第13話 深夜の大聖堂

 深夜でも大聖堂は明るかった。

 階段の方に向かうと、先日のシスターが立っている。夜中だし、もしかしたら見張りがいなければ……とも思ったが、そうもいかないようだ。



 シスターは俺たちを見るなり、声を荒げた。



「あ……! あなたたちは!」

「今日も通せないって言うんでしょ? 良いわよ、知ってるから」



 そう言って、ララミアは無理やり歩いていく。



「ここを通したら司教様に怒られてしまいます! ちょっと待ってくださいってば!」



 ララミアはにやりと笑うと、その場で停止した。



「はい、ちょっと待ったわよ。じゃあ通らせて貰うわね」

「そういう意味じゃないです! いくらララミアさんでも、ここから先は立ち入り禁止なんです!」



 両手を広げてあたふたしている。ここだけを見れば、非常に可愛らしいのだが……。

 体裁を保つために一応の忠告はしておこう。



「そこのシスター、無理はしなくても良い」

「そりゃあ無理もしますって! だって勝手に入ろうとするんですもん、全裸の不審者を連れて! それは止めますよ!」

「いや、そうじゃなくてだな」

「あなた……全裸は否定できないわよ? 事実だもの」



 ララミアまで何を言っている……。俺は全裸であることを誇りに思っている。否定したい訳が無いだろう。

 こんな所でふざけていたら日が暮れてしまう。もう夜だが。



「俺が言いたいのは、怪我をしているのに無理に動かなくても良い。そういう事だ」

「け、けが? 何を仰っているのやら……」

「痛むのだろう? 左のすねと右のあばら……あと手の甲もか?」



 シスターは立場が弱くなったのか、弱弱しい声で「気のせいでしょう」と呟く。

 俺を誰だと思っているやら。身体の物理的な不調など、見れば一発で分かる。弱っている箇所を補う筋肉の働きに、重心がズレた立ち姿。

 口が何も言わずとも、その身体が全てを答えてくれるのだ。

 


「そうか……認めないか。ならばこう言った方が早いだろうか。――倉庫でつけていた仮面はどこにしまったんだ? 似合っていたぞ」

「…………ッ!」



 シスターはとっさに身動ぎ、自らを守るように両手を前で組んだ。 



「別にとって食おう……と言う訳ではない。ただ、俺たちを見逃してくれればそれで構わないんだ」

「……それで言われたように通すと思いですか? 私にも立場がありますので」

「面倒くさいわね。もっと話を簡単にしましょうよ。私たちを通せば、あなたは罰を受けることはあっても死ぬことは無い。しかも私たちはこの先に進めるの。こうやって無駄話をしているよりも、お互い有益でしょう?」


 

 シスターはにやりと笑い、ララミアを見下すように目を遣った。



「――ララミアさん。それではまるで、聖職者である私を殺せるとでも言いたげですね。それが聖都でどのような意味を持つかお判りでしょう? いくら罪人であっても、今の私は崇高なシスターです」

「あのね……私が何年ここに住んでると思ってるの? 言われなくても知ってるわよ。それに、必要なら聖女様に刃を向ける覚悟くらいはあるわよ」



 「やれるものならやってみろ」。そう言いたげに、シスターは立ちふさがったままだ。険悪な雰囲気を感じ取ってか、大聖堂内の聖職者たちは辞めるように声を荒げている。

 

 そんな一触即発の中、ララミアは背中越しにこう言った。



「……その、迷惑かけるわね。理由は何であれ、これであんたも聖都を離れなきゃいけなくなるわ」

「なんだ。そんな事を気にしていたのか?」

「当たり前じゃない。あんたと一蓮托生……なんて気持ち悪い事は言わないけど、私のわがままに付き合わせているんだから」



 多分、ララミアは良い奴なんだ。一人だけで聖都のお抱え冒険者として仕事をしてきたし、スラムに寝そべる子どもを見て心から哀れんでいた。

 だから、聖都での麻薬製造なんて許せないんだろう。


 それにしても……らしくもない。俺の事は気にせずに、ずけずけと暴言を吐きながらやればいいのにな。



「お前こそ良いのか? ここで手を上げれば、今の豊かな暮らしも失うぞ。この先は俺に任せて家に帰ったって良い。俺一人でも片付けられる」

「やっぱりあんた馬鹿ね。外部の人間……しかも全裸! そんな魑魅魍魎ちみもうりょう任せるくらいなら、処刑されたほうがマシよ」



 ララミアはこちらを振り向いた。



「それに、お金なんてのは後でどうとでもなるわ。失うのは交友関係だけだから」

「それは十分すぎる痛手だな」

「勇者パーティーを追放された男が言うと、言葉の重みが凄いわね……。でも忘れたの? ――私は疾風のララミア。聖都では有名なボッチのエルフよ」

 


 彼女は晴れやかに笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る