第193話 わがままばっかり


 重ーい話を聞いた後にある意味、もっと重い話を聞きそうな予感がしてきた。


「アルク、あんた、男装が好きなの?」

「それは別にどうでもいいよ。今だって、こういう服を着てるでしょ。フィーレがどうかは知らないけど、フロンティアではこういう服は女性が着るものなんだ」


 アルクが着ているのは白いワンピースみたいな薄着の服だ。

 これは地球でも女子用の寝間着に見える。

 つまり、アルクは男装家ではない。

 ということは…………


「あなた、女の子が好きなの?」

「うん」


 目に一点の曇りもない……

 えー……


「じゃあ、さっき、お風呂で私の裸を見て、興奮してたわけね」


 さいてー…………とは言えない。

 お互い様だからだ。


「あー、確かにきれいだと思ったけど、そういうのじゃないよ」


 興奮はしなかったわけか。

 まあ、俺もお前に興奮はしてない。

 貧弱すぎるんだもん。


「じゃあ、どういうのよ?」

「うーん、女性が好きというより、好きな子が女性って感じ?」

「私?」

「きれいな人だとは思うけど、年齢を考えなよ」


 冗談なのにマジレスされた。

 しかも、ディスられた。


「ミーアじゃないわよね?」

「違うね。ミーアのことは好きだけど、家族みたいなものかな」


 常に一緒のお姉さんって感じかな?

 男子中学生なら猿になるだろうが、こいつは一応、女子だ。


「じゃあ、誰よ?」

「長くなるけど、それでもいい?」

「短く言いなさい」

「えーっと、本当に小さい頃から知ってる子だね。同い年なんだけど、商家の娘さん」


 同い年ということは13歳か。


「どこで会ったのよ? あんた、引きこもりじゃん」

「パーティーがあるんだよ。最初に会ったのは僕が5歳くらいの時かな?」


 本当に子供の時だな。


「5歳でパーティー? つまんなそう……」

「つまんなかったね。だから僕はその子とずっとお話をしてた。同い年だったから話が進んだんだ。他の子供もいたけど、僕達が一番若くて、その次が10歳だった」


 確かに5歳と10歳じゃあ話は合わないだろう。


「その時から好きなの? 友情じゃないの?」

「うーん、友情じゃないね」


 その辺の感情の深入りはやめておこう。


「その子にはあんたが女の子なのはバレてないの?」

「フロンティアのしきたりなんだけど、12歳を超えるまでは男女の服は一緒なんだよ」

「なんで?」

「うーん、性犯罪予防とだけ言っておく」


 そういうことね。

 というか、逆に12歳を越えたらいいんかい……


「それでバレてないわけね」

「というか、バレるも何も僕を男の子扱いしてきたのは向こうなんだよ。大きくなったら結婚しようねとか、私を守ってねとか言われたし」


 子供らしくて微笑ましいね。


「まさかと思うけど、それで明確に否定もできず、引っ込みがつかなくなって、今日まで来てるわけじゃないわよね?」

「来てるわけだよ」


 アルクがうんうんと頷いた。


「バカねー……」

「仕方がないでしょ。悲しませたくないし、あわよくばとも思ってる」


 あわよくばって何だよ……


「王様、あなたの意見は?」


 俺はここまで聞いて、親である王様に聞いてみる。


「この子が男子だとしても王位継承権が低かった。だから特に問題にしてなかった。この子の個性だろうと思っていたんだ」

「いや、向こうの親御さんとかに言いなさいよ」


 ダメだろ。

 下手をすると、その子がグレちゃうぞ。


「2人共、まだ子供だったし、そういうのも成長かと思ったんだ。だが、病気で他の子が死んで嘘が真になってしまったんだ」

「周りがこの子が次の王になるって決めつけて、あなたも引っ込みがつかなくなったわけ?」

「そういうことだ……」


 アホだ。

 アホ親子だ。


「バッカじゃないの?」

「私もそう思う。だが、もはやそうも言っていられない。この嘘をつき通し、この子が次の王になる」

「王妃様は誰? アルクの次の王様は? アルクが産むの? それとも養子?」

「その辺の問題がある。最悪は私が誰かに産ませて、その子をアルクの子とする」


 ぐだぐだ王家だな。

 まあ、転移魔法のことがあるからどうしても血筋を絶やすわけにはいかないのだろう。


「ものすごい綱渡りね」

「この世界自体が綱渡り状態なんだ」


 情けなー……


「アルク、あんた、今からでも僕は女の子って発表しなさいよ。そんでもって適当にお婿さんをもらいな。それがお国のため」

「嫌だよ。僕、子供なんて産みたくないし」


 わがままだなー。

 まあ、俺も今は女だからといって、男に抱かれて子供を産めって言われたら嫌だけど。


「王様、自分の子はちゃんと育てなさいよ」


 子供がいない俺が言うのもなんだけど……


「この子は末っ子だったからな。自由に生きてほしかったんだ」

「もうそんなことを言ってはいられないんでしょ?」

「さっきも言ったが、今さら言えんし、次の王を巡った争いが起きる。今の状況でそれはマズい」


 それは嘘ではないだろうが、素直に自分の支持率が下がるのが嫌って言えばいいのに。


「本当にアホね。アホ王家だわ」

「否定はせん」


 してほしかったわ……


「アルクさー、あんた、その子とどうなりたいの?」

「どうって?」

「バレたくないのはわかったわ。でも、その後、どうすんの? いつかバレるわよ。あなたはこれから女性として成長していく。公の場では鎧で誤魔化せるでしょうけど、普通の服ではアウトよ」


 子供なら何とかなっただろうが、13歳はかなりの限界だろう。

 今後、成長するにつれて、明確に男女の差が出てくる。


「もう会うのはやめた方がいいかな…………男に産まれたかったなー」


 大人になったらさぞ美人になるだろうにもったいないな。


「その子と結婚したい?」

「うーん、まあ……約束したし」

「その子を抱きたい?」

「抱く?」


 性教育くらいしろよ……


「自分の子供を産んでほしい?」


 俺はカエデちゃんに産んでほしい。


「それはよくわかんない。でも、誰かに盗られたくはない」


 NTRは嫌なのね。

 脳を破壊されたくないわけだ。


「あなたは本当に女を捨てる気はある?」

「捨てるって何? 性別は捨てるもんじゃないでしょ」

「言い方を変えましょう。男になりたい?」

「うん」


 しゃーない。

 俺的には女の子の方がいいと思うが、こいつにはこいつの想いがある。


「これは言う気はなかったんだけどなー……」


 俺はそうつぶやきながらカバンから白色の液体が入ったフラスコを取り出した。


「何それ? 白いポーションなんか初めて見た」


 でしょうね。

 これまでの話を聞く限り、性転換ポーションはこの世界にはない。


「まずは謝罪をします」

「何の?」


 アルクが首を傾げる。


「フィーレにもフロンティアにもエレノア・オーシャンという魔女は存在しないのです」

「いや、目の前にいるじゃん」


 アルクは俺を指差しながらツッコんだ。


「フィーレ……というより、私の国では戸籍というあなた達でいうステータスカードみたいなものがある。だけど、私にはない。何故ならエレノア・オーシャンという人間はこの世にはいないから。つまり、私の本名はエレノア・オーシャンではない」

「偽名?」

「そう、偽名。私の名前は沖田ハジメ。あ、ハジメがファーストネームで沖田がファミリーネームね」

「知ってる。一部の国では逆なんでしょ。わかりづらい……」


 しゃーない。


「そういうわけで私はエレノア・オーシャンを名乗っているだけの沖田ハジメなの」

「なんで偽名なの?」

「私は錬金術のスキルで金儲けを企んだ。だが、そうなると、目立ってしまう。それはマズい。例の錬金術師さんがそれを証明したでしょ」

「あー……確かに」


 まあ、世界大戦までは予想してなかった。

 本当にエレノアさんを作って良かったと思う。


「でも、名前を変えるだけでは不十分だと思わない?」

「それは思う。君ぐらいの人だと、すぐに沖田ハジメってわかるでしょ」


 その通り。

 学校の同級生、元の会社の人。

 俺を知っている人は大勢いる。


「だから私は名前と共に容姿を変えたの。見せてあげましょう。私の真の姿を!」


 ラスボスの第2形態っぽいな。


「真の姿?」

「そうよ! 見てなさい!」


 俺はそう言うと、立ち上がり、TSポーションを飲み始めた。

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