 こうして天の声を頼りに『ユウヤ』の捜索が行われる事となり、『レッドスライム・マウンテン』の検証も行われた。

 特に日本人と思われる『ユウヤ』の探索は最優先事項として扱われた。


 冒険者資格Dランク以上で、名前が『ユウヤ』であった場合かなり強い強制力を持って聞き取りとスキルの開示が求められる事となった。





【自衛官・大河雄大視点】


 女性自衛官が俺に話しかけてきた。


「このユウヤなんですけど」

「言うな、言いたいことは分かる」


 俺達はユウヤの正体を察していた。

 仙道優也だ。


「優也君、まだ学校に登校していないみたいです」

「異界に行った目撃情報はあったが、戻ってきていない、か」

「ですです」


 モンスターパレードが発生し、異界に大量のモンスターが発生した。

 そんな中でパーティーも組まずに異界から生き残って帰って来た。


 一か月以上遭難していたはずだ。

 だが、仙道優也と話をした受付嬢によると、元気そうだったらしい。

 仙道優也の報告書だけでは説明できない部分あるのだ。


 だが、仙道の戦闘力がかなり高いと仮定して考えればすべての事が説明できる。

 そして仙道は生還後、低ランクが立ち入り禁止となっている異界に繋がる魔法陣付近で目撃され、そこからまた行方不明となった。



「モンスターの多い異界なら、当然レッドスライムは発生しているだろう。マウンテンの意味は分からんが、分かった事もある」

「何です?」


「Bランクのエース4小隊が集結してレッドスライムを討伐している。だが、倒しても天の声は聞こえなかったらしい。更にAランクのトッププレイヤーがレッドスライムを討伐している。こっちは動画まで公開されているがそれでも天の声は聞こえなかった」

