駄能力研究部

ローリング・J・K

跳べない人はただの人だ。

20年前の事件により、世界は変貌した。

人々は『特殊効果』と呼ばれる異能力を発現した。

人々はその能力を何倍にも増幅させ合う為にそれぞれの徒党を組み、対立しあった。


俺の能力『パッケージパージ』は梱包された物体を作成者の意図通りに開封することが出来るという能力である。


例えば通販で届いたダンボールを睨むだけでカッターも無しに綺麗に開封できたりする。

まあこのようにあまり大した能力は皆持ち合わせていない。だから群れるのだ。



俺はキュポンッと勢いよくキャップの蓋をわざわざ能力で開き、ペットボトルの中の炭酸を煽った。


俺たちは空き教室でダラダラとすごしていた。

この3人が先程言った徒党と言うやつである。


この高身長メガネは『高山コウジ』。

能力はゴミを必ずゴミ箱に投げ入れる事が出来る『ダストシュート』。


それでこっちの金髪の素行の悪そうなのが『羽柴ミライ』。

能力は空中で一度だけジャンプ出来る『二段ジャンプ』。


他の生徒と比べてもとりわけ使い所が庶民的なメンツだ。



今の時代、能力目当てでつるむ人間を選ぶ事も珍しくはないが俺たちは別にそう言った集まりではなかった。


普通に読んでる漫画が一緒だったり、気が合うからつるんでいるのだ。


とは言え、とりわけ盛り上がる話題はやはり現代っ子らしく『特殊効果』についてだった。



「はぁ〜。なんで俺だけ....」


「元気出せよ羽柴。また鹿島さんとこ行こうぜ?」


「はぁ、でも今の貯金が10097円しかない...

これでダメだったら文無しだ。」


そう言う羽柴を引きずって鹿島さんのもとに向かった。





………





鹿島さんは如何にも清楚と言った少女でいつも笑顔を絶やさずそのショートボブを揺らしている。


「いくら持ってきた?」


「1万円コースでお願いします....」


「了解!毎度あり〜!」


鹿島さんは羽柴からひったくった1万円札を財布に詰め込むと手を目の前にかざした。


するとその手からゲームのテキストウインドウのようなものが現れ、空間に浮いた。





―――――

羽柴ミライ

【効果名:二段ジャンプ】


使用条件:

ジャンケンでチョキにグーを出して負ける


効果:

一度ジャンプした後に空中でもう一度だけジャンプできる。

―――――










チョキにグーを出して負ける...?






「....は?

そんなん発動できねぇじゃん....」






特殊効果にはそれぞれ使用条件がある。

例えば鹿島さんの能力は『スキル画面』。


対象者から現金を貰うことで、その金額に比例して細かい特殊効果の能力を開示できる。


羽柴は鹿島さんの能力診断も1000円コースの安い情報のみしか知らなかったので、今まで自分の能力の使用条件を知らなかった。


その為、羽柴は生まれてこの方、自分の能力を使用したことがなかった。


...この情報を見たところで変わらなかったが。



羽柴の使用条件はいわゆる、『矛盾条件』と言うやつだった。


20年前に人類が何故、特殊効果を使用できるようになったのかは謎だが、別に神からのギフトと言った訳でも無いらしく、


俺達のようにショボイ能力、酷いところまで来ると、羽柴の様に効果自体はあるものの、絶対に発動できない能力を持った人間も出てくる。




「うわああマジか、1万円無駄にして能力出せねぇこと分かっただけじゃねえか!」


その後も羽柴をなだめ、今回の放課後だべりの議題は如何にして羽柴の能力の使用条件を満たすか、ということになった。




………




「よし、神楽かぐら!いくぞ!」


「おう!」


羽柴の掛け声に俺は勢いよく返事した。


「「最初はグー、ジャンケンポン!!」」


羽柴の握り拳に対し、俺はチョキを突き出した。


「クソ〜!!

神楽のチョキに対して俺はグーを出したが、負けたぞ〜!!

誰がなんと言おうと負けたぞ〜!!」


羽柴はそう言うと「トウッ!」と勢いよくその場から跳躍し、眼下に見えない空気の床があることを信じてそこに足を伸ばした。


結果、俺の目の前には、勢いよく跳躍した後、やけに姿勢正しく直立した羽柴が居るだけだった。


「うーん、やっぱり思い込みじゃなくてマジでジャンケンのルールに従って、グーでチョキに負けないと行けないらしいね」


ズレ落ちたメガネを指で持ち上げながらコウジは言った。


「全く、お前らはいいよな〜。自分の特殊効果を好きな時に使えて。

能力の情報開示も無料だったんだろ?」



そう、俺たちは過去に自分の能力の情報開示は終えていた。


俺、『神楽かおる』と『高山コウジ』は小学からの幼馴染だ。

その小学校の同級生に情報開示系の能力者が居た。


鹿島さんとは違い、使用条件に金銭のやり取りは無かったため、俺達が恵まれた環境に居ることを知ったのは中学に入ってからだった。


知り合いに情報開示系能力者が居ない場合、自分の能力を詳細に知っている者は実は世の中でも少ないのだ。



「いやいや、僕だって中学卒業くらいまでずっと使えなかったし、この先一生使えないかもしれなかったんだぞ?」


コウジは自分のスマホから羽柴に画像を見せた。

そこには手書きのノートが写っており、その文にはこう書かれていた。




―――――

高山コウジ

【効果名:ダストシュート】


使用条件:

