第160話 地下遺跡の地下って地下すぎ


 俺は地下への階段を降りだすと、カンテラを掲げながらスイッチを探す。


「ないわねー」


 この建物の入口の所にあったような出っ張りがない。


「ですね。もしかしたらここには上のようなスイッチがないかもしれません」


 俺のすぐ後ろにいるナナポンは何かの確証があるようだ。


「どうして?」

「階段の下に通路があるんですけど、そこの壁にはかがり火を焚くような籠みたいなものがいくつか設置されています」


 原始的だな。


「追手防止かな? それとも予算不足?」

「さあ? とにかくそれが設置されているってことは例の塗料が塗ってないんだと思います。それにもしスイッチがあるなら自衛隊員の人がつけていると思います」


 なるほど。

 そりゃそうだ。


「となると、暗いままか……まあ、ダイアナ鉱山と同じね」

「八腕スケルトンがいるんですよね? 私も調べてみましたけど、強いみたいですよ?」

「ふふっ。では、8本の腕を落とした後に首を刎ねてあげましょう」


 だるまにしてやる。


「あのー、毎回思うんですけど、多分、エレノアさんはすごいって思われたいんでしょうが、普通に猟奇的で怖いですよ」

「技術がいるのよ?」

「無駄ですし、サイコですよ」


 サイコ……

 傷つく……


「普通にやるわよ」

「そうしてください。そろそろ階段も終わりますよ」


 ナナポンにそう言われたのでカンテラで下を照らすと、確かに階段の終わりが見えた。

 俺はそのままカンテラを照らしながら階段を降りると、周囲を観察する。


「確かにかがり火用の籠があるわね」


 階段の下の通路は幅が2、3メートル程度しかないが、壁の両面には金属っぽい籠が数メートル間隔で設置されていた。


「誰か燃える物を持ってない?」


 俺は階段を降りてきた4人に聞いてみる。


「ないこともないが、長時間も燃え続けるようなものはない」


 柳さんがかがり火用の籠を観察しながら言う。


 うーん、こういうのって何だろう?

 木材とかか?


「仕方がないわね。このままで行きましょう」


 俺がそう言うと、ナナポンが俺のローブの袖を引っ張った。

 これは敵が来た合図だ。


 俺は前方に向き直すと、カバンから剣を取り出す。

 すると、ナナポンを除く他の3人が通路の奥を照らしてくれた。


 俺が照らされた通路の先を見ていると、よく聞いたカタカタという音が聞こえてきた。

 そして、ゆっくりとスケルトンが現れる。


「気持ち悪いわねー」


 現れたスケルトンは普通のスケルトンと同様に骸骨だが、左右の腕が4本ずつあり、気持ち悪い。

 しかも、全部の手には剣が握られていた。


「そんなに持っても意味ないでしょ。というか、まさか、ドロップ品はスケルトンの剣が8本とかいうオチじゃないわよね?」


 もっといいアイテムをドロップするんでしょ。


「残念。スケルトンの剣が8本だ」


 1本5000円だから4万円か。

 いい値段だと思うが、アイテム袋がないと嵩張りすぎるな。


「まあ、もらえるものはもらっておきましょうか……」


 俺はそう言って、剣を構える。

 スケルトンはカタカタと音を鳴らしながらゆっくりとこちらに向かってきた。

 すると、ある程度の距離となると、走り出す。


「スピードは変わらないのね……」


 八腕スケルトンは普通に遅かった。

 スケルトンとほぼ変わらない。


 俺は見かけ倒しだなーと思いながら八腕スケルトンの接近を待っていると、八腕スケルトンが右の腕を全部振り上げた。


 えー……

 そう使うの?

