第12話
その日はお客さんの引きもはやく、十時頃には陽子だけになり端の席でさやかと楽し気に話していた。
「この間、友達とここに来る約束してたんですけど、急にこれなくなって」
「いつ頃ですか」
「二週間くらい前です」
私がいた日かなとさやかが言うと「いやお休みの日です、すっかり勘違いしていて」
はあそうなんですね。ちょっと戸惑いながらも相槌を打つ。
「へんな人に絡まれたそうでそれをレスラーに助けてもらったとか」そういって陽子は帽子の陰で少し笑った。
「あーあの時のね、花から聞いてるよ。レスラーじゃなくて柔道ね」
「あっ、じゅ、柔道でしたか、彼女もなんか舞い上がってたみたいで、すいません」
相変わらず恥ずかしそうに顔を伏せがちの陽子も、今日はお酒も回っていつもより口数が多い。
「あの、さやかさん、ちょっとお話したいんですけどいいですか」
「どうぞ、というか今してますよ」
「あっ、ではなくて、お店の後とか」
「あーーーーー、あーーーいいですよ。終電もあるのであまり時間取れないですけど」
「すいません、ありがとうございます、です」陽子は耳まで赤くなって肩も小さくまるめていた。そんな様子をさやかはまるでリスのようだなよ思ってしまった。
常連で顔なじみの陽子ならと受けたものの、さすがにどんな話か予想はつくのでその後の接客は上の空で、どうやって断ろうか、もう来てもらえないのかな、などと考えていた。
これまでにも何度か同じ状況になったことがあるのだけれども、毎回その気持ちに答えることが出来ず、その後は来店が途絶えてしまう。
しばらくして陽子がお会計をして帰ったのが閉店30分前。店の裏で待ってますといっていたのであまり待たせるわけにもいかず、絹さんに声をかけ少し早く退店させてもらえないかと聞くとあっさり了解された。
花がいない日でよかったなと思いながら着替えて店を出る。すぐ裏の駐輪場で無機質な明かりに照らされた陽子が白い息を吐きながら待っていた。
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