第10話 あんしん
懺悔すると、正直なところ、私は安心していたのだ。
「……」
なにに安心したのかって、それは、相手も自分と同じように「へん」な家庭環境だったことに。
今までそんな同年代に出会ったことはなかったから、なんだかほっ、としてしまったのだ。
私には悪い癖がある。
それは物事をなにかと卑屈に考えてしまうという癖で、さらにそれを他人にまで求めてしまう、という悪癖。なんていうか、その相手と距離が近くなればなるほど、その相手にも自分と同じような境遇を求めてしまう。
別に大袈裟なことじゃなくていい。
ちょっと母親とうまくいっていなければいい。
ちょっと親が家にいなかったりしたらいい。
ちょっと独りきりの部屋で晩御飯を食べていてくれればいい。
ちょっと友達がいなかったらいい。
ちょっと寂しい思いをしていてくれたらいい。
今こうしてお話をしているあなたも、つまりは、私と同じように孤独――みたいななにかを抱いていてほしい。
そんなことを思ってしまうのだ。
「……」
でもそれってあんまり性格がいいとは言えないよねえ。
その人の不幸を求めてしまっているのだから。よくないことだ。仲のいい友達には幸せになってほしいと思うのが当然のことだと思うし、だから、私はあまり社交的な性格になれなかった。
なにより、仲良くなれそうな相手が親や友達の話をしているのを聞いて(例えそれが愚痴や文句だったとしても)、なんだか満たされているような気がして、がっかりしてしまう、という自分の心の身勝手さが嫌だった。
「……」
だから、今回の「安心」も、本当はよくないことなんだろう。
いくらお金に不自由はさせていないといえ、高校生の娘を一人で家にほったらかしているなんて酷いと思うし、『義務だから産んだ』なんてことを実の子供に言うなんて、酷い話だと思う。
私は本当は憤らなければならない。
友達(になりかけてる相手)が、そんな目に遭っているのだから。
「……」
だけど私は笑ってしまった。不謹慎にも。
そして鎌倉さんも笑っている。
そのことに私は、ちょっとだけ安心してしまったのだ。
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