第6話 変な奴とドアの先

「詞詠!? なんでここに……」


 ドアの外の様子を見た面真は、驚くほかなかった。


 それも当然のことであろう。玄関のチャイムが鳴ったのでドアを開けてみたら、家を教えた記憶のない同級生──しかも面真の学生生活を悪い方面に壊してくれた張本人が、目の前に笑って立っていたのだから。


「どうしたの面真くん? 朝からお腹でも崩したの?」


「…………聞きたいことや疑問点がありすぎて頭が追いつかないんだよ」


「何から聞きたいの? 私がどーんと答えてあげるよ!!」


 ……どーんと答えられても面真としては困るのだが。どちらかといえばしっかり答えてほしい。


 やや気後れしながらも、面真は話を進めた。


「──なんで詞詠は僕の家に来たの?」


「え? 友達なら一緒に登校するのは普通じゃない?」


 ……それは確かに普通のことかもしれない。僕が中学校のときも、友達とワイワイしながら登校してくる人間は

いた。


 目にする度に「朝だからもう少し静かにしようという考えはないのか……?」や「そんなに横に広がって歩くと通行の邪魔になるのに」などとしか思わなかったが。


「うん、まぁそうだね。友達なら一緒に登校するのは普通のことかもしれない」


 僕たちが友達かどうかは置いておいて。


「それじゃあ、次の質問いいかな?」


「もちろん! まだ時間もあるし、じゃんじゃか答えちゃうよ〜!」


 詞詠の使う擬音がいちいち気に障るのは僕だけだろうか。まぁこんなのを気にし始めたらどうにもならないのだが。


「二つ目の質問なんだけど……なんで君は僕の家を知ってるの? 教えた記憶はないんだけど?」


 流石にプライバシーの問題もあるのでやや厳しく問い詰める。──すると、詞詠はやけに上手な口笛を吹きながら顔を明後日、どころか明明後日の方向に逸らした。


「ねぇ? なんで顔を背けるの? あと無駄に上手い口笛で学校の校歌を流すのやめない?」


「ヒュ〜♪ 全然はぐらかしてなんかないよぉ? というか、君もよく校歌だって気づいたね? まだ入学して一日しか経ってないのに」


「入学が決まったあたりから覚えていたよ。調べれば校歌くらい出てくるからね」


「そ、そうなんだ…………」


 ドン引きされた気がするが、そんなことは気にしない。それよりも──。


「話をすり替えるのはやめようか?」


「あ、バレた」


「バレルも何も、一回口笛を吹いて顔をそらしたらなにかあるのは明白だよ?」


 それで騙されてくれるのはよほどの善人か幼児向けアニメの主人公くらいなものだ。


「で、どうして僕の家を知ってるの……?」


 軽い恐怖と悪寒をにじませながら問う面真に、詞詠はしばらく黙っている。


 そろそろしびれを切らしそうになる頃、やっと詞詠は口を開いた。


「昨日……家に帰る君の後を尾行して…………」


「本当に何をしているの!?」


「君の家を知るチャンスだったから! つい出来心で!」


「言ってることがストーカーと同じなこと理解してる?」


 いやでも理解していなかったらこうも言うのを渋るはずはないな。そう考えると余計に腹が立つ気がしてくる面真だった。


「僕の家なんて知りたかったら教えるのに……あ、教えたからといってピンポンダッシュとかはやったら駄目だからね?」


「しないよそんなこと。人の迷惑になるじゃん」


 とすると詞詠は僕のことを人だと認識していないのか? うーん、分かんなくなってきたぞ。


「それより早く学校に行かない? こんなところでずっと喋ってたら学校に遅刻しちゃうよ!」


「それはそうだけど……僕はストーカーと一緒に学校に行くの?」


「ストーカーじゃないよ! 純粋なる友愛の追求者 と言ってほしいな☆」


「世間ではそれをストーカーと言うんだよ!!」


 そんな面真の――やや近所に配慮された大声が、詞詠ことストーカーの耳をつんざくのだった。

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