第8話不穏な木曜日
木曜日。
集中は辛うじて持続していた。
だが、少しだけ心の中では不穏な雰囲気が流れている。
直感的にそう感じるってだけの話なのだが…。
そんな中、硯の同級生の新入社員、根室美夢に話しかけられる。
「須藤さん。ちょっといいですか?」
「ん?なに?」
目と耳を傾けると話の続きを待った。
「なんか最近の硯…変じゃないですか?」
「ん…たしかに少しだけ変かも?」
「時間があったら話聞いてあげてください」
「うん。今週の休日に時間を取ってあるんだ。その時にちゃんと聞くようにするよ」
「お願いしますね」
会話はそこで終了すると残りの時間は業務に追われる。
流石に本日は集中が続かずに残業することとなってしまう。
数時間の残業の後、駅まで向うと仕事終わりのさくらと遭遇する。
「お!直じゃん!お互いこんな時間までお疲れ。途中まで一緒に帰ろ」
さくらとともに電車に乗り込むと帰宅ラッシュが過ぎた車内で無言で過ごしていく。
同じ駅で降りるとさくらは意味深な言葉を残してその場から立ち去った。
「もしも復縁するなら私は結婚する覚悟だから。直との恋愛を最後にするつもり。だから直もそれぐらいの覚悟で答えを決めてよね。誰かに言われたからとかじゃなくてちゃんと自分で思い悩んで答えを出して。私はそれを望んでるから。じゃあ、私こっちだから」
電車から降りて駅に降り立つとさくらはそれだけ言い残して僕とは反対方向に向けて歩き出すのであった。
彩と話したことで答えは出たつもりだった。
さくらとは復縁しない。
そう答えを出したつもりだった。
しかしながら、あんな風に全力で想いを告げられると躊躇ってしまう。
僕と結婚したいと思うほど想われている。
それを聞いてしまったら簡単には答えを出せない。
思い悩んでしまう。
だから、一度出した答えを白紙に戻してまたゼロから考えることを決めるのであった。
帰宅してリビングに向うと硯はいつものようにソファに腰掛けてスマホをいじっていた。
「おかえり」
本日は硯が家に来てから初めて帰宅時の挨拶をされて答えに戸惑った。
「ん…あぁ。ただいま」
「プライベートも充実してて羨ましいですな」
硯は嫌味のようなことを口にするとスマホから目を離さなかった。
「いや、今日は残業」
「今日は。ね…」
「なんだよ…妙に突っかかってくるな…」
「別に。嫉妬しちゃうなって思っただけ」
「何にだよ…」
「わかってるくせに」
「わからないね」
「そう。それならわかったよ」
硯はそれだけ告げるとソファから立ち上がり、そのまま自室に向うのであった。
次の日。
硯は僕のマンションから姿を消した…。
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