第122話 秘密厳守


 俺はヨシノさんとの電話も終わったので、引き続き、ソファーでまったりしていた。


「とりあえず、明日、渋谷支部で気を付けることは明言しないことですね」


 電話を聞いていたカエデちゃんが頷きながら忠告してくる。


「そうだな。俺の話術のスキルが光るぜ」

「ちょっと心配ですけど、頑張ってください。さすがに私はついてはいけませんので」


 カエデちゃんは絶対についてきてはダメだ。

 かわいいから桐生に狙われてしまう。


「まあ、大丈夫だよ。実はさー、この話よりももっと重大な話があるんだよー」

「これよりもです? Aランクの桐生さんのユニークスキルがわかったことよりも重大なんです?」

「うん。とんでもない爆弾。俺さ、昨日の冒険でレベルが上がったんだよ」

「ええ。ステータスカードを見ましたし、レベルが10になりましたね。昨日のお寿司はそのお祝いです。ごちそうさまでしたアンドおめでとうございます」


 まあ、俺のステータスカードは何故かカエデちゃんが肌身離さず持っているのでわかるだろう。


「レベルが10になったことで新しいレシピを覚えたわ」

「レベルが上がるごとに増えますもんね。では、記念すべきレベル10で覚えたレシピを発表してください」

「レベル10で作れるようになったアイテムは…………」


 なんか俺の脳内にドラムロールが流れている気がするな。


「生命の水でーす!」


 じゃーん!


「生命の水? 錬金術らしく、ホムンクルスでも作れるんですか?」


 あー、そっちを連想したかー。


「ホムンクルスなんかいらんわ」


 その気になれば、似たようなものを10月10日で作れるわい。

 カエデちゃんは大変だろうけど。


「じゃあ、どんなのです? ホムンクルスじゃないのならちょっと嫌な予感がしますけど」


 まあ、ホムンクルスの方も十分にヤバいんですけどね。


「フロンティア限定にはなるんだけど、死んでも生き返ることができる」

「やっぱりですか…………」


 さすがに名前で想像はつくわな。


「フロンティアだと、人も死ねば煙になって消えるんだろ?」

「ですね。私は幸運にも見たことはありませんが、結構、ショックを受けるものらしいですよ」


 そうかもしれない。

 まるでゲームのようであり、人が人でなくなるような感覚になりそうだ。


「この前もすぐに帰ったし、俺も見たことはないな……」


 クレアとハリーが殺した誘拐犯はその場に置いて帰ったもんな……

 もちろん、次に来た時は何も残っていなかった。


「装備しているものも服も何もかも消えるらしいです。ですので、死んだら装備をはぎ取ることを推奨しています。嫌でしょうけど、遺品になります」


 もし、ナナポンが死んだら装備やらなんやらをはぎ取るの?

 嫌だな……

 それはショックを受けるし、トラウマにもなるだろう。


「不気味というかなんというか……」

「実際、悲しむ先がないんで葬儀とかひどいらしいですよ…………私も人が消える光景を見たらトラウマものです。多分、その場で引退を決意したでしょうね」


 遺体のない葬儀か……

 仲間が死んだ場合は最悪だろうな。


「きついな……」

「ですね。それで生き返るってどういうことです?」

「人間の場合だと、モンスターと違って、消える前にちょっと時間があるらしいじゃん。それまでに生命の水を飲ませれば生き返るんだってさ」

「なるほど……人が消えるタイミングはレベルが高いと時間がかかる傾向にあると聞いたことがあります」


 なんだそれ?

 実験でもしたんか?


「怖いなー」

「ですねー。ちなみに材料は?」

「それなんだけどさ、レベル3の回復ポーションと命の結晶らしい。レベル3の回復ポーションはいくらでも作れるからいいんだけど、命の結晶がわからん。カエデちゃん、知ってる?」

「命の結晶…………聞いたことがないですね」


 やっぱりか……


「貴重なアイテムかもしれんな。これまでは簡単に作れたけど、ナナポンがレベル10になって透視のレベルが上がったことを考えると、レベル10は特別なのかもしれない」

「その可能性はありますね。ちょっと調べてみますよ」

「おねがい。ネットは完全に空振りだった」


 昨日、寿司屋から帰った後にスマホで調べたのだが、何も出てこなかった。

 未発見アイテムの可能性が高い。


「このことはナナカちゃんやヨシノさん達には?」

「ナナポンには言った。でも、ヨシノさんとリンさんには言ってない」

「ヨシノさんはダメですか?」

「あの人には仲間がいるからな。それも20人以上も」


 本メンバーは元サツキさんのパーティーメンバーだから数人だろうが、準メンバーが多いと聞いている。

 まあ、俺もその準メンバーだろう。


「言えませんね……」

「サツキさんの元パーティーメンバーってことはお前の元仲間だろ?」

「そうですね。お世話になった先輩達で、今でも時々連絡を取っています。でも、あの人達はそろそろ引退でしょうし、無理をすることはないです。すでに第一線から退いているらしいです」


 そんな人達が危険になる可能性は低い。

 問題は準メンバーだろう。


「悪いんだけど、準メンバーが信用できない。もし、ヨシノさんが使った場合、バレると思う」

「私もそう思います。本人達に悪意はなくても、すぐに噂が広がると思いますね」


 噂の広がり方っていうのはものすごく簡単である。

 俺が信用するカエデちゃんの信用する人は俺にとって信用できる人とは限らないのだ。

 『ここだけの話』や『他の人には言わないでね』が伝言ゲームのように伝わっていき、どんどんと内緒話が内緒話でなくなっていく。

 そして、どこかでネットやらなんやらに流され、一気に広まるのである。


「まあ、なんにせよ、物がないとどうしようもないんだよね」

「売るのか、それとも自分用に取っておくかは作ってからってことですね」


 まあそうなる。

 捕らぬ狸のなんちゃらだ。


「そうそう。だからちょっと調べてみてよ」

「わかりました。サツキさんには?」

「報告しようとは思うんだけど、あの人、忙しそうだしなー」

「私が伝えておきましょうか?」


 それがいいかもな。

 時間がある時にでも伝えてもらえばいいか。

 物がないからどうしようもないわけだし。


「じゃあ、お願いするわ。ついでに暇になってからでいいから命の結晶を探してって言っておいて」

「了解です」


 よしよし。

 生命の水の件はこんなところでいいだろう。

 次はお楽しみの実験だ。

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