 意味ねーよ。


 俺はアホかなと思いながら踏み込むと、腕を振り上げてガラ空きになっている右肩口を切る。

 すると、振り上げていた4本の腕が剣ごと地面に落ちた。

 しかも、八腕スケルトンは右側の剣と腕を失ったことでバランスが完全に崩れ、左側に倒れてしまった。


 俺は倒れて、腰が地面についている八腕スケルトンの頭部に向かって剣を振り下ろす。

 すると、八腕スケルトンの頭部が縦に割れ、煙となって消えていった。


 その場には8本もの剣が残された。


「自衛隊員がこれにやられるってことはないわね」


 俺はしゃがみ込むと、8本の剣を拾いながらつぶやく。


「エレノアさんが強いのでは?」


 ナナポンはかわいい。


「いや、それもあるけど、単純に弱い。訓練を積んだ4人の自衛隊員が負ける相手ではないわ」

「そうですか…………あの、また来たんですけど」

「んー?」


 ナナポンに言われたため、前を向く。

 すると、確かにさっきと同じ八腕スケルトンがこっちにやってきていた。


「私は剣を拾うのに忙しいからあなたが火魔法を撃ちなさい。一撃だから」


 8本の剣は多いわ。


「いけますかねー?」


 ナナポンはそう言いながら杖を構える。


「いける、いける。腕と剣が8本あるだけでそれ以外はスケルトンと変わらないから」


 せめて剣をもっと上手く使えばいいのに同時に振るだけ。

 正直、ハイドスケルトンの方が脅威度は上だ。


「いきますよー…………ファイアー!」


 俺がすべての剣をカバンに入れ終えると、ナナポンが得意の火魔法を放った。

 すると、ナナポンが放った火の玉が八腕スケルトンの身体に直撃し、燃え広がる。

 八腕スケルトンはもがき苦しむように暴れるが、火を振り払うこともできずにその場で崩れ落ちた。


「あ、ホントに一撃だった」

「腕以外はスケルトンと一緒だからね」


 ナナポンに火魔法は強力でスケルトンなら一撃で倒せる火力がある。


 俺は八腕スケルトンがいた位置まで行くと、見張りをし、ナナポンにドロップしたスケルトンの剣を拾わせる。

 そして、ナナポンがドロップ品を拾え終えると、また奥に進んでいった。


 ナナポンの透視で敵や罠の存在がわかるため、特に警戒する必要はないが、周囲が暗いため、慎重に進んでいく。

 少し歩くと、ふいにナナポンの足が止まった。


「敵?」

「いえ……何か落ちてます」


 落ちている?


 俺は何だろうと思い、カンテラで照らしながら歩いていくと、何かが積み重なっているのが見えてきた。


「スケルトンの剣ね」


 8本のスケルトンの剣がきれいに並べられて通路の隅に置いてある。


「先行した自衛隊かしら?」

「多分、そうだ。この並べ方はウチの部隊だな。持ち帰れないドロップ品は邪魔にならないように隅っこに並べるようになっているんだ」


 柳さんが前に出てくると、しゃがみこんで剣を見る。


「持って帰っていいわよ」

「いや、君達が持って帰ってくれ。私のアイテム袋には入りきらんし、そういう契約だ」


 正直、遺品っぽいから嫌なんだけど、まあ、売ってしまうからいいか。


 俺はきれいに並べてあるスケルトンの剣を拾うと、さらに進んでいった。

 道中、やはりスケルトンの剣が並んでいたため、それも拾ってカバンに入れる。

 そして、そのまま進んでいくと、丁字路に突き当たった。


「どっちかしらねー?」


 俺は丁字路の前で立ち止まると、チラッとナナポンを見る。

 しかし、ナナポンからの指示がない。


「どうしたの?」


 俺は案内役のナナポンが指示をしないため、どうしたのかなと思い、聞いてみる。


「いえ、すみませんが、あっちに行ってもいいですか? 寄り道になるかもですけど……」


 ナナポンは小声でそう言うと、左の通路を指差した。


 寄り道?

 つまり金の延べ棒は右にあるってことだ。

 でも、ナナポンは左に行きたい。

 何かあるってことかな?


「いいわよ。どっちみち地図を作らないといけないし」


 俺達はナナポンの指示で金の延べ棒がある右方向とは逆の左の通路を歩いていく。

 そのまま少し歩いていると、前方に扉が見えてきた。

 ただし、その扉はこれまで木製の扉とは異なり、頑丈な鉄っぽい扉だった。

 しかも、扉には何か変な模様が描かれている。


「何これ?」

「さあ? この先が例の脱出口ってやつじゃないか?」


 俺とヨシノさんは扉に近づき、観察する。


「頑丈そうだし、そうかもね」

「それにしてもこの模様はなんだ…………え?」


 ヨシノさんが模様を見ていると、変な声を出した。


「どうしたの?」

「これ、文字だ。しかも、読める…………」


 これ、文字なん?

 というか、こんなもんを読めるわけね―じゃん…………って、読めるし。


 俺はそんなバカなと思い、模様に注目すると、確かに文字が読めた。


【この先、立入禁止】


 こう書いてある。


「これ、フロンティア人の文字じゃないか?」

「そうかもね」


 俺もヨシノさんも翻訳ポーションを飲んでいないんだけどなー。

 もしかしたら翻訳ポーションを飲んだ後に文字を書くとこうなるのかもしれない。

 翻訳ポーションを飲めば、リスニングはもちろんのこと、しゃべることもできるし、文字も読める。

 だったら翻訳ポーションを飲んだ俺が日本語で文字を書いたら外国人にも読めるって考えるのが普通だろう。

 今度、クレアとハリーに会ったら試してみるかな?


「柳さん、前田さん、確認してくれ」

「ああ」


 ヨシノさんは2人に扉を見てもらうことにしたようだ。

 2人は前に出ると、扉を観察し始める。


「確かに読めるな」

「この先、立入禁止…………扉の向こうが立入禁止エリアってことですかね?」

「多分、そうだろう」


 柳さんと前田さんが扉を触ったりしながら考察していると、ナナポンが俺の袖を引っ張った。

 俺がナナポンを見ると、ナナポンがスマホ画面を見せてくる。


『扉の先が透視できません。真っ暗で何も見えないんです』


 透視できない……

 何もないってことだろうか?

 それとも魔法?


 俺はスマホを取り出すと、文字を打ち出す。


『何もないってこと?』

『いえ、阻害されている感じがします』


 魔法か…………


「柳さん、その扉は絶対に開かないとは思うけど、開けちゃダメよ。本当にゲートを閉じられるかもしれない」


 俺はナナポンの透視結果からこの先が立入禁止エリアと結論付けた。


「私もそう思う。とにかく、これは上に報告する。おそらく上も同様な判断を下すだろう」


 まあ、謎の文字で立入禁止って書いているんだから素直に従っておくのが無難だろう。


「そうしてちょうだい。じゃあ、戻りましょう。今度は逆の方に行くわ」


 俺達は扉を諦めると、来た道を引き返していった。


 よっしゃ!

 いよいよ黄金ちゃんとの対面だぜ!

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