第02話 魔力
あれから早1年。僕は異世界転生という体験を得たことがすぐに判明した。
どうして異世界って分かるかって?
そりゃ、目の前にいる可愛いメイドさんで分かる。
「レックス様、ほら、こっちですよ~」
手を叩いて僕を自分の方に誘うメイド、アリス。
彼女の頭部には、立派な猫耳がついている。
勿論作り物ではない。
以前気になって直接触って確認したら、完全に皮膚と一体化していたから。
決してつけ耳ではないのだ。
「あいす~」
まだ舌ったらずなので、発音がしっかりできない。
僕はとてとてと歩き、アリスに抱きつく。
「ふふっ、よく出来ましたー」
抱きつかれたアリスは、パチパチと手を叩き、僕を誉めてくれる。
「はふぅ……」
アリスの元まで辿り着いた僕は、疲れて床にペタンと座り込む。
「疲れましたか?」
そんな僕を、アリスは優しく抱き上げる。疲れていた僕は正直にこくんと頷く。
「お眠りになりますか?」
アリスに聞かれたが、首を横に振り断る。
疲れたけど、眠くはないのだ。
「それじゃあ何をしましょうかね」
アリスが次に何をさせるか考える。
「まほー!」
「レックス様、また魔法が見たいのですか?」
「うん!」
「レックス様も好きですね」
この世界は魔法がある世界だった。
初めて見た時はそりゃもう、衝撃を受けたものだ。
「それなら不肖ながら、私が実演させていただきますね」
僕をソファに置いたアリスが、ぺこりとお辞儀する。
「それでは。『アクア・クリエイト』」
アリスの掌から水が生み出される。
それは次第に姿を変えて、鳥の形になる。
水の鳥は羽ばたき、僕の周囲を飛び回る。
「わあぁぁ! すごいすご!」
いつ見ても思わず手を叩いてしまう、幻想的で綺麗な光景だ。
「ふふっ、楽しんでもらって何よりです」
アリスが嬉しそうに笑う。
「アリス、入ってもいいかしら?」
コンコンとドアがノックされる。
この声は我が母の声だ。
「どうぞ、奥様」
アリスが許可を出すと、1年前に母乳を与えてくれた女性、もとい我が母が現れた。
「レックス、楽しそうにしていたわね。部屋の外まで声が聞こえていたわ」
母はソファに座り、僕を膝の上に座らせる。
レックスというのが僕の名前。
本名は『レックス・フォン・ファルケンベルク』だ。
最初は自分の名前や母様に違和感があった。
なんといっても、前世の記憶があったから。
だけど『レックス・フォン・ファルケンベルク』として生活しているうちに違和感がなくなり、いつしか前世の記憶は、ある男の人生を映画で見たような感覚に陥った。
自分が死んだ時の記憶が全くないというのも、それに拍車を掛けている。
だから精神年齢も実年齢より少し上ぐらいになった程度で、今では素直に母様に甘えられるようになった。
「かーさま、ぼくもまほー、ちゅかいたい」
「ふふ、レックスは本当に魔法が好きなのね」
こくんと頷く。
「レックスも1歳になったし、少しぐらい教えてもいいかしら?」
母様が乗り気になってくれた。
だけど、アリスが待ったをかける。
「奥様、いくらなんでも早すぎでは? 普通なら5歳ぐらいから、少しずつ慣らしていくものですよ」
「甘いわね、アリス。ウチのレックスはとても賢いの! だから少し早く習っても問題ないわ!」
母様が僕の脇を持って、アリスに僕を見せつける。
実をいうと母様は、かなりの子煩悩なのだ。
片鱗を見せたのは初めて喋った時か。
それはもう大はしゃぎして、使用人全員に自慢をしていた、らしい。
後日、そのことでパーティを盛大に開き、そこで初めて知った。
「かーさま」と呼んだ日には号泣していた。
次は歩いた時。
赤ん坊が歩くのは確か1歳ぐらいが平均だったか?
でも僕は生後半年で立って歩いたのだ。
それはもう狂喜乱舞していた。
とにかく母様は親馬鹿だ。
確かに僕は賢い、と自負している。
ただそれは赤ん坊だからという話で、年齢を重ねれば普通になるだろう。
あれだ、『10で神童、15で才子、20過ぎれば只の人』というやつだ。
僕はチート持ちじゃないし、多分。
「確かにレックス様は賢いですから、早く習得することに問題はありませんね。むしろ早ければ早い方がいいですし」
何が早ければ早い方がいいんだ?
僕は2人の会話の意味が分からず、ポカンとしていた。
「いーい、レックス。魔法を使えばね、魔力の最大値が増えるの。でも大人になったら伸びにくくなっちゃうから、なるべく子供の内から使うようにしているの」
「まほー、ちゅかう!」
僕は目をキラキラさせた。
だって、今から練習すれば、チートみたいなことが出来るかもしれないから。
「それじゃあ今から一緒に練習しましょうね」
「あい!」
決意表明のためぐっと拳を握って、両手を上げた。
「ぐっ……。うちの子、可愛い……」
親馬鹿もほどほどに。
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