第18話 悪魔の果実

 サリークスさん達は、僕に向かって斬り込んできた。先日と同じように、スピードもパワーも、下駄を履いた僕の方が断然強く、3対1でも余裕にいなしていた。


「ほう、なかなかやるではないか、この歳にしてこの腕とはな、じゃがな。これでどうだ。」


 黒マントの男は、何やら魔法をサリークスさんにかけると、断然速度が上がってきた、パワーも強化され、僕が押し込まれて行っている。


「うっ、」


 後ろに引きつつ何とか三人の攻撃を防いでいると、いつの間にか広い庭まで来ていた。庭は、壁と、建物に囲まれ外から見えなくなっている。


「へへへ、そろそろ限界かな・・・。アレックスくんよ~」

「うっ、三人がかりで支援魔法ありで、やっとか、大人として恥ずかしくないか・・・。」

「ムキー・・・・ってならねぇよ、そんな事でなるってたら既に死んでるわ。」

「そうか・・・。ではこれではどうかな。サモン ウサ吉。」


 どわーん


 ウサ吉が召喚され、みんなが目が点になっている。そう言えば先日はちょこんとかわゆく座って見ているだけだったな。


「ぎゃーはははは、迷宮に入って、サモンをゲットしたからって、レベル1の一角ウサギ召喚しちゃってばっかじゃないのー。ぷっぷー」

「サリークス、馬鹿にしすぎだよ、馬鹿だけどね、ギャハハ」


 などと3人は余裕で僕とウサ吉を馬鹿にし、黒マントも肩を揺らしている。


「ウォーン」


 ウサ吉が、僕に寄り添ってきて、気合の入った目で訴えてきた。


「ウサ吉、やってみるか。」

「ウォーン」

「いけ!」


 僕が合図した瞬間、ウサ吉は、サリークスさんに突っ込み、サリークスさんは、反応すらできず吹っ飛んでいった、他の三人は目が点になっている。一角ウサギと言えば、普通雑魚モンスターの一つとして、突っ込んでくるが軽い為、角が当たっても大したことないし、まして吹き飛ぶことなんか想定できない、僕等位の子供冒険者の練習用のモンスターというイメージで定着している。レベルで言えば一桁前半。二桁レベルの一角ウサギなんて見た人はほぼいないと言って良いだろう。ウサ吉は、現在レベル130。20台の階層に居ても遜色ないレベルだ。僕に勝てないサリークスさん達が一人で相手になるはずはない。そんなレベルなんて想像できないし、一角ウサギでそこまでレベル上げる冒険者は過去居なかっただろう。


「ウサ吉の力分かったか。」

「ウォーン」



 それから、僕等は、サリークスさん達を圧倒していく。サリークスさん達が支援魔法を受けても、一対一ではまだ僕に分がある状況だ、サリークスさん達はポーションを飲みつつ戦うが、2分もしないうちに、黒マントを除く3人をボロボロにし、追い詰めていった。


「うっ、もうダメか。」

「あきらめる必要はない。」


 そう言うと、諦めた言葉を放ったサリークスさんに、黒マントは、黒いリンゴを投げつけた。大きさは手のひら大で、一口リンゴだが、とにかく黒かった。


「なんだ?これ」

「食べろ、一時的だがパワーアップできるぞ。お前たちも」


 そう言って、他の二人にもリンゴを投げると。


「ありがてぇ」


 3人は、そのリンゴを一口で食べた。その瞬間、3人の体が震えだし、どす黒い煙の毛穴かた噴き出してきた。その煙に包まれ、徐々に体が黒くなっていき、背中の皮がギギギーと音を立て裂け、ドラゴンの様な翼が生えてきた。髪は真っ黒になり、口は裂け、犬歯が伸びて牙の様になり、体が一回り筋肉で大きくなっていった。僕はその変化を見て立ちすくむしかなかった。3人の震えが止まり、出来上がった姿は、神話に出てくる悪魔そのものだった。


「うっ、なんだ・・・。なんだー。力が力が満ち満ちてくるぞー。」

「俺たちは、何でもできるんだ、そんな力が俺たちにあるんだー。」

「ひゃーひゃひゃひゃひゃ。ひゃーひゃひゃひゃひゃ。」

「どうした、アルカード。」

「ひゃーひゃひゃひゃひゃ。」

「アルカード。」

「ひゃーひゃひゃひゃひゃ。」

「キャリオット、アルカードが」


 アルカードと呼ばれた小太りの男は、狂ったように笑いだし、その後ブクブク膨らんでいった。


「どうした、アルカード。」

「ひゃーひゃひゃひゃひゃ。ひゃーひゃひゃひゃひゃ。ひゃー」


 ボーン


 轟音を立てて、体が破裂し、そこら中真っ黒な血だらけになった。


「耐えられなかったか。」

「なに、耐えられなかったって。」

「その言葉のままだ、アルカードは、この悪魔の果実の力に耐えられなかったんだ。」

「は?俺たちを人体実験に使ったのか?」

「そうだな・・・。人体実験、言い得て妙だな。まぁ、人体実験は山ほどやっているからな。」

「なんだと、俺たちをなん・・・・」

「おい、キュリオット」

「そろそろ効いてきたかな・・。」


 黒マントに反抗的だった二人の目が、虚ろになってきた。


「お前たちは、もう私の戦闘奴隷だ・・・。まずは、あいつらを殲滅しろ。」

「「はい・・・。」」


 そう言うと、僕達の方を向いた、今までの彼らとは比較にならないスピードで僕達に突っ込んできた。


 ドーン


 攻撃を受け止めた僕と、ウサ吉は、そのまま壁まで吹き飛んでいった。


「うっ。」


 僕は、息を詰まらせた。明らかに僕より上だ、今の僕では手が出ない・・・。何とか立ち上がった時には、目の前に、サリークスさんがいて、僕の顔を右手で叩くと、僕はそのまま飛ばされていった。一方ウサ吉は、キュリオットさんの蹴りを何とか避けているが、キュリオットさんに分がある感じだ。僕が立ち上がると、サリークスさんは顔を叩いてぶっ飛ばす、立ち上がる叩かれる、吹っ飛ぶ、立ち上がる叩かれる、吹っ飛ぶ、立ち上がる叩かれる、吹っ飛ぶ、立ち上がる叩かれる、吹っ飛ぶ、10回ほど繰り返しただろうか、サリークスさんは楽しんでいるように僕を叩き、僕は意識が薄れてきた・・・。


「やばい・・・。もうどうなってもいいか・・・。」


 そう僕は小声で呻くと、サリークスさんはニカッと笑い、僕の腹を思いっきり蹴り飛ばした。僕は吹き飛び、今まで考えてきたことがどうでもよくなり、ただ自分の命を守りたくなった。


「サモン ホネ吉、サモン うし吉、うげー」


 僕は蹴り飛ばされながら


「サモン スラ吉、サモン ゴブ吉」


 と4体を召喚すると意識を手放した。






「モー」


 数分だっただろうか。僕が意識を取り戻すと、2人の悪魔となった者達は意識を失しなっており、黒マントはいなかった。うし吉のおかげだろう、僕の体は全快に近い状況になっていた。僕は2人を縛り上げ、ウサ吉以外を戻し、救いを求めに白き薔薇団の本部に向かった。

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