第089話 指導みたいなもん
ヨシノさん、リンさんがそれぞれハイウルフ、グレートイーグルを倒してレクチャーしてくれたので、今度は俺がやってみることになった。
俺が前に出て、ヨシノさんとリンさんが後ろを歩いている形だが、後ろの2人がまったくしゃべらないため、静かだ。
俺が後ろにいた時はそれぞれよくしゃべってくれたのだが、今は本当にしゃべらない。
「あのー、御二人って仲が悪いの?」
俺は誰もしゃべらない状況が気まずくて、振り向き、聞いてみる。
「なんで?」
「普通だよ。昔からの仲だしね」
じゃあ、何かしゃべれや。
「なんで黙ってんの?」
「邪魔かと思って」
「集中させてあげようと思って」
どうやら俺への配慮だったらしい。
「いや、普通にしゃべってよ。しーんとすると、逆に気になるじゃん」
後ろからめちゃくちゃ見られてる気になってしまう。
美人さん2人に見られていると思うと少し緊張する。
何しろ、俺の人生にそんなイベントはなかったし。
「そうか?」
リンさんがヨシノさんに聞く。
「この子はそうかもね。この前、2人でクーナー遺跡を冒険した時もしゃべってた」
まあ、確かにしゃべってた。
だって、午前中、寂しかったんだもん。
「ふーん、まあ、そういう子もいるか。じゃあ、カエデと付き合ってないってどういうこと? 意味わかんないんだけど」
それ?
他に話題ないの?
「えーっと、話せば長くなるんだけど…………って、あ、ハイウルフだ」
俺がリンさんに答えようとしたら平原の向こうからハイウルフが走ってきていた。
「ホントだね」
「任せるよ」
「うん。おーい! こっちこ-い!」
俺はヘイトを買うためにウルフに向かって叫ぶ。
「いや、あれは最初から君狙いだね」
やっぱり?
一応、挑発のスキルを使ってみたけど、ウルフの動きに変化ないもんね。
「まあ、いいや。あ、付き合ってないっていうのはマジだね。でも、俺の中ではもうしてる」
俺は鞘から刀を抜き、さっきの質問に答えた。
「ますます意味がわからないんだけど? というか、答えなくてもいいからハイウルフに集中しろよ……」
「ただの雑魚やんけ」
「いいぞ! その調子だ!」
くっ!
挑発レベルが上がってしまう!
「めっちゃ強そうな狼君、かかってこい!」
俺は正眼に構える。
「逆に煽ってない?」
「いいぞ! 沖田君!」
しゃべるのやめよ……
俺は構えたまま、走ってくるハイウルフを静かに待つ。
「沖田君、君の上にグレートイーグルが出てきたよ。どうする?」
ヨシノさんに言われたため、ハイウルフから目線を切り、上を見てみた。
確かにさっき見たグレートイーグルが空を飛んでおり、明らかに俺を狙っていた。
「同時か……俺、何かしたかな……? まあいいや。どっちもやる」
俺は運がないなーと思いながらも同時に来るのは経験値稼ぎという意味ではラッキーだと思い、2人の介入を止めた。
俺は俺の上を旋回しながら飛び回っているグレートイーグルを警戒する。
「――沖田君!」
「わかってるから」
俺はグレートイーグルを警戒するのをやめ、前に踏み込んだ。
俺の目の前にはハイウルフが飛びかかっているのが見える。
俺は刀を横にし、ハイウルフの鋭い牙が見える口に向かって、刀を振る。
そして、そのまま滑らせていくと、ハイウルフの口が裂け、真っ二つになった。
「沖田君、上!」
「だからわかってるから」
俺はハイウルフが煙となって消えているのを横目に上を見る。
すると、俺の上にはくちばしを前に出し、俺の脳天を突こうとしているグレートイーグルがいた。
俺は刀を構えずにそのまま刀を上に投げる。
グレートイーグルは方向転換しようとする動きを見せたが、それよりも俺の刀が身体に突き刺さる方が早かった。
俺は刀が刺さったこと確認すると、後ろにステップし、落ちてくるグレートイーグルを避ける。
すると、グレートイーグルは刀が刺さったまま、地面に落ち、うごめく。
だが、すぐに力尽き、煙となって消えていった。
俺はハイウルフとグレートイーグルのドロップ品を確認したが、残念ながら牙と羽だった。
「ポーションは出なかったか……」
今のハイウルフ、グレートイーグルが同時に襲ってきたことといい、もし、運の良さというパラメーターがあったら俺は低いだろう。
「おつかれ」
「あんた、ツイてないなー」
ヨシノさんは優しくねぎらってくれ、リンさんはご機嫌に笑う。
「今日はリンさんに運を吸い取られた気がする」
俺は牙と羽を拾うと、カバンに入れる。
「まあ、そういうこともあるよ。次に行こう」
「また回復ポーションが出る気がするわ」
「俺は出る気がしない」
俺達はその後も交代をしながらモンスターを倒し、街道を進んでいった。
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