自分の身長が182cm以上の時


効果:

自分が放ったゴミを必ずゴミ箱に入れられる。

―――――


―――――

神楽かおる

【効果名:パッケージパージ】


使用条件:

心の中で『カタヒラレイコ』と呟く


効果:

梱包された物体を製作者の意図通りに開封する。

―――――




これは小学生の時に、その同級生に書いてもらったノートの内容を写したものだ。

だから俺の分まで写っている。



「中学卒業から高校入学までの間に、背が182cm超えたからよかったものの。

背が低かったら終わってたよ。」


「...それでも望みがあるだけマシだ。」



その後もあの手この手でジャンケンに勝ちながら負ける方法を模索したが、羽柴が勢いよく直立するのを繰り返すのみだった。


無数に繰り返されるジャンケン八百長にクラスの前を通る数名の生徒は苦笑していた。


すっかり日は傾き、橙色の光が教室に差し込んでいた。


羽柴の気もすっかり沈んでいて「あー」と意味の無い言葉を喚きながら自分の両手のグーとチョキを見つめていた。



「これが逆なだけでいいんだよ。チョキでグーに負けるってだけでいいのに...あ〜」




その時、教室に1人の中年男性が駆け込んだ。

不審者だと思うのも無理はないだろうが、よく見るとうちのクラスの担任だったので安心して欲しい。



「お前ら何やってるんだ!早く逃げろ!!」



「え...」



俺たちはむくりと机にあずけていた身体を起こした。

「なんすか?」



「3組の藤井の能力が暴発したんだ!いいから外に早く逃げろ!」


「え...?」と俺たちは互いに向き合った。



「3組の藤井?」

「あれじゃね?竜巻起こすやつ。」


すると天井の方から「ゴゴゴゴゴ」と聞いたことの無い程の風の押し引きする音が聞こえ、ガタガタガタとタイルや机が揺れ始めた。




「・・・・・」















「逃げろォオオオオオオオオオオオッ!!!!」



俺たちは開かれたドアに勢いよく飛び込んで廊下に出た。

大口を開いて涎が垂れようとも鼻が垂れようとも、気にせず走った。

「ゼッアッハッ」と少し後ろに中年男性の醜い声が聞こえたがそんな事も気にせず走った。


同じ様な顔をした他の生徒とも合流し、階段に辿り着く頃には放課後と言えども二十人程の塊になった。


「おらァァァァァァどけぇえええ!!!

ダンス部のお通りじゃああああ!!!

囲碁将棋部の陰キャ共は道を譲れぇえええ!!」


「ひっ!ボキュ達のことを馬鹿にしたな!?

同士達よ!なんとしても陽キャ達の前を走るイゴよ!!」

「部長!俺もついて行くでショウギ!!」


その塊の大移動は遂に2階に差し掛かった。

「ゼッアッハッ、チョッマッ」









「きゃあああああああああ!!!!」










その時、階段の窓の外から悲鳴が聞こえた。

その声は上から下へどんどん近づいていた。

羽柴は皆を押しのけて窓に足をかけ、気づいた時には大きく空中に飛び出していた。


その大きく前へ突き出した両手は、空から降るセーラー服の少女を受け止めた。


「きゃああああああ!!!!」

「うあああああああ!!!!」


落下する悲鳴が2つに増えた。


「羽柴っ!!」

おれは思わず叫んだ。

アイツはこういう事をする奴だった。

後先考えず人を救うような行動に。

ここは2階だ。

落ちれば軽傷では済まないだろう。


俺はすぐに窓から身を乗り出して下にクッションがある事を望んだが、そんな都合のいい物はありはしなかった。


「羽柴ーーーッ!!!」


思わずコウジも身を乗り出した。

そして遂に、下に落ちていく羽柴の悲鳴は途切れ「うああああ!!!おっ!おお...」と地面に無事着地した。


「え?」


俺の目には2人が一旦空中で止まってから着地したように見えた。



「もしかして...」

「...能力、出たのか」


俺たちは逃げるのも忘れてその場にヘナヘナとへたり込んだ。


下の方から

「よっしゃあああああ!!!!!」

と声が聞こえた。

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