第082話 黄金の魔女とAランクがファミレス……


 俺は人の気配がしたので目が覚めた。

 俺が目を開けると、目の前にはかわいい顔をした子が俺を覗き込んできていた。


「おはようです」

「カエデちゃん、おはよー……」


 眠い。


「昨日、何時に寝たんです?」

「3時くらいかな? ナナポンが電話してきた……」


 深夜の12時くらいにかかってきた。


「ああ、なるほど。だからエレノアさんなんですね」


 俺はカエデちゃんにそう言われて、布団の中で手を下半身に持っていく。


「あ、ホントだ。ない」

「何がとは聞きません。寝ても良いですけど、昼にヨシノさんと取引があるのを忘れないでくださいね」

「うん……カエデちゃん、一緒に寝ようよ。そして、時間になったら起こして」

「私も寝たいですよ。でも、仕事です」


 あ、カエデちゃんがパジャマじゃない。

 お出かけ用の服だ。


「いってらっしゃい……」

「いってきます。テーブルにおにぎりを置いておきましたから食べるんですよ」


 お母さんかな?


「はーい……」


 カエデちゃんは俺の返事を聞くと、立ち上がり、部屋を出ていってしまった。

 俺は睡魔と布団の暖かさに勝てず、目を閉じた。



 ピンコーンという音がした。

 俺は枕元のスマホに手を伸ばし、スマホを見る。


【そろそろ起きましょう。準備があるでしょうし、寝すぎは良くないです】


 カエデちゃんからのメッセージである。

 時計を見て、時間を確認すると、10時だった。


 俺はベッドで横たわったまま、スマホを操作する。


【起きたー! ありがとう!】


 すると、すぐに返事が来た。


【起きるというのは布団から出ることです。絶対にまだ布団の中でしょ】


 俺はそれを見て、起き上がると、部屋中を見渡す。


「カメラ?」


 俺は首を傾げながらもベッドから降り、リビングに向かった。

 そして、テーブルの椅子に座ると、スマホを操作する。


【起きてたよー】

【30秒。ダウト】


 エスパーカエデはすごいなー。


 俺は【カエデちゃん、すごーい】とだけ返し、スマホをテーブルの上に置くと、キッチンに行き、水を飲んだ。

 そして、テーブルに戻ると、カエデちゃんが握ってくれた丸いおにぎりを食べだす。


「おいしいけど、冷たいなー。寒いし」


 もうすぐ冬になる。

 そろそろエアコンの出番だろう。


 俺はおにぎりを食べ終えると、顔を洗い、目を完全に覚ました。


「カエデちゃんが起こしてくれなかったら完全に昼まで寝てたな……」


 カエデちゃんは本当にいい子だわー。

 それに比べてナナポンはなんという時間に電話してくるんだ。

 しかも、エレノアさんの弟子っぽい服はどんなのがいいですかという内容。

 ものすごくどうでもいい。


「……着替えるか」


 俺は自室に戻ると、クローゼットを開け、タンスを開けた。


「うーん、半分が女物の服に浸食されてしまった」


 見る人が見たら完全に女装趣味の人のタンスだ。


 本来なら同居人には絶対にバレてはいけないものだろうが、ウチは問題ない。

 何故なら、これらの服は全部、カエデちゃんが選んでくれたものだからである。

 しかも、このトップスにはこのボトムスという感じでコーデも決まっている。


 昨日、買い物デートで服を買い、家に帰ったらそう教えてもらったのだ。 

 とんでもない初デートだった。


「どれにしようかー……」


 俺は悩んだものの、どれも一緒だろうと思い、適当に選ぶと、着替え始める。


「あー、いい匂いがしない服だなー」


 カエデちゃんの服が良かったよ……


 俺は服を着替え終えると、再び、脱衣所に行き、洗面台の鏡の前に立つ。

 鏡に写る金髪女は白のセーターに茶色のロングスカートをはいていた。

 セーターが白い理由は普段が真っ黒のローブだから逆の明るめの色を着れば、バレにくいということからである。


「完全に女だな……当たり前だけど」


 俺がこれまでカエデちゃんに服を借りた時以外に着た女物の服は黒ローブだけだった。

 カエデちゃんに服を借りた時だって、鏡で自分の姿を見たわけではない。

 実質、エレノアさんの普通の私服姿を見るのはこれが初めてである。


「美人とは思うが、普通やな」


 カエデちゃんの方が絶対にかわいい。


「今は……11時か」


 俺はさっさと準備をして出ようと思い、長い髪をヘアゴムで1本にまとめると、後ろではなく、左肩の前に持ってきた。


「これでいいや。後ろは目立つ」


 いくら黒ローブではないとはいえ、どうしてもこの長い金髪が目立つ。

 前に持ってきたら多少、マシだろう。


 俺は準備を終えると、昨日、カエデちゃんに選んでもらい、家に帰ってから輪ゴムを入れて作ったヨシノさんに売る用のカバンを自分の白いカバンに入れた。

 そして、コートを羽織ると、カバンを肩にかけ、透明化ポーションを飲む。


 俺はすべての準備を整えると、家を出て、待ち合わせ場所である池袋のファミレスに向かった。




 ◆◇◆




 家を出た俺は誰もいない所で透明化を解き、タクシーに乗って少し経つと、目的地であるファミレスに到着した。

 俺は運転手に料金を払うと、タクシーを下り、ファミレスに入った。


「いらっしゃいませー! お一人様ですか?」


 ファミレスに入ると、女の店員さんが元気に声をかけてくる。


「えっと、待ち合わせなんだけど…………あ」


 俺が店内を見渡していると、知っている顔が手を挙げているのが見えた。


「あれ」


 俺はすでに来ていたヨシノさんを指差す。


「どうぞー」


 俺は店員さんにそう言われたのでヨシノさんがいる席に向かった。


「こんにちは。遅れてごめんなさいね」


 俺はヨシノさんの対面に座りながら謝る。


「いや、私が早く来すぎただけだ。しかし、そのサングラスはなんだ?」


 ヨシノさんが呆れた顔で俺の顔を見てくる。


「芸能人っぽくしたんだけど……」


 実は昨日、ノリノリで買ったんだけど……


「取れ。逆に目立つ」


 ちぇー……


 俺は言われた通りサングラスを取ると、コートも脱ぎ、隣に置いた。


「それにしても普通の服を初めて見たな」


 俺も見たのはさっきが初めてだよ。


「変かしら?」


 なお、俺のおしゃれマスターを侮辱したら帰る。


「いや、似合ってるよ。ただ、あの黒ローブのイメージが強すぎてな。君、私服もあれなんだろ?」

「誰が何を着ようと別にいいじゃない」

「ああ、構わん。だが、君はまるでわざと目立つようにしているようにも見える」


 合ってるー!

 エレノアさんは沖田君の隠れ蓑だもん。


「目立つのが好きなの」

「そうは見えんのだがな……目立つのが好きという割にはフロンティアでは人を避けている」

「目立つのは好きだけど、絡まれるのは嫌いなの。わかるでしょ?」

「まあ、そうかもな…………すまん、探る癖がついているようだ。好きな物を頼んでいいぞ。おすすめはドリアだ」


 ヨシノさんがそう言って、メニューを渡してきた。

 俺はそれを受け取ると、メニューを見ていく。


 …………………………。


 ドリアって一番安いやつじゃねーか……

 今から4000万以上の取引をするっていうのにそこをケチるなよ……


「三枝ヨシノさん、いえ、ヨシノさん、ここは私が奢りましょう」


 俺はメニューを返しながら告げる。


「いや、私が出すよ。ドリアは美味いぞ」

「私はチーズハンバーグを食べるの!」

「そうか…………奢ってもらって悪いな。私もそれにする」


 確信して言える。

 こいつ、リンさん以外に友達はいない。


 俺達はチーズハンバーグのセットを頼むと、ドリンクバーのジュースを飲みながら待った。

 少し待っていると、俺とヨシノさんのチーズハンバーグセットが届いたので食べ始める。


「うん、美味いな」

「まあね」


 安いけど、それなりに美味いもんだ。


「食べながらでいいんだが、聞いてもいいか?」

「どうぞ。好きなだけ詮索しなさい」

「そんなつもりはないんだが…………」

「無理無理。みーんな詮索してくるわ。先に言っておくけど、フロンティア人じゃないわよ」


 そもそもフロンティア人って本当にいるんだろうか?

 俺は人型ではなく、エイリアン説を押している。


「まあ、雑談とでも思ってくれ。君、なんで池袋のギルドにしたんだ?」

「適当に決めた。意味はない」


 実はこれは本当。

 なんとなくで決めた。

 きっと運命だったんだと思う。

 なお、これをカエデちゃんに言ったら鼻で笑われ、近かったからでしょ、と返された。

 せいかーい。


「じゃあ移籍しない?」

「しない。あなたの従姉さんにお世話になってるし」

「そうか……なあ、サツキ姉さんは私のことを何て言ってた?」


 この人、本当にそこを気にするな。

 そんなに気になるなら移籍するなよ。


「金の亡者」

「…………あの人には言われたくない」


 どっちもどっちだわ。

 あんた、ドケチじゃん。

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