第4話 藁人形見立て殺人事件

「山崎先輩!知っていますか!?藁人形見立て殺人事件!」

山崎の元に川口が慌てて駆け付ける。

「おう。あれだろ?本庁のサイバー犯罪対策室が見付けた怪しげなサイトで、そのサイトに投稿された藁人形と名前と殺人方法が実際に行われていた連続殺人事件だろう?」

まったくけったいな事件だと山崎はふかしていた煙草をぐしゃりと灰皿に押し付けた。

「それがなんと!我が所轄管内でも自分が狙われるかもしれないと駆け込んできた男性がいるんですよ!受付に!」

「なんだと?」


名前が合致するからといって本当に所轄に駆け込んできた男性が狙われているかは分からない。

何をすることも出来ない。

実際に事件が起きてからではないと動けない。それがもどかしいが、今のところはお帰りいただくしかないのだ。

例え、殺されるかもしれないと分かっていても。

「巡回は増やすことをお約束して帰っていただいたらしいですけどね、これで彼が殺されたら相当なバッシングですよ。批判の嵐ですよ」

「そうなんだよなぁ。何も起こらない事を願うしかないが」

そんな川口と山崎の願いも虚しく、その男性は投稿サイトに載せられた藁人形と同じ方法で殺されてしまった。

それから数日間、出入り口には取材陣が、電話対応には捜査員以外が対応してもしきれない状態になった。


こうして川口と山崎達所轄の警察官も藁人形見立て連続殺人事件の捜査本部に加わることになった。

「山崎先輩!やばくないですか!?海原管理官!真っ白な上下のスーツにすっごい柄物のネクタイですよ!すごいセンスですね!」

「あいつは昔からああだよ」

山崎は苦々しく言った。

服のセンスもさることながら趣味性格も独特な海原に山崎は昔からついていけなかったが、それでも優秀なことは認めていた。

「でも高級そうでしたねぇ。やっぱ管理官ともなるとお給料かなり違うんですかねぇ。いいなぁ、エリートは」

「あいつは実家も金持ちだからな」

などと軽口を叩いている山崎と川口は資料を見ながら頭を抱えた。

この藁人形見立て殺人事件の厄介なところは全員がどう考えても自殺なのである。

他殺に偽装されていても詳しく調べればすぐに分かる程度で、サイトに藁人形見立て殺人事件と堂々と銘打って載せられていなければ自殺で片付けられていただろう。

「一体どういうことなんだろうな」

「さあ?僕にはなんとも。どう考えても自殺なんですけどね」

「だが、そのサイトには被害者の名前と殺し方が載っているんだろう?」

「そうなんですよね。被害者が自殺する前に書き込んで他殺に見せ掛けたりしたんですかね?」

その言葉に山崎は顔を顰めた。

「なんでそんなけったいな真似をしなきゃならねぇんだ」

「ほら、よくあるじゃないですか。自己顕示欲で単なる自殺に片付けられるより殺人と思われて警察を翻弄したいとか」

川口がテーブルから身を乗り出して山崎に語るが山崎は資料を丸めて川口の頭をこつんと叩いた。

「あほか。そんな人間がこんなにいてたまるか」

とはいえ、最近は自殺サイトなんていうものもあり集団自殺をして世間を賑わす輩も少なくはないな、と山崎は捜査本部に加わったことによりサイバー班との繋がりも持てたため、被害者がそういったサイトに出入りしていないか入念に調べてもらうよう頼み込んだ。


それから数日後にも新たな被害者が現れ、海原管理官からは叱咤激励と所轄では出されないような弁当が海原管理官のポケットマネーから出された。

「僕、次も海原管理官の下で働きたいです」

「だから気安く餌付けされてんじゃねえよ、馬鹿」

しかし美味い弁当に罪はない。

山崎も川口もすべて食して再び捜査にあたった。


事件が急展開をみせたのは雲一つない、いい天気の日だった。

「山崎先輩!大変です!」

川口が休憩所にいる山崎の元へ駆け込んできたので山崎はおしるこを購入しようとしていた自販機から川口に向き直って尋ねた。

「どうした、川口」

「なんと!サイバー班が被害者のパソコンやスマホを調べていたら被害者全員が同じ自殺サイトにアクセスしていたんですよ!」

「なんだと?」

「しかも、そこの掲示板に藁人形見立て殺人の計画があって、被害者は自殺を他殺に偽装して自殺を犯罪に見せ掛けていたっぽいんですよ!」

山口は頭を抱えた。

「めんどうくせぇことしやがる……」

「被害者は全員自殺で捜査本部は解散、サイトも管理人に強制的に閉鎖させるそうです」

「だろうな」

だが、一つ気掛かりがあると山崎が思っていると川口から真実が告げられた。

「うちの所轄に駆け込んできた男性も、警察に駆け込んで騒ぎを大きくしてやれって思って乗り込んで来たって遺書が見つかったんですよ!」

捜査本部に参加した頃、川口が言った通りだと。

以前にも川口が言った事が事件の真相だった事があった。

川口は意外と優秀な警察官かもしれない、そう山崎が思った時だった。

川口が自販機の前で大きな声を出した。

「どうした?」

「間違えてコーヒーのブラック押しちゃいました!僕、ブラック飲めないのに!どうしましょう!?」

山崎は先程までの自分の考えを改めた。

川口は川口だ。ちょっと間抜けな後輩だ。

そしてブラックコーヒーは山崎が飲むことで話は終わった。

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