第2話 女性アンドロイド専門店『プリンセスプライド』

 年度末最後の日曜日、3月28日に僕は河城駅前にある大光百貨店に行った。

 6階に女性アンドロイド専門店『プリンセスプライド』がある。

 そこには人間そっくりのアンドロイドが40体ほど展示されていた。

 どれも外見は美人ばかり。幼女型から熟女型まで取り揃えられている。

 金額は廉価版の1千万円程度からハイエンドモデルの5千万円超までピンからキリまである。

 僕が持っている予算は2千万円。

 買いたいと思っているのは10代後半の容姿で、癒し型のAIを搭載しているアンドロイドだ。

 仕事で疲れて帰宅したとき、夕食を用意して待ってくれている優しい美少女がいてくれたら、すごくうれしい。

 それは男の夢で、けっして恥ずかしいことではないと思う。

 でも僕はこの店内で知り合いに会いたくはなかった。

 やっぱり少し恥ずかしいから……。

 モテない男が仕方なく美少女アンドロイドを買うところを、仕事の関係者や友人に見られたくはない。

 これも自然な感情でしょ?


 さいわい店内に知り合いはいなかった。

 客は大学生くらいの男がふたりと中年男性がひとり、そして僕だけだった。

 従業員は30歳ほどに見える濃いグレーのスーツを着た男性と20代中程くらいの濃紺のパンツスーツ姿をした女性のふたりだった。

 僕はじっくりと『プリンセスプライド』を見回った。

 一世一代の買い物だ。慎重に判断して買わなければならない。もし気に入った製品がなかったら、無理をしてここで買う必要はない。

 廉価版のアンドロイドでも、ルックスはとても素敵だった。

 人間ならかなり美人の部類。しかし、どこか定型的で無機質な感じがして、どうしても買いたいと思うほど魅力のあるものはなかった。説明書を読んだが、AIの性能も低い。低レベルの言語能力しか持っていなくて、高度なおしゃべりはできないようだった。

 中級品は1500万円から3千万円程度。僕はこの中から2千万円以下のアンドロイドを購入しなければならない。

 製品は水着を着て展示されていて、スタイルもわかるようになっている。購入者にとっては大切なポイントだ。

 よく品を見て、3体ほどに候補を絞った。

 

 癒し系女子大生アンドロイド1800万円。少し垂れ目で愛嬌がある。右目の下に泣きぼくろ。軽くウェーブがかかった明るい茶髪。体型はぽっちゃり型で、身長は159センチ。胸は大きめだ。この値段で中レベルの言語能力を持っているので、コスパは高い。買ってもいいと思った。

 ツンデレ高校生アンドロイド1980万円。こっちは吊り目で、ややきつい感じの顔立ちだが、かなりの美少女で、AIにデレ機能がある。ツンデレもいいかも、と思って惹かれた。170センチの高身長で、スレンダーな体型。胸ははっきり言って貧乳。腰まで届くストレートの赤髪。なかなか個性的な製品だ。

 中性的な魅力があるボーイッシュ高校生アンドロイド1950万円。アーモンド型の綺麗な目をしていて、黒髪ショートカット。身長は156センチで、バランスの取れたスタイルをしている。AIに幼馴染属性が組み込んであり、親友のような恋人になれるらしい。これも捨てがたい。

 どれを買おうか、かなり迷った。


 決めかねて、ハイエンドモデルはどんなものか見てみた。

 超美人で秘書タイプ。高レベル言語能力を持つアンドロイド。5300万円。

 女子高生生徒会長タイプ。クレバーでかつ優しい性格を組み込まれたAI搭載アンドロイド。5200万円。

 ものすごく可愛くてオタク属性を持つ女子中学生アンドロイド。ブラコン機能付きの妹タイプ。6千万円。

 すごく買いたくなる品ばかりだが、僕にはとうてい買えない金額だ。


 不良少女タイプで愛情に飢えていて、実はとても尽くす女の子というAI設定のアンドロイドがあった。言語機能は当然高レベルで、高知能の人間並み。容貌は完璧に整っている。目は大きめで瞳の虹彩は赤い。髪色は黒だが、ピンクのメッシュが入っている。身長は160センチで、かなりスタイルがいい。その容姿をひと言で表すなら、黄金比の美少女と言うほかなかった。

 ひとめ惚れしたが、ハイエンドモデルだ。僕に購入できるわけがない。

 いちおう値札を見た。

 5500万円。だが、なんと二重線が引かれ、1980万円にまで値引きされていた。買える! どうしてこんなに安くなっているんだろう?

「すみません、このアンドロイドについておうかがいしたいんですけれど……」

 僕は近くにいた女性店員に声をかけた。

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