【遠藤初陽視点】好きなキャラは?④
想定通り、声の大きさはさっきと変わらないはずなのに、まるで俺もその場にいるかのごときボリュームで二人の会話が聞こえてくる。
「もっかいまじまじと、かぁ。でも、何をどう見れば良いんだ?」
「そうだよね。ええと、とりあえず僕は萩ちゃんの好きなキャラを見れば良いんだよね?」
「だな。そんじゃ俺は金剛をよく見てみるか」
真面目だな、あいつら。
提案した俺が言うことではないけど、そんな真面目にやる? なーに言ってんだ
「でも、何度見ても、ただの黒髪のクールキャラとしか……」
「だよなぁ、こっちも底抜けに明るい元気キャラっていうかさ」
「さっき遠藤君はどっちも僕らに似てるとか言ってたけど、そんなことないよね。僕、こんな作中最強のクールキャラじゃないし」
「俺だって主役なわけないし、ここまで突っ走る馬鹿じゃないしな。……まぁ、多少ちびの要素はあるかもだけど」
と、互いのキャラを短くまとめたところで、一瞬の間があく。
「待って萩ちゃん」
「何だ夜宵」
「萩ちゃんはね、属性が主役だよ」
「は?」
「確かに金剛君ほど突っ走ったキャラではないけど、太陽みたいに明るくて、元気で、一緒にいるだけで楽しい気持ちになるんだから、絶対主役なんだよ! あと、萩ちゃんはちびじゃない!」
行った――! 神田が仕掛けたぁ――!
やっぱりお前男前だな!
「お、俺が主役のわけねぇじゃん! それを言ったら夜宵だってな」
「僕が何? 僕は違うからね? 僕はこんな何でも出来る優等生なんかじゃ――」
「いーや! お前は案外何でも出来る! 勉強だって俺より全ッ然出来るし、体育だって苦手とか言うけど、一部のやつだろ? それに、料理だって出来るの、俺知ってるんだからな!」
「料理って、オムライスだけでしょ? 僕それくらいしか作れないもん」
結婚しろ――っ!
なんだよお前ら、俺の
「だけど、俺が食いたいっつったら、次の日にはすげぇの作ってくれたじゃん! 卵ふわとろのやつ! あんなのどう考えたって普段から料理してないと無理だろ!」
「そ、それは萩ちゃんが食べたいって言うから、徹夜で練習して……」
徹夜で何やってんだ特進クラス――っ!
そんで南城ももっとそこ突っつけ! 俺のために徹夜で……? ってトゥンクしろ!
「で、でも萩ちゃんだって、僕が昔逆上がり出来なかった時、つきっきりでコーチしてくれたし、自転車を補助輪なしで乗れなかった時も練習に付き合ってくれたし! 最近だって、バスケのシュートのテストとか、サッカーのリフティングのテストの前には、出来るようになるまでつきっきりで教えてくれたじゃん! 夜中まで!」
「だって、夜宵が恥かくとこなんて見たくねぇもん!」
南城もやってんじゃねぇか! 夜中まで特訓って何だ! 昭和か! よく親が許したな! ってそうだこいつらお隣同士じゃねぇか! そりゃあ両家も公認ですわな! おい、神父まだかよ!
「と、とにかく! 俺は遠藤が言ったとおり、夜宵は清雨に似てると思う! シュッとしててクールでカッコいいし、何でも出来るのにそれを鼻にかけたりしないし、優しいし、いざって時にはすげぇ強いし!」
「それを言うなら萩ちゃんだって金剛君に似てるよ! きらきらの茶髪も、にこって笑った時の八重歯もすごく可愛いし、誰とでも仲良くなれるのも絶対才能だし、運動神経抜群で陸上競技も球技も何でも出来るのとかほんと尊敬でしかないし!」
……こいつら馬鹿なのかな。
特にどちらかといえば神田だな。お前、特進クラスなんだよな? え? 読解力0なん? ここまで言われてんのに、この期に及んでまだお互いの気持ちに気付かんとかある? 売り言葉に買い言葉で言い返してる場合じゃないだろ。萩ちゃんそんなに僕のこと……? ってトゥンクトゥンクするところだからな、ここ。
えー、やっぱり俺が行った方が良いのかこれ。先ほどの発言をもう一度おさらいしてみましょう、とか言って黒板使って解説すべきなのか?
はー、やれやれ仕方ない、と扉に手をかけたその時だ。
「ま、待て。夜宵、お前いまなんて言った……?」
「は、萩ちゃんこそ……」
おっ!?
これは!?
この感じは!?
勢いで吐き出すだけ吐き出したらちょっと冷静になったんだな?!
これはもうどう考えたって気付いただろ!
だよな?!
そうなんだよな!?
ごく、と誰かの喉が鳴った。
俺じゃない。
あの二人のどちらかだ。
そんな音まで聞こえんの?! って思ったかもしれないが、俺くらいになると顔の横とかに浮かんでる『ギクッ』とかも聞こえるから。だとしたら、『ごく』なんて当たり前に聞こえるに決まってる。そうだろ?
さて、ここで気を抜くわけにはいかない。こいつらはなんやかんやで美味しい展開に持ち込まれるのだが、良いところで必ず邪魔が入るのである。ポッキーゲームを阻止した教頭然り、体育館倉庫に飛び込んだ
今回は絶対に俺が止めて見せる!
そのためにいま
だから、頼むから、とっととお互いの思いに気付いてくれ!
もうお前らのどっちかが動きさえすればあっさり決まるんだ!
教室の中の二人に全神経を集中させつつも、廊下の角から誰かが飛び出してや来ないかとアンテナをビンビンに張る。しんと静まり返った空間に、ぱたぱたという足音は聞こえない。少なくとも、あと五分は平和だろう。どうだ、お前達。いまのお前達なら五分もあれば十分なんじゃないか? 心の中でそう問い掛けながら、ちらりと視線を向けた。
その時だ。
「ウワーッ! やべぇ――っ!」
そんな声が聞こえて来た。
教室の外からだ。
しまった! 今回は廊下じゃなくて
慌てて立ち上がり、勢いよく扉を開ける。
と。
ガシャ――――ンッ!
窓ガラスを派手に割って飛び込んできたのは、サッカーボールである。
「うわぁっ!?」
「わぁっ! 何!?」
幸い、二人は廊下側の端の席にいたため、ガラスの破片が直撃することはなかったようだ。こうなればここで黙ってなどいられない。俺は激怒した。必ず、推しカプ誕生の瞬間に水を差した無粋な輩を始末しなければならぬと決意した。
誰だ、
「いやー、ごめんごめん。怪我なかったか?」
「ごめーん、やよちん、大丈夫~?」
のんきな声を上げて、割れた窓から、ぬぅ、と顔を出したのは、神田と同じクラスの
「なゆ君と南雲君だったのか。
「ごめんって。だって、
「おい、俺のせいにすんなよな。那由多が下手なんだろ」
「この場合はね、どっちも悪いよ。とりあえず、僕先生呼んでくるから、二人共責任持ってここ掃除してて。きっちり叱ってもらうからね」
「夜宵、俺もついて行こうか?」
「僕一人で大丈夫だよ。萩ちゃんはここをお願い。二人が逃げないように見張ってて」
「よっしゃ任せろ。おい、村井と紺野、靴履き替えて早く来い。俺も手伝うからちゃっちゃと片付けようぜ。先生が来る前にある程度きれいにしといた方が良いだろ。遠藤、悪いんだけど、隣のクラスの箒も持ってきてくんない?」
「お、おう」
小走りで隣のクラスに駆け込みながら俺は思った。
南城はいまの神田を見て「相手がクラスメイトでも悪いものは悪いときっぱり言える夜宵カッケー」って思ってるだろうし、神田も神田で「いやな顔一つせず掃除を手伝う萩ちゃんって優しくてカッコいい」とか思ってるはずだ。俺にはわかる。
ただ、今回も駄目だったか、とそれだけが残念である。
★次回予告★
スポーツの祭典、体育祭開催!
非情にも敵チームになってしまった二人は、なんやかんやでイチャつくことが出来るのか!?
今度こそ二人をくっつけるため、鬼神と化した
次回、『なんやかんやで体育祭を楽しむ二人・借り物競争編』!
ご期待ください!
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