第079話 楽しい飲み会


 サツキさんとの話を終えた俺は支部長室を出て、受付に戻る。


「あ、先輩、清算が終わりましたよー」


 受付に戻ると、カエデちゃんが清算書を渡してくれた。


「ありがとう。今日も頑張ったわ」

「そうですね。これでDランクです!」


 ん?


「まだ100体に届いてないでしょ。30体くらいだったし」

「あー……これまでの累計です。以前にも倒してたじゃないですか」


 あ、今日からじゃなくて、以前の分も含めて100体っていう意味だったのか。


「なるほどね。じゃあ、俺もDランクか……」

「ですねー。おめでとうございます!」


 カエデちゃんが音が出ない拍手をしてくれる。


「ありがとー。あ、じゃあ、ナナポンもDランクに戻していいよ」

「うーん、あの子はもうちょっと様子を見ます。調子に乗りそうな気もするんで」


 ……なんだろう?

 遠回しに俺に言ってるように聞こえるのは気のせい?


「そうだね。謙虚さが大事…………」

「先輩、どうしました?」


 カエデちゃんが心配そうに顔を覗き込んできた。


「えーっとね……いや、後で話すわ」


 ちらほらと人が増えてきたし、邪魔をするのはマズい。


「そうですか。じゃあ、ちょっと待っててください。もうすぐあがりなんで」


 カエデちゃんに言われて時計を見ると。時刻は4時45分を回ったところだった。


「じゃあ、俺はシャワー浴びて着替えてくるわ。表で待ってるから」

「はい! じゃあ、また後で」


 俺はカエデちゃんのいる受付から離れると、更衣室に向かう。

 更衣室は朝とは違い、数人の男性が着替えていた。


 やっぱり夕方になると、人が少しだけど増えるな……


 俺は嬉しくもない男の着替えを見るのをやめ、服を脱ぐと、シャワーを浴びる。

 そして、シャワーを終えると、服を着て、更衣室を出た。

 更衣室を出た際にチラッと受付を見ると、すでにカエデちゃんはいなかった。


 俺はそのままギルドを出て、ギルド前でスマホを見ながらカエデちゃんを待つことにした。


 清水……清水リン…………


 俺はスマホで今日会ったリンさんの名前を検索する。


 あー……Bランクだわ。

 めっちゃ格上だったのか。

 確かに強そうだったもんなー。

 俺、失礼なことをしてないよな……?


 俺はその後もヨシノさんのパーティーを調べていくが、やはり人気なだけあって情報も多かった。

 中には某男性俳優との熱愛みたいなゴシップまであった。


 というか、ヨシノさんってゲスい系のゴシップが多いな……

 AVデビューの噂まである。

 今度、聞いてみようと思う。


 俺がスマホを見続けていると、ふいに肩を叩かれた。

 肩を叩いてきたのはもちろん、さっきまでの色気のない制服ではなく、俺の要望に応えた格好をしているカエデちゃんだ。


「お待たせです。何を見てるんですか?」

「ヨシノさんについて調べてた」

「ヨシノさん? ふーん……」


 あ、これは嫉妬の目だ。

 かわいいヤツめ。


「ちょっとその辺も話すわ、寒いし、行こうか」

「はい! いつものところでいいですか?」


 いつものところというのはギルドの近くにある個室の居酒屋だ。


「だね。行こう」

「はーい」


 カエデちゃんはそう言うと、腕を組んできた。


「カエデちゃん、暖かーい」

「でしょー。ささ、行きますよ」


 俺達は仲良く、歩き出すと、居酒屋に向かった。

 数分歩き、居酒屋に着くと、個室に通されたため、ビールを頼み、乾杯する。


「いやー、お疲れだったね」


 俺はビールを飲みながらカエデちゃんをねぎらう。


「先輩もお疲れ様です。1日は大変だったでしょ」

「まあね。正直、スケルトンはもういいや。飽きた」

「でしょうねー。クーナー遺跡にしても、ダイアナ鉱山にしても、スケルトンですもんね。ナナカちゃんもですけど、先輩ってスケルトンの剣しか納品してないんじゃないかと思っちゃいますよ」


 完全にスケルトンハンターだな。

 嫌だわ。


「実際そうだしね。でも、Dランクになれたし、もういいや」

「次はどうされるんです?」


 カエデちゃんがビールを飲みながら聞いてくる。


「あー、それそれ。実は今日、クーナー遺跡でヨシノさんに会ったんだよね」

「へー、まだいるんですね」

「いや、新人指導だってさ。カエデちゃん、リンさんって知ってる? 清水リンさん」

「知ってますよー。キリっとした人でしょ?」


 確かにキリッとしていた。

 黒髪ポニテだったし、姿勢や立ち振る舞いがきれいだった。

 正直、エレノアさんやヨシノさん、あと、サツキさんよりもずっと剣道少女って感じがする。


「そうそう。その人もいた」

「ほうほう……それでさっき調べてたんですか?」

「うん。俺、リンさんを知らなかったわ。Bