竹取物語

神在月ユウ

その1 竹取の翁という強者ありけり

 むかしむかしあるところに、竹取たけとりおきなという者がおりました。

 翁は竹取の名人で、日々竹を取っては加工し、日々の生計を立てておりました。

 本日もいつもと変わらず、翁は竹を取りに来ており、

「ふん!」

 翁は腰溜めに構えた太刀で竹を一閃。更に直上へ跳び上がると、目にも止まらぬ剣技で竹の枝葉を切り払い、着地の瞬間には納刀しました。

 

 竹取の翁とは一体……?


 翁は必要な量の竹を取ると、家へと帰ろうとします。

 と、そのとき—――

「グォォォォ—―――!!」

 目の前に、体長150センチを超える黒い体毛の獣—―オスの熊が跳び出してきました。しかも、翁目掛けて突進してきます。

 危ない!

 見る者がいれば目を覆いたくなる光景が繰り広げられました。

 なんと、翁は熊を正面から受け止め、その太い首を右手で掴み、200キロを超える体を持ち上げていました。

 どうやら危なかったのは翁ではなく熊の方だったようです。


 翁……というか、人でしょうか……?


「グ、グゥゥゥ―――」

 熊は持ち上げられた状態で首を絞められながら唸り声を上げますが、翁が鋭い眼光を向けるとビクリと震え、

「グ―――クゥゥゥン—――」

 なんだかかわいい鳴き声が出てきました。どうやら熊もここは媚びるところだと悟ったようです。

 翁はその空気を感じ取り、手を放します。

 熊はどすんと尻餠をつきます。

「去れ」

 翁が遠雷の如き声音で短く告げると、熊は慌てて逃げていきました。

「先日熊を狩ったばかりでなければな」

 何やら怖いことを言いながら、翁は竹を担いで家路につきました。


 …………翁はあくまで竹取を生業なりわいにしています。


「戻ったぞ」

 翁が帰宅すると、奥へと声をかけます。

「お帰りなさい」

 返ってきたのは、しわがれて—――などなく、張りのある若々しい女の声でした。

 着崩した着物が蠱惑的な妙齢の美女が、翁を出迎えます。

 二人の関係を語るのは難しいですが、かつて関係性を問われた際に女はこう答えていました。

「なぜこの翁と一緒にいるかって?そりゃあ、この国で一番の『オス』だからさ」

 この女もよっぽどですが、翁もどうやら『老いて尚盛ん』みたいです。

 翁は背丈が170センチあり、その腕は両手で掴み切れぬほど太く、胸板は着物の上からでもわかる仕上がりっぷりです。


 …………もはや翁という言葉の意味を考えたくなります。


 そんな翁(?)がいつも通り竹を取っていたときのことです。

 何やら金色に光る竹を見つけた。

 翁は警戒しました。

「ふんっ」

 そして一閃。

 光る竹を横一文字に切りました。

 なぜいきなり切ったのか。

 人は恐る恐る何かに触るとき、その辺の棒で突っつくことがあるかもしれませんが、翁にとってよくわからないものはとりあえず切ってみようという思考回路となっているようでした。

 翁の前で不審な行動をとってはいけません。とりあえずで斬られかねません。

 それはさておき、竹の断面を覗き込むと、そこにはなんと、小さな女の子が入っていました。

 顔を真っ青にして、脂汗をだらだらと垂らし、恐怖をありありと表情にした少女が、翁を見上げていました。

「あ、あぶ、あぶ、か、髪…、かみがしゅぱって、し、しぬ…、ころしゃれる……」

 がたがたと震える少女は、歯の根が合わない様子で震えています。

「た、たす、たすけて、くだしゃい…」

 そこへ、翁が笑顔で優しく声をかけます。

「よほど怖い目に遭ったのだろう。もう安心だ」

「ひぃぃっ」

 小さな少女は口の端を上げて覗き込んでくる翁にひどく怯えていましたが、翁は少女をそっと抱え上げ、家へ連れ帰ることにしました。

「いやぁ、はなじで~、まだじにだぐない~」

 少女はその間も必死に開放を訴えますが、

「あのままあそこにいるわけにもいくまい。あの林は周囲に猛獣が出るため村の者はまず近づかないので儂以外に見つかることはない。それに、もし熊にでも見つかれば、頭からバクバクと齧られるぞ。やつらはな、まず痛めつけて相手の抵抗を封じてから器用に爪で衣服を剝いでから、その肉に—――」

「づれでいっでぐだざい~」

 こうして、同意のもと、翁は少女を家に連れ帰りました。

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