第2話

Hは崖っぷちで瞳を閉じて深く深呼吸をした。

そして、崖から身を投げた。



ドサッ

現実に戻ったHはベッドから床に落ちただけだった。

ビックリしただけで、かすり傷一つ負ってはいなかった。ため息を吐きながらベッドに戻った。


今、Hの部屋は荒れ果てている。

壊れた扇風機、そこら辺に舞い散るドライフラワーの欠片達、中身が散らばった鉛筆立て。タンスの上は投げつけたティッシュ箱によって、鏡やアクセサリー入れがグチャグチャになっている。全部Hのしたことだ。


その惨状から二日経っているが、部屋を片付ける気力も、もうこれ以上生きる気力も、湧いてはこない。


二十年、Hは強迫性障害と戦い続けてきた。

あまりに辛すぎて、初期の頃の記憶はおぼろ気だ。何歳の時に何があったか、自分の年表すら作れない。記憶はあっても、どの出来事が前で、どの出来事が後なのか思い出せなくなっている。断片的な記憶しかない。



今は一週間前に✕✕回目の誕生日を迎えたことくらいは記憶に残っている。


今もHは様々な鎖に縛られている。

「ちゃんとしなくちゃ」という鎖。

「0か100でしか物事を考えられない」鎖。

「自分自身を好きになれない」鎖。


そして鎖の縛りに耐えきれず、何度も心の骨が折れて、全てを終わらせようとした。

でも、失敗に終わった。


どうせ鎖に縛られる人生なら

今は金色の鎖に縛られたい。

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