31【女性の立場】

 その後は貴賓用のダイニングに移動し、二人だけの食事となる。

 皿は晩餐用の品であるが、料理は普通コースの夕食だ。ただし飾り野菜のカッティングなどが素晴らしく、料理人の心意気を感じさせた。おそらく指定された普通素材を使い、手間で歓迎の気持ちを表わしたかったのだろう。

 アレクシスは、これは女性の仕事だと思った。そしてふと、仮面令嬢の言葉を思い出す。

「すばらしいですね……」

「うむ、新人ばかりに任せてみたよ。なかなかだな」

 アレクシスは王宮のマナーを完璧にこなし食事してみせた。

「たいしたものだ。親族たちもお前に感心していたぞ」

「いえ」

 ぜいたくな食材は一切ないが、東と西側地域の産品が若干。それと南にある港街から運ばれたであろう魚。イェムトランド地域の名産物もあった。庶民の味であるが示唆に富んだコースが終わる。

「さて……」

 ヴィクトルはナプキンで口を拭い、お茶が運ばれる。

(デザートはないのねえ。残念)

「今度王宮が企画する舞踏会がある。それにも参加してもらおうか。その前に演武会があるな」

「友人を招待できますか?」

「もちろんだ。誰なりと呼ぶが良い」

「ありがとうございます」

 誰を呼ぶのかもまた、誰からのとは言えないが評価の対象になるのであろう。全てが何かのお膳立てのような気がする。

(高級貴族令嬢を二人も招待する低級令嬢なんて、過剰演出が過ぎるけど……)

「お前の格につながると心得よ」

「はい」


 その後はバルコニーに出て、二人はソファーに並んで座りくつろぐ。アレクシスは話してみようかと思った。

「夢の中で女性も戦ってはどうか? などと言われましたが……。女性も戦うべきだと言っているようでした」

「仮面か……。王太子の女子親衛隊でも結成しようかな? さぞやきらびやかな騎士団ができるに違いない」

 ヴィクトルは知ってか知らずか、話をそらしている。面白おかしいような顔をした。

「ふふっ、私の周囲にいつも武装した、美しい令嬢たちがいるなど悪くないかもな?」

 婚約者候補選びでもこれだけもめるのだ。そのような集団を作れば、我も我もと自称他称の推薦が王宮に殺到するだろう。うちの娘は選ばれないのに、なぜあの家から選ばれるのだ! などの苦情もしかりだ。アレクシスはその光景が目に見えるようだった。

「さりとて、陰ながら私を助けるだけが仕事では、少々かわいそうではあるかな。さて、どうしたものか……」

 言いながらアレクシスを見据えた。

(それは仮面令嬢様のことですか?)

「今回マティアスは役にたたなかった。なるほど、女性を守るならばやはり女性が適任なのかもしれん。そう考えるのも悪くない、か……」

 アレクシスはしまった、と思った。話が思わぬ方向に飛躍してしまう。しかしここでマティアスを持ち上げるわけにはいかない。実績がなければ、それはただの贔屓だ。かえって立場を悪くしてしまう。

「女性の騎士団など、殿方たちが反対いたしますよね?」

「もちろんだ。しかし女性たちの賛成があれば実現は可能だな。王宮などは女性の力で動いているようなものだ」

「はい……」

 女性にとって、それは喜ばしい話ではある。しかしアレクシスにとっては――。

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