「どういう事でしょう?」

「レッドスライムより、レッドスライム・マウンテンの方が強い。そう考えるのが自然だろう。そのモンスターを仙道優也が倒した」


 感覚的に『レッドスライム』より『レッドスライム・マウンテン』の方が強そうだ。

 単なる勘だが、何も分からない状況では勘に頼るしかない。


「レッドスライムはエース小隊が集まって倒すレベルですよね!?レッドスライムの更にその上!!仙道君はAランクの力を持っているって事なんじゃ!」


 女性自衛官が俺に近づいて机を叩いた。


「あくまで仮説だ。断言はできない」

「上に報告します?」

「いや、しない。これはあくまで俺の妄想だ。上官は確定した情報しか聞かない」

「あの人はそういう感じですよね。報告したら怒られて面倒になるだけです」


 どういう根拠で言った?とか詰められて勘ですと答えれば怒られる。

 報告しても何も変わらないだろう。



【鬼道勇也視点】


 俺は生まれた時から特別な人間だった。

 足が速く、勉強も出来た。

 異界が出て覚醒してから覚えたスキルは『剣術』『剛力』『バリア魔法』でファイターとしての才能もあった。

 家は金持ちで錬金術師とコネもあった。

 ハイグレードの装備を使う事が出来る。


 だが、嫉妬の目を常に受けていた。

 俺が優秀過ぎて周りが何も出来なさすぎる。

 こうなるのは仕方がない。





 鬼道勇也は人の批判を繰り返し、質問には批判で返す人間でとにかく嫌われていた。

 その事に気づいていない。

 自分に甘く、他人に厳しすぎる歪んだものの見方はその判断すら歪めていたのだ。




 俺が一人でスライムを倒す。

 俺はソロでもスライムを狩れるほど強くなった。

 その時、天の声が聞こえた。


『ユウヤがレッドスライム・マウンテンを討伐しました』


 ああ、俺の事か。

 青いスライムを倒していた。

 夕焼けで、赤く見えるスライムがいたような気がする。


 だが、本当に赤かったのか。

 やはり俺は特別な存在だ。




 鬼道勇也は虚言癖があった。

 自分自身は能力の高い人間だと思い込むが、そこまで能力が高いわけではない。

 そのギャップを埋めるように嘘をついている自覚が無いまま虚言を言い続ける。




 家に帰ると家が燃えていた。

 父さんと母さんが家を眺める。


「勇也、もうすぐ卒業だったな。卒業後は自活して生きて欲しい。会社も、家も燃えてローンの支払いだけで手一杯なのだ」


「何で消防を呼ばなかった?」

「今は消防士の多くが冒険者になった。消防よりモンスターの方が危険なのだ」

「モンスターのせいでたくさん人が死んでいるからモンスター討伐を優先しているのよ。授業で習ったわよね?」


 火事よりもモンスターによって人が死ぬようになった。

 健康で戦う力を持った消防士・警察官・自衛隊はモンスターを倒す為の戦力に変わっていった。


「これは父さんの不注意が責任だ。俺に金を借りに来るなよ!」

「そうしないように努力するするつもりだ」

「勇也!そんな言い方は無いわ!どこに行くの?」


「一人で住む」


 ギルドに行けば新しい家に住める。

 親に足を引っ張られるのはごめんだ。

 俺は1人で稼げる。


 父さんと母さんを見ると、離れて行く俺をほっとした顔で見つめていた。




 鬼道勇也は自活して欲しいというお願いに対して批判で返した。

 家族と最後まで話が噛み合わないまま会話は終わった。

 両親も鬼道勇也に手を焼いていたのだ。



 新しい家を借りて学校に通い、モンスターを倒して過ごした。

 俺は1人で生きていける。



「あああああああああ!」


 スライムに囲まれた!

 何度もバリア魔法を使った!

 前にいるスライムを攻撃して倒すと後ろから攻撃を受ける。

 倒してもスライムが集まって来て何度も攻撃を受けた。


 戦闘が終わると防具がボロボロになった。

 新しい防具と回復用のポーション、携帯食も買いに行こう。



「合計で134万8000円です」

「よ、余裕で払える」


 俺は新しい装備に交換した。


「ご利用ありがとうございました」


 魔道スマホを取り出した。

 残金は6806円。

 金が、無いだと!

 金が無くなっても高校を卒業すれば大手冒険者系会社への就職が決まっている。

 魔道スマホで両親に連絡を取るが繋がらない。


 連絡先を変えた?

 いや、今忙しいに違いない。

 今日は眠ろう、明日は学校だ。




 家族場鬼道勇也から距離を取っていた。

 連絡先を変え、住所も変えていた。




 学校に登校し授業が終わると、スーツを着た男が俺を訪ねて来た。


「君の名前はユウヤで、Dランクファイターの資格を持っているね?」


 遂に来た。

 特別な俺を国はほおっておけない!

 俺がレッドスライムを倒したことを見つけに来た!


 高校の生徒が俺に注目している。


 先生も俺に注目している。


 俺は男の聞き取りに応じた。




 ◇




「何回も言うよ!質問にはちゃんと答えてくれ!レッドスライムを倒したんだね!!」


 男が怒りだした。


「何度も同じ質問をするのは無駄だ」

「ち、倒した日付と時刻は!?」

「何回も言う必要はない。それよりも質問が分かりにくい」


「場所はこの住所でいいんだな!?ここは街中でレッドスライムの目撃情報は無いんだ!ユウヤ君!簡単な事を聞いているんだ!質問に答えてくれるだけでい!!」


「まあまあ、こうしませんか?書類にまとめてもらい、郵送してもらうというのはどそうですね


 先生が男をなだめる。


「そうですね!話にならないようですからそうしましょう!切手と封筒を買ってきた方がまだ早い!」


「切手と封筒ならここにありますよ」

「ありがとうございます。あいつがレッドスライムを倒したとは思えません!要点だけを書いて提出してもらえれば結構ですよ!」


 まったく、同じ質問を繰り返し何度もしてくる。

 この男は無能だな。



 鬼道勇也は男の質問に批判で返し、怒らせた。

 



 鬼道勇也は自分の足元が揺らいでいる事実をまだ認識していなかった。

 











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