第27話 新たな村の住人

 ダーク=ヒーロは救出したエルフのミアと銀髪の美女(変装して黒髪だったが)レイをヤアンの村に一旦送り届けた。


「ここは? ……静かなところですね。周囲の森に魔物の気配が感じられません……」


 エルフのミアは再度の『瞬間移動』に今度はあまり驚く事なく、ヤアンの村に対する違和感を口にした。


 ミアの指摘の通り、ヤアンの村の周囲には魔物の気配は一切ないから当然である。


「ここは『魔族の大森林地帯』のど真ん中にある村です」


 ダーク=ヒーロはざっくりとした説明をした。


「え?」


 ミアは聞き間違いかと思って、聞き返す。


「ここは『魔族の大森林地帯』よ」


 今度はレイが、自分の変身を解きながら、ミアに答えた。


「え? ……えぇ!?」


 ミアは聞き間違いではない事がわかって唖然とした。


 そして続ける。


「『魔族の大森林地帯』って、森の民と呼ばれる私達エルフでさえも唯一入る事を恐れる闇の森にして、国々が手を出す事も出来ない上級魔物が跋扈する、あの『魔族の大森林地帯』ですか……?」


「ええ、そうよ」


 レイはマスクも取り、ミアに元の姿を現すと、一言そう答えた。


「……なんであなた達、生きていられるの? エルフでも入ったら最後、生きて帰れない森なのに……」


「私達は生きているわよ?」


 レイは段々ミアの唖然とする顔がおかしくなってきたのか、ちょっと楽し気に応え始めた。


「……ダークさん、あの……、助けてもらっておいて我が儘を言うつもりは全く無いのですが……、やっぱり、私、他の場所に案内してもらっていいですか?」


 ミアは状況を整理してここにいるといつ死ぬかわからないと判断したのか一刻も早い異動を願い出た。


「他の場所だと……、そうだなぁ……。あ! ──暗黒平原なら、すぐに案内できるよ」


 ダーク=ヒーロは王国と関係のない場所で行けるところというと限られるから、最初に思いついた地名を口にした。


「「あ、暗黒平原!?」」


 とんでもない場所が出てきたとミアは愕然として聞き返し、先程までからかう側であったレイも一緒に驚く。


「言ったでしょ? 俺は言った事のある場所にしか案内出来ないって」


 ダーク=ヒーロは当然のように答えた。


「暗黒平原って、暗黒大陸にある伝説の地ですよね……?」


 レイが驚きのあまり、ミアに代わってダーク=ヒーロに聞き返す。


 ミアもそれを確認するように頷いている。


「あ、これ、やっぱり秘密で。……じゃあ、どうしようか?」


 ダーク=ヒーロは自分が口走った地名がよくよく考えると自分の身元を判明させることになるかもしれないと気づいて、話題を変更する事にした。


「「秘密……ですか?」」


 レイとエルフのミアは二人、目を合わせて追及するか一瞬迷う素振りを見せたが、相手は命の恩人である。


 結論は決まっていた。


「「……わかりました。秘密で」」


 二人は同時にそう答えると、少し親近感を覚えたのかお互い笑みがこぼれた。


「ミアさん、近いうちに違う場所へ行けるように準備はするので、今は、この村に滞在してもらっていいですか? ここでの安全はこの村の住人を見てもらえればわかると思いますし」


 ダーク=ヒーロはこの『魔族の大森林地帯』の一帯を自分の大浄化結界魔法で脅威となる魔物のほとんどを一掃してしまった事自体は本人も知らなかったが、安全を確保できている事はわかっていた。


 だから、自信を持ってそう説明する。


「……わかりました。正直怖いですが、ダークさんを信じてここに滞在しようと思います」


 ミアは周囲を見渡し確認をすると、自分に言い聞かせるように答えた。


「詳しい事は私がミアさんに説明するので任せてください」


 レイがミアに対してあったわだかまり(胸の大きさ問題)が解けたのか、ダーク=ヒーロに言う。


「それではレイ、お願いします。俺はミアさんが国外に出られるように、他の場所を訪れて『瞬間移動』でそこに移動できるようにしておきます」


 ダーク=ヒーロはそう答えると、『瞬間移動』を使って、その場から立ち去るのであった。


「……レイさんでしたね。──あのダークさんという方は何者なんですか?」


 エルフのミアは『瞬間移動』という伝説級の魔法を駆使するダーク=ヒーロについて率直な疑問をぶつけた。


「私の命の恩人であり、あなたの命の恩人ですよ。それがあのダーク……様です」


 レイは未だにダーク=ヒーロを呼び捨てする事に慣れない為、本人がいないので様付けで答えた。


「レイさんはダークさんを崇拝されているのですね」


 ミアはエルフが精霊を信仰しているように、レイがダークを崇めていると映ったようだ。


「この村の者はみな、ダーク様を命の恩人と感謝しています。私もその一人です。でもあの方はそれを自慢し、恩に着せる事がない優しいお人です。だからこそ、あなたにはダーク様の優しさに付け入るような真似だけはして欲しくありません」


 レイはダーク=ヒーロの優しさを知っているからこそ、そして、一人の女性として価値観も違うであろうエルフのミアに釘を刺した。


「……わかっているわよ。そんな事したら、あなたが黙っていないんでしょ? 私も命の恩人のダークさんとあなたの意に反するような事はしないから安心して頂戴。約束よ」


 ミアは急に砕けた口調でレイに応じた。


「……それならいいわ。村長である父に紹介したら、今日寝るところに案内するわね」


 ミアが素の部分を見せた口調で約束を口にしたので、それが誠意を見せた証とレイは理解して頷くと、こちらの様子を窺っていた村人達にエルフのミアことエルミアを紹介するのであった。

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