メレディア、幸せへの道②


 屋敷を出てすぐにある薄ピンク色の建物コスメブティック『レイランフール』に着いた私は、「ごめんくださーい」とゆっくり扉を開けた。


 カランカラン。

 店の扉についたドアベルが鳴り、中へ入るとそこにいつものマダムの姿はなく、代わりにマゼラとレイ、カイが笑顔で私を迎えてくれた。


「マゼラ? レイ、カイも……」

「奥様、おはようございます。ゆっくりとお休みになられましたか?」

「へ? えぇ、まぁ……」

 寝過ごすほどにはぐっすりと、とは言えない。


「よかったです。ではどうぞこちらへ」

 そう言ってマゼラは私をテストメイク用のドレッサーへと促し、レイとカイが私の両手を引いてエスコートする。


「ちょ、ど、どうしたの?」

 誘われるがままに椅子へ座り、混乱した自分の顔が鏡に映し出される。


「さ、始めましょうか」

 そう言ってメイク道具を取り出すと、マゼラは私の前髪をピンであげて化粧水を手で温めながらゆっくりと塗り込み始めた。

 マゼラが私の顔を整えていくその間にも、レイが私の髪をとき、丁寧な手つきでアレンジを施していく。

 

 レイは手先がとても器用だ。

 ヘアアレンジに興味があるらしく、今孤児院で耳の聞こえない子ども達に手話を教えながら、マゼラに習ってそちらの勉強もしている。

 将来は手話の先生だけでなくヘアスタイリストにもなれそうだ。


 そしてカイは、レイが言ったところを落ちないお湯にピンで留めていく。

 痛くない? と時々手話で聞いてくれ、気遣いのできる優しい子だ。

 彼もレイと一緒に、孤児院で手話を教えているが、教え方が優しくて彼を慕う子どもは多いと聞く。

 二人の将来がとても楽しみだ。


「奥様。私たちは昨年の春、あなたが嫁いで来られた時、噂に踊らされ、あなたを敬遠してしまいました。ですが、あなたはそれでも私たちに普通に接し、見ず知らずの子どもであるレイのことも助けてくださった。本当に、感謝してもしきれません。私たち皆、このベルゼに嫁いできてくださったのがあなたでよかったと、心から思っております。本当にありがとうございます。これからも誠心誠意、お仕えさせてください」


 あらたまってそんな話をされると、なんだかくすぐったくなってしまう。

 最初は嫌悪感をダダ漏れにさせていたマゼラ達。

 だけどレイのことがきっかけで、私の噂は噂でしかないのだと気づいてくれた。

 私という存在をきちんと見てくれた。

 私も、そんな彼らに出会うことができて、よかったと思う。


「こちらこそ、私を受け入れてくれてありがとう、マゼラ。これからもよろしくね」

 そう笑顔を向けると、マゼラもふんわりと頬を緩めた。


「──さ、できましたよ」

 鏡に映る私は綺麗に化粧が施され、髪も編み込みアップにしたシニヨンスタイルに結われて、どう見ても決闘に行くようには見えないお嬢様へと変貌を遂げていた。


「ありがとう3人とも。とっても素敵だわ。だけど……あの、決闘は?」

 ここにも番長はいなかったし、どうすればいいのかしら?

 それに旦那様も朝からどこに行かれたのか見当たらない。

 最初のカードがあったのはロイド様が寝ていた場所だし……もしかして、ロイド様、番長に拐われたんじゃ……!?


 私が尋ねると3人ともさっきのローグのように目を丸くして「決闘?」と首を傾げた。

 そしてマゼラはお仕着せのポケットから一枚のカードを取り出し内容を確認すると「そういうことですか……」とため息をついた。


 え、どういうことですか?


「奥様、こちらを。次のメッセージです」

 呆れながらも手渡されたそれを見ると、今度は

『花屋レフラにて待つ』

 という、またも場所を記した短い文。


「もう、いったいなんなの!?」

 私が訳もわからず声を上げると、マゼラは「まぁ、行ってみればわかるかと……」と苦笑いした。

「むぅ……わかったわ。花屋に行ってみるわね」

「はい。お気をつけて」

 私はマゼラやレイ、カイに手を振ると、今度はもう少し中心部にある花屋レフラに向かった。

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