第4話 化け鼠

 俺はこれでも”勇者の一人”だ。


 未だ生存者の一人も見つけられずにいる不甲斐ない勇者だが、過酷な任務をこなすうえで必要になる最低限の力は有している。


「コイツにするか」


 己が所持する武具の中から白鱗岩はくろがんで作られた手斧を二本、空より引き抜く。


 時間と空間に関する魔術を扱うクロノホルン学院に籍を置く生ける伝説、アーゼマンの手により刻まれた永続魔紋、空ノ宙箱からのそらばこをその身に有する俺たち勇者は念じることでアクセス出来る倉庫を常に持ち歩いているようなもので、そのおかげでこのように何もない空間から武器を取り出すといった芸当も可能になっているわけだ。


「ギィギャァァァッ! 」


 さながら剣のように、異常なほど発達した前歯を振りかぶる化け鼠。


(この縦振りの後には必ず、ディレイのない単調な横振りが二連続でくる…。 刺し込むなら― )


「今だ」


 ギィッン! という音を響かせ。


 タイミングよく打ち込まれた左の手斧が化け鼠の前歯を弾き、砕いた。


「終いだ」


 前歯を弾かれた衝撃で体勢を崩した化け鼠の首筋を狙い、右手に持つ手斧を叩き込む。


「ァガッッ…! 」


 勢いを殺さず、そのまま一思いに化け鼠の首を刎ねた。


(一対一であれば楽な相手だが…)


「ギギャッ! 」


「ギィ…ググッ! 」


「マズいな…」


 今の騒ぎを聞きつけ、周りを徘徊していた化け鼠たちが俺の元に集まり始めていた。

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