第16話 合格の証

「ロッシ、何とか合格はGETしたよ。サリークスさん達も捕まえたし、僕達のクランも出来るんだぜ。早く起きてくれよ・・・。なぁ。」


 僕は、ロッシの病室に来ていた。ロッシのベッドの隣で、ロッシの手を握り話かけていると、金髪ロングヘアーの看護師さんが入ってきた。


「アレックスさん。言いたくないですが、最終的にロッシさんは目覚めるかどうか・・・。」

「どうしてですか、看護師さん」

「出血のショックが激しくて、意識を失い、そのまま出血が進み脳に障害が発生した可能性が高いんです。そのまま起きないことが多いかと。急変の可能性もございますので、ご実家へご連絡頂いておいた方がよろしいかと。」


 へっ、僕は甘く見ていた。よく考えてみたら1週間も起きないのはヤバいんだ。13歳の僕は、楽観的に考えていたが、1週間も起きないってそりゃおかしい。水も飲まなければ、ご飯も食べない、死ぬだろう・・・。って部分もあるが、根本的に意識が戻らない理由が無いことに急に不安になってきた。


「えっ、」

「君はまだ子供だから軽く考えていたかもしれないけど、出血で意識が戻らないって、危険だからね。今はまだわからないけど・・・。」

「どうにかならないんですか?」

「自然に目を覚ますことはあるかもしれないけど、まだ目を覚まさないとすると、2・3日の休眠ではなく、意識の問題になっちゃうから。脳に何らかの異常があるんだろうね。さっき言ったけど、長引く可能性も、意識が戻らない可能性も覚悟してね。」

「ど、どうにか戻る方法は無いですか?」

「うーん。わからないけど。最上級ポーションで、いくつかあるって聞いたことあるわ。本当に、細かいことはわからないけど。」

「ありがとうございます。当たれるだけあたってみます。」

「そう、頑張ってね。」


 幼馴染の辛い状況が頭から離れない中、僕は宿舎に戻り、食堂での合格証授与式に向かった。



 セイルーン冒険者学校の食堂兼講堂で、狼の顔をした厳つい獣人のベルヌーイ先生が、演台にあがり大声を出した。


「はーい。皆さん、ダンジョンアタック研修お疲れさまでした。今日は合格者の、証明書授与式になります。証明書は、学校長である冒険者ギルドセイレーン支部長であるドラモンド・ライモルド子爵より授与されます。Eランクのギルドカードは別途受付に証明書を出し受領してください。」


 壇上にドラモンド・ライモンド子爵が登壇すると、一気に緊張感が高まった。


「今期首席、スノー、アリアペア。」


「「はい。」」


 そう言って登壇して行った。スノーさんはいつもの通り凛々しく、アリア様は愛らしい感じで順番に証明書を受け取った。


「皆さん、まずはありがとうございます。私と、アリアが頑張って来れたのは、皆さんのお陰です。また、今までご指導頂いた教官方ありがとうございました。私と、アリアは、来週には帝都に向かいます。ですが、拠点はこのセイレーンと、アリアの領地であるアクアに用意しました。帝都で研鑽を積んでいつの日か戻ってこようと思っています。その時、皆さんに恥ずかしく無いよう一生懸命1日1日頑張ってこようと思います。その時まで皆さんご壮健で。」


 スノーさんがカッコよく挨拶を終えると、アリア様が続いた。


「まずは、この研修で亡くなられた友の冥福を祈らせて下さい。」


「ご存知の通り、私は、貴族であり、帝国南部を占めるセイレーン公爵家の直系です。将来、多くの命を守る為に、皆さんに命をかけた命令を下さなければいけないかもしれません。それが貴族であり、支配者としての義務なのだと教えられてきました。皆さんと一緒に学んできて、将来皆さんに命をかける命令を出すだけの勇気をだせるか不安になってきました。私は皆さんを守る義務があり、同時に皆さんに命をかけさせる命令を出す義務があります。その勇気を学ぶ為に、帝都に修行に行ってまいります。また、出来ればそんな命令を出さなくて良い領土にしていく為に。皆さんありがとうございました。」


 二人のスピーチに目に涙を浮かべる者も多く、盛大な拍手に包まれた。


「次、次席、ハリオゥト、リーバイエルペア」


・・・・


「最後から2番目、アレックス、ロッシペア。ロッシは、意識が戻らぬか。」


「はい。」


 僕は大声で返事をし、壇上に向かった。壇上で証明書を受け取る時、子爵が小声で話しかけてきた。


「アレックス、ロッシは大丈夫か?」

「子爵。まだ意識が。」

「そうか、お前に1つ伝えなければいけないことがある。この会が終わった後、ギルド長室にきなさい。」

「わかりました。」


 握手しながら、小声で言葉を交わし、ロッシの分まで証明書を受け取った。僕に向かってみんなが拍手をしてくれた。


「ありがとう。みんな聞いているかと思うが、先日ロッシは、腕を失い、意識もまだ戻っていない。多分このままだと、意識は戻らないだろう。僕は決心した。何年かかっても、ロッシの意識と腕を取り戻す。ロッシが生き続ける為に金を稼ぎ、世界中の迷宮を潜って材料を集め、何としてもロッシを治すポーションを手に入れる。その為なら、法に触れなければ、どんな苦労でも背負っていくつもりだ。みんなにも協力をお願いすることがあるかも知れないが、その時は、頼む手を貸してくれ。」


 そう言って、僕は壇上から降り、深々と頭を下げた。拍手をするだけじゃなく、泣く者もいて、熱気を漂わせながら、最後のベアとなった。


「最後、1002って本当頑張ったな。ザキウェル、リーマンペア。」

「「はい。」」


 二人はカッコつけて返事をし、壇上に向かった。壇上で証明書を受け受け取った。


「皆さんのおかげで、ギリギリでしたが、何とか合格することが出来ました。あと少しミスをしたら届かなかったそんな状況です。最後の一瞬まであきらめず死ぬ気で頑張っていた相棒のザキウェルにありがとうと伝えたいと思います。ありがとう。」


 リーマンは、ザキウェルに頭を下げ、二人抱き合った。みんなが拍手で二人を祝福した後、ザキウェルが大声を出した。


「てめぇら、俺はEランクだ、お前らはFランクにすらなってない。俺の勝ちだ、それと、ロッシ、今は無いが、お前はEランクに上がったが、意識はなくざまぁねぇな。俺の勝ちだよ。ははははは、はは」


 そう言っている、ザキウェルの目から大粒の涙がこぼれてきている。


「ロッシ、お前悔しかったら、意識を取り戻して、俺を倒しに来いよ・・・。おまえ、おまえ、おまえは死ぬまで俺のライバルだ。すまねぇ」


 ザキウェルの涙が止まらない。


「いつまでも待っているから、意識を取り戻してこい。遅くなったら、俺は手が届かない場所まで上り詰めるからな・・・。アレックス頼んだぞ、何かあったら俺らを頼れ、無理すんなとわいわねぇ、一緒に無理させろ・・・。よろしくな。」


 そう言うと、ザキウェルは演台から降りていった。みんなの涙と、拍手に囲まれながら。

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