第182話 歓迎


 ゲートをくぐった先はとある部屋だった。

 とはいえ、この前のような狭い取調室ではない。

 ここは広く、誰かの部屋のようだった。

 というか、天井付きのベッドに豪華な机、絵画……

 そして、目の前にいる豪華な鎧を着たイケメンとメイドを見る限り、王族の部屋っぽい。


「ここ、あんたの部屋?」


 俺は目の前にいるアルクに聞いてみる。


「そうだよ。この前の部屋は取調室。今回はお客様を招くんだからちゃんとした場所じゃないとね」


 アルクはそう言って、近くの丸テーブルにつくようにジェスチャーをした。


「ふーん……ちゃんと礼儀を学んできたようね……って、あら? 来れたわね」


 俺は右手の先にはヨシノさんがいた。


「そのようだな」


 ヨシノさんはそう言って、俺から手を離し、キョロキョロと部屋を見渡す。


「あのさー、しょうがないからそっちの人も呼んだけど、怖いって何? 君、絶対に怖くないよね?」


 どうやらゲートに向かって言った俺の言葉を聞いていたらしい。


「女の子が1人で知らない土地に行くなんて怖いに決まってるじゃない」

「女の子って……26歳が何を言ってるんだよ……」


 アルクがそう言うと、ヨシノさんの表情が暗くなった。


「あれ?」

「アルク、私とこの子は同い年なのよ」

「あ、ごめんなさい」


 アルクはヤバいっていう顔をしながら謝る。


「ミーア、あなたはこいつに何を教えているの? 礼儀以前に最低よ」


 俺達はデリケートなお年頃なんだぞ!


「大変、申し訳ございません。あとでよく言っておきます」

「いや、君はどういう立場なんだよ……」

「あん?」


 反省してねーのか?


「いえ、何でもないです…………と、とにかく、2人共、座ってよ。お茶を用意するからさ」


 俺とへこんでいるヨシノさんはアルクに勧めらるまま、椅子に座った。

 すると、アルクも座り、メイドのミーアはお茶を準備し始める。


「私達でも飲めるものでしょうね?」

「え? 知らない」


 このガキ……


「あなた達って普段、何を食べているの?」

「肉とか魚だよ。君達の世界から食料を援助してもらったものは食べられたし、そんなに変わりはないと思う」


 ふーん、ならいいか。


「まあ、最悪はキュアポーションでどうにかなるか…………」


 俺がそう言うと、メイドの動きが一瞬止まった。


「ただのお茶だから大丈夫だと思うよ」

「まあいいわ。お茶を用意しろって言ったのは私だし」

「そうだよ」


 アルクがうんうんと頷く。


「君、そんなことを言ったの?」


 ヨシノさんが呆れたように俺を見てくる。


「こいつら、私を狭い取調室とやらに閉じ込めたのよ。それなのに何も出さないから礼儀を教えてあげたの」


 まあ、あの部屋に似合うのはお茶ではなく、かつ丼な気もする。


「君って、本当に物怖じしないな」

「良かった。エレノアって、フィーレの中でも特殊なんだ。フィーレ人が全員、こんなのだったら嫌だもん」


 特殊……

 こんなの……


「ミーア!」


 殺せ!


「だから殺しませんって…………アルク様、失礼ですよ」


 お茶を用意しているミーアが真顔でアルクを諫めた。


「あ、ごめん」


 アルクが素直に謝ると、ミーアが用意してくれら自身を除く、3人分のお茶をテーブルに置く。


「毒味しましょうか?」


 ミーアが冗談めいた笑みで聞いてきた。


「そうね。アルク、先に飲みなさい」

「え!? なんで僕!?」

「普通はホストが先に飲むものよ」


 俺はそう言いながらもカップを手に取り、お茶を飲む。


「あら、美味しい」


 飲んだことがない味だが、香りも良く、美味しい。


「ねえ、僕、君の言動についていけないんだけど」


 ついてこなくていいよ。


「うーん、紅茶か? わからんなー」


 ヨシノさんもお茶を飲んだ感想を言う。


「こっちの人もかい…………」

「キュアポーションがあるって言ったでしょ。それに鑑定の結果、毒は入ってない」


 もっとも、鑑定に出てきたサバンの茶が何かわからんが……


「君、鑑定のスキルも持っているんだね」

「持ってないわね」

「え? じゃあ、鑑定って?」

「そういうものもあるのよ」


 俺には鑑定コンタクトがあるのだよ。


「よくわからないなー」

「わからなくていい。ミステリアスでしょ?」

「うーん、胡散臭いっていう言葉の方があってるよ。あ、ミステリアスで思い出したけど、各国への返答はあんなんで良かった?」

「まあ、及第点ってところね。若干、悪意があったような気もするけど」


 得体の知れないだの、本物の魔女だの、言葉のチョイスが良くない。


「ミステリアスっていう言葉がよくわかんなくてね。とりあえず、明言は避けたよ」

「まあ、いいでしょう。私の思惑通りになったし、賄賂の分は働いてくれたわ」

「お姉さん、僕は賄賂なんてもらってないよ。僕は君から親善の証として贈り物をもらっただけ。それと返答は一切関係ない」


 ……ということにしたいんだね。

 王族だし、賄賂はマズいわけだ。


「そうだったわね。お友達っていい言葉」

「だね。それで手紙は読んでくれたんだよね?」


 ようやく本題か……


「ええ、読んだわ。読んで、話を聞いてみようと思ってきたんだけど、差出人のシャルルさんがいないわね?」

「シャルルは僕の父なんだ。後で会ってもらうけど、まずは軽い説明でもしようと思ってね」


 なるほど。

 いきなり王様に会うのは俺としても嫌だし、先にこいつと話せるのは良かった。

 まあ、こいつも王子様なんだけど。


「説明って?」

「まずなんだけど、エレノアは透明化ポーションや回復ポーションをいっぱい持ってるっていうことでいいんだよね?」

「そうね。売れるくらいには余裕があるわ」


 ポーションもそれを入れるアイテム袋も大量にある。


「まあ、簡単に言えば、それを売ってほしいわけだよ。特に回復ポーションだね」

「どれくらい欲しいの?」

「いっぱい」


 ガキめ……


「数字を言いなさい」

「その辺は陛下と相談して。でも、あるだけだと思う」

「レベルにもよるけど、1000、2000は軽く行くわよ?」

「それでも買うと思う」


 マジ?

 そんなにいるの?


「なんでそんなに必要なのよ?」

「ちょっと事情があってね。その辺は…………うーん、どうしよ? やっぱり言えない」


 トラブルでもあったのかね?

 モンスターにでも襲撃されたか、戦争中か……


「まあいいわ。あなたのお父様と話をする」

「そうして。あと、礼儀なんかは気にしなくていいよ。異世界の人にそんなものは求めないからね」


 嫌味かな?


「私が小さいと言いたいの?」

「いや、そんなつもりで言ってないよ…………小さいとは思うけど」


 このガキ!


「ミーア」

「やりませんって……」


 まったく……

 しつけのなってないガキだわ。


「君のお父さんと会うのは承知したが、謁見の間的なところか? 兵士とかはいるのかい?」


 ヨシノさんが確認をする。


「私も気になってた。兵士は嫌よ」


 怖いもん。


「兵士はいないよ。ここにもいないでしょ?」

「前もだったけど、護衛はいないの?」


 ミーアしかいないじゃん。


「一応、この子が護衛。こう見えても強いんだよ?」


 アルクがそう言うのでチラッとミーアを見る。


「ヨシノさん以下ね。護衛として大丈夫かしら?」


 弱くはないと思う。


「私は君の挑発レベルが心配だよ」


 ヨシノさんが首を振った。


「大丈夫。3で止めるから」

「あ…………もう3になったんだ」


 うっさい!


「正直に言えば、僕は転移魔法が使えるから大丈夫なんだ。それに君達は僕を攻撃できない」

「あら? どうして?」

「部屋を見渡してごらんよ」


 俺にはこいつの言っている意味がわかっている。


「この前の取調室もそうだったわね。扉がない」


 この部屋には扉がない。

 窓すらない。


「私もそれが気になっていた。なんで扉がないんだ?」


 ヨシノさんも気付いていたようだ。


「王族は転移魔法が使えるって言ったでしょ? これが王族の最大の自衛方法」

「襲撃者が侵入できないってわけね」


 そら、安心だわ。


「そういうことだよ。だから君達が僕を攻撃するのはおすすめしない。ここで干からびることになるよ」


 閉じ込められるわけね。


「まあ、元よりあんたみたいな子供を斬る気はないわよ。私、子供が好きだし」


 こいつはちょっとあれだけど……


「子供を食べそうな感じなのに好きなんだね」

「こっちの魔女も子供を食べるの?」


 ヘンゼルとグレーテル?


「魔女なんか伝承だからわかんないね。でも、そういう話もあるよ」


 あんまり地球と変わんないな。


「ふーん、そういう文化に興味があるわ」

「ごめんけど、それは無理。この部屋というか屋敷を使った要因の一つにこっちに文化を教えないっていうのがあるんだよ」


 なるほどね。

 ここなら窓がないから外が見えない。

 隠すにはピッタリだ。


「ねえ、あんた達ってなんでそんなに隠すの? 関わろうとしないの? 接触してきたのはあんたらじゃん。普通はもっと交流をするもんなのかなって思うけど?」

「簡単に言えば、戦争が嫌なんだよ。こっちに攻める気がなくてもそっちが攻めてくるかもしれない」


 まあ、攻める可能性は大いにあるね。

 歴史がそれを証明している。


「だったら接触しなければいいじゃん」

「接触をしないといけないほどのことがあったんだよ」

「なーに? 水不足? 飢饉?」

「まあ、そんなところ…………実はね、僕らの世界…………君達のいうところのフロンティアは一度、滅んだ世界なんだよ」


 急にぶっちゃけだしたぞ、おい!

 隠すんじゃないんかい!

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