月の住人
浮世 雫
1話 地球からの離陸
丸い球体を見上げた。太陽の光が反射して目に飛び込んでくる。手のひらを目の近くに持って行って眩しさを遮った。不思議な形の店だとトトは思った。
「こんな場所に本当に売ってるのかなぁ」
ママから貰った携帯の位置情報をもう一度確認する。現在地を示す赤いマークが点滅。
「よーし」
意を消して球の中に入った。意外にも明るい。それが第一の感想だった。
先客がいるのか、天井には蛍光灯がまんべんなく光を放っている。
建物の奥に進むと椅子が二つ見えた。子供のトトには理解し難いスイッチが並んでいる。
そこには壁一面に何かの電線が張り巡らされ、大きな窓からは外が見える。
「あ」
よく見ると二つ並んだ椅子の下に蓋が付いている。蓋を開けると、下に行く梯子が続いていた。トトは興味本位でその梯子を降りる。
下には別世界が広がっていた。ゴミ一つ付いていない白い壁で覆われたその部屋の中央には、およそトトの五倍ぐらいの大きさはある透明な箱がある。
「よかった。ここで合ってたんだ」
箱の中には野菜、肉、魚、お米、パン。ざっとみるだけでも沢山の食べ物が詰め込まれている。箱の中は特殊な科学技術を使っているのか、全ての食べ物が冷凍されていた。
「冷凍だと腐ってない。これでみんな喜んでくれるはず……」
トトは立ち止まって、背負っていた空っぽのカバンのチャックを開けた。パパ、ママ、弟、妹達が生きていくためにで出来るだけ多くの食料を持って帰らなければいけない。
ただトトにとって困ったことがある。
「この箱どういう作り……なの?」
トトは箱どうやって開けるのか考えながら、部屋をぐるぐる歩いた。
「うーん……うわっ」
足元が振動したかと思った次の瞬間、急に地面が傾いた。起こるはずがないと思っていた出来事にトトは頭の処理が追いつかず、背中から転んだ。咄嗟に頭だけは首を縦にして守った。それでも白い床に体の大部分を打ちつけた。
「ううっ……なんなの一体?」
トトが言葉を発した頃にはすでに床は水平に戻っている。
嫌な予感を感じたトトは梯子を上り、白で覆われた部屋から出た。大きな窓の外には空が広がっていた。椅子の上に登ると目下に自分の生まれ育った場所見える。それも徐々に小さくなっていく。
「嘘……ここってまさか……」
トトは自分が入った丸い建物が宙に浮いているのを理解した。それは止まらず宇宙に向かって上昇している。
トトは入り口の方に戻り、ドアがびくとも開かないということを知った。そのまま急いで、スカートのポケットに入っていた携帯を取り出して画面を見る。「圏外」と書かれている文字を見た時、一気に足が重くなっていく感覚が芽生え始めた。
そして、再び窓のある部屋に戻った時に、妙な音声が聞こえてきた。
『間も無く、大気圏に突入します。機能対応。宇宙外環対策システムに変更しました』
何かのスイッチが切り替わった音が響く。
それが何か確かめる間もなく、窓の外から黄色く燃えるような光りを浴びた。トトは窓を眺める。体は汗をかいていた。これからどうなるのだろうか。どこに向かうのだろうか。
ママから頼まれたおつかいが、こんな事になるなんて思いもしなかった。
わたしは自分が大好きな家族の元から、おそらく随分と離れてしまった。まだママはトトの帰りを待っているに違いない。
光の世界の内側でただ一人、絶望を感じた。
気づけばいつの間にか光りを抜けていた。窓の外は黒い闇の世界に覆われた。下に見えるのは青の海とその表面にまだらの白い雲。さらに緑と黄色の大地。
それらのコントラストに意識を持って行かれたトトは椅子の上に立ち窓の外を眺めた。
「宇宙に来ちゃった」
おもわず声が漏れた。
トトのような一般市民にとって、宇宙に行けることなど、人生で一回あるかないかの大旅行だった。これが家族とだったら大きく喜んだだろう。実際はひとりぼっちの恐怖の旅の始まりになってしまった。
そういえば自分がさっきまで居た場所は何処だっけとトトは思った。学校の授業で日本の形と地名は覚えていたため、大体の場所に目処が立った。雲はかかっていない為、大地だけはよく見える。
トトはもう一度スカートの中から携帯を取り出した。もしかしたらママから連絡が来ているかもしれない。そんな淡い期待を込めての画面を見た。
しかし携帯はもはや意味を持たず黒い画面から変化しない。トトはその時、黒い画面は宇宙の黒さと似ていると思った。乗っている丸い建物、いや宇宙船はトトの気持ちとは裏腹に地球からどんどん遠ざかっていく。
もう二度と会えないかもしれない。決して裕福では無かったけれど、いつもトトが学校やおつかいから帰ってくると優しく微笑みかけてくるママとパパ。たまに喧嘩しても、すぐに仲直りして、また遊んでくれる弟と妹のことを思い浮かべた。
今いる宇宙からすれば、全て大したのとのない存在なのかもしれない。トトは2つ並んでいる椅子の片方に座った。そのまま椅子の向きを回転させ、宇宙の景色が見える窓からを背にしてうずくまった。
暗い世界でトトは目を瞑った。それは起きたら夢だったと期待をしたのことだった。
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