アルファの妻にはなれないベータ

金剛@キット

第1話 破談

   ※このお話は、オメガバースが基本設定となります。ご容赦を!




 自社ビルの最上階にあるオフィスの窓際に立ち、眼下に見える車の赤いテールランプが、道を流れて行く様子をながめながら…

 近江コウイチは通話を切り、スマホを木製のデスクの上に、コトリ… と置いた。



「縁談の話は無くなった… 向こうが断って来た」


 フゥ―――ッ… と満足げに近江コウイチはため息をいた。



「何ですって?! 理由は何ですか?!」


 コウイチの秘書であり、子供時代から世話係をしていた同じ年の市ヶ谷ルイは、自分の上司に問い質した。


「まぁ、そうカッカするなルイ」


「散々待たせておいて、結局は断るなんて… コウイチさんが寛容だからって、なんて図々しい!」



 近江コウイチは、代々緑茶の製造販売を生業なりわいとする家系、近江家の3男アルファとして生まれた。


 現在の近江家はお茶だけではなく、観光、不動産、製菓、運送業など、幅広く手を広げ、地元では名家として有名だった。



「私の元婚約者殿に、愛するアルファが現れて、すでにつがいちぎりを結んでしまったそうだ」


 肩をすくめてコウイチは苦笑いを浮かべた。




「何て無礼なんだ! 何らかの制裁処置をとるべきです」


「いや、必要ない! 先方が断って来たのは、私としては願ったりだ、元々私が望んだ縁組でも無いし」


 出産で無くなった妻の代わりに、子供に母親を与えるべきだと、コウイチの両親と2人の兄にしつこく説得され、仕方なく進めた縁談だった。



「ですがコウイチさんに対して、コレはあまりにも無礼です!」


「息子には、私とお前がいれば十分だよ… コレ以上私のせいで誰かを不幸にはしたくはないからね」

 

 チラリと視線を上げて、コウイチは秘書を見た。



「それは…」


 気マズそうに秘書のルイはサッ… と視線をそらす。



「妻には可哀そうなコトをした」


 コウイチは椅子に腰を下ろし、ギシシッ… と背もたれにもたれた。



「そんなコトはありません! 亡くなった奥様は、コウイチさんと結婚出来て幸せだったはずです!」


「いや… ルイ、妻は恐らく、私たちの関係に気付いていた、幸せなはずがないのさ!」


「そんなコトは有りません!」


「出産したら離婚して欲しいと、臨月りんげつの時に彼女にそう言われたからね」


「まさか…っ!!」


「政略結婚だったから、一応結婚はしたけど… 彼女は無邪気に私に愛されると思っていたようだから、初夜にクギを差したのさ」


「そ… そんなコトをしたのですか、アナタは?!」


「いくら努力をしても、彼女がオメガでも、愛せないモノは愛せないのだから、仕方ないじゃないか、お互い役目を果たしたら後は自分の幸せを見つけるために自由になる… ソレの何が悪い?」


「ですが…」


「お前だって私が結婚して妻を抱いていた時は… 自分を私に抱かせないコトで、私に罰を与えていたじゃないか?」


「アレは罰ではなくて、ケジメです! 結婚したアナタとは、肉体関係を持ってはならないと… だから、私は!!」



「何度も言うが、私の妻はお前だけだ!」



 イライラとコウイチは、ルイを怒鳴りつけた。







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