第21話 うるさい


 窓の外から車のエンジン音が聞こえてくる。

 わたしは胸に抱いていたエプロンを慌てて戸棚に隠した。


「ただいまあ」


 わざとらしく語尾を伸ばしながら、姉がリビングに入ってくる。


「……帰って」

「なんだよ、つれないねえ」

「……」


 そんなこと言われても、苛々してしまうものは仕方ない。

 夜野ちゃんがいた手前抑えていたけど、実は私と姉の関係はすこぶる悪いのだ。

 どれくらい悪いかと言うと、もう全然顔も見たくないぐらい。そしてわたしがそう思っていることは姉もわかっているはずなのだけど。


「よいしょっと」


 だと言うのに、姉はわざわざ目の前の席に座ってくる。

 きっとこれもわざとなのだ。わたしは立ち上がって自分の部屋に引き上げようとする、と、


「いやあ、緊張したよ。だってあんまり似すぎてるもんだからさ」


 そんなことを言う。


「……うるさい」

「お前もあんな子、よく見つけてきたね」


 言うな。


「一目見たときビビったもんね。まさかと思って、冷や汗かいちゃったよ」

「言うなって言ってるでしょ」

「言ったっけ?」

「……」

「あはは。まったく、一途だねえ」

「うるさい」


 言われなくてもわかってるんだ。そんなことは、わたしが一番。



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