第10話 救出
「王宮に潜入できたとして、俺にはあなた達の仲間がどんな人なのかわからないので助けようがありません。それに王宮の牢屋の位置は何となくしか知らないですし」
ヒーロは率直に、単独での今回の救出作戦がどんなに無謀なものかを説明した。
「我々の仲間は、王宮で下働きのメイドとして潜入していたのだ。捕らえれたのは昨日今日の話だから、多分、メイド姿のままで牢屋に入れられているはず。だからすぐわかるかと思う。そして、みつけられたら、こう聞いてくれ、『ロテスの娘か?』と」
ロテスが誰か知らないが、そこは合言葉じゃないのね?
ヒーロは内心ツッコミを入れたが、直接は言わなかった。
「ちなみにロテスって誰ですか?」
「私だ」
リーダーがすぐに答えた。
確かにリーダーの娘が捕まったのならそれはまずい。
直接、リーダーの正体がばれる事態だ。
確かにこれは助けて上げないと、この一団が一掃される危険性が高い。
こうなったのは自分のせいだし助けるしかないだろう。
ヒーロは覚悟を決めるのであった。
ヒーロは、王宮の敷地内にある、地下に牢屋があると聞いていた塔の側に『瞬間移動』で移動してきていた。
「よし、移動は成功みたいだ……。この塔の内部に下に降りる階段があるはずだけど……」
ヒーロは、塔の出入り口に歩いて向かう。
塔の入り口は遠目からすぐに見つかった。
しかし、当然だが出入り口には見張りの兵が立っている。
「ここで、強行突破しちゃうと、救出対象であるロテスの娘さんを見つけるのが大変そうだからな……、どうしよう……」
草むらの影から出入り口を覗き込んでヒーロは頭を悩ませるのであった。
「いや、待てよ? よく考えたら出入り口からわざわざ入る必要性ないんじゃ……? 今の俺はチートモードだし、塔の壁に穴くらい作れるんじゃ……」
ヒーロは自分の発想の転換に自己満足すると、早速、出入り口のある場所の裏手に回り、塔の壁に穴を作るイメージで魔法を唱える。
「穿て、穴!」
すると、塔の壁に円形に穴が開いたようだ。
ようだと言うのは、塔の壁の一部を円形に切った様な溝が出来ただけだったのだ。
「これは、隙間に指を突っ込んで引っ張らないと駄目なやつ?」
直系50センチほどの円形を象る溝に指を突っ込むと、石でできた壁が円形に引きづられて行く。
普通の人にならば相当な重さになるだろう。
多分、常識的に石を引き抜くのは不可能な重さだ。
だが、チートモードの今のヒーロには不可能ではない重さではなかったから、石をこする音をさせながらゆっくり引き抜いていくのだった。
「よし、これなら入れるな」
ヒーロは、穴の大きさを確認すると、這うようにして穴に入り、塔に侵入するのであった。
穴の向こう側は、倉庫のようであった。
掃除道具や、何に使うかわからない棒や、麻の袋などが山積みになっている。
「ここは物置? ……扉は開くかな」
ヒーロは、扉に近づくと軽く押してみる。
すると少しきしむ音を立てながら扉が開いた。
人の気配もしない。
「……とりあえず、出入り口の扉に閂をして人が入れないようにしておくか」
ヒーロはそう考えると塔の出入り口に置いてあった閂をそっと扉に挟むと外から人が侵入出来ないようにした。
「これで時間稼ぎは出来るだろうから、後は下に降りて、ロテスの娘さんを探そう」
ヒーロはそう独り言をつぶやくと地下に降りて行く。
「え?」
ヒーロが階段を下りていくと、そこには当然ながら、牢番が数人いて見張りをしている。
ヒーロは、外の見張り以外はいないと思って安心しきっていたから、その集団の前に呑気に降りて来てしまった。
「? お忍びのお貴族様ですか? 何も聞いてませんぜ、あっしらは」
ヒーロの出で立ちは銀マスクに黒一色の装束とお忍びで正体を伏せる貴族と思われたようだ。
それに、本当に怪しければ、塔の出入り口で止められているはずである。
ここまで来れたのは、身分を明かした、もしくは、賄賂を握らせた、のどっちかだろう。
そこまで牢番達は想像し、目の前の貴族が後者だと判断すると、自分達に賄賂を出すのを待っていた。
「……では、五人とも近くに寄れ」
全てを察したヒーロは、牢番達を手招きする。
「へい!」
牢番達は臨時収入が得られると思うと、喜んでヒーロに近づいていく。
「魔法『爆睡円陣』!」
近づいて来た牢番達の中心でそう唱えると、ヒーロを中心に近づいて来た牢番達は、あっという間に強烈な睡魔に襲われ、その場に崩れ落ちていった。
ヒーロが覗きむと全員完全に眠っているようだ。
「せ、成功……!」
かいてもいないマスク越しの額の汗を拭うと、牢の中を探して周る事にするヒーロであった。
まず、鉄格子の扉が、牢のある通路と牢番の部屋の間にある。
最初、カギを見つけて開けようと思ったのだが、魔法によって眠った牢番の腰のカギの多さを確認すると探すのを諦める事にした。
そしてヒーロはその扉を腕力で強引に広げ、中に入る。
「気持ちよく鉄格子が開くなぁ」
ヒーロはスーパーマンにでもなった気分でつぶやく。
牢屋全体は一つ一つ個室になっており、扉の上部にある小窓から室内を覗かないと中が確認できない。
だからヒーロは、一つ一つ上部から中を覗き確かめながら、声を掛けて回った。
「ロテスの娘さんいますか?」
「俺がその娘だ!」
反応があったが、完全に男の声だ。
「いや、あんたおっさんじゃん」
ヒーロが、ツッコミを入れる。
「くそっ! ここから出しやがれ悪党!」
扉にすがると、おっさんが悪態を吐く。
ヒーロを悪い貴族か何かと仮面を見て思ったようだ。
すると、二つ横の牢屋から女性の声で、
「ロテスの娘は私です……!」
という声が聞こえて来た。
「居た!」
ヒーロは、声のした牢屋の扉の前まで行くと、中の女性を確認する。
そこには一目で美女とわかる女性が顔を覗かせた。
「扉から離れて下さい、扉を破ります」
そう言って警告し、女性が扉から離れるのを確認すると、ヒーロは力任せに扉を蹴破る。
大きな音と共に、扉が反対側に吹き飛ぶ。
すると中からメイド姿の女性が現れた。
「父が助けを寄越してくれたのですね! どなたか知りませんが本当にありがとうございます……!」
メイド姿の美女、銀髪に赤い瞳、モデルのようにスタイルの良いロテスの娘は、これまで不安だったのだろう、身元も不明なヒーロに抱き付くと感謝するのであった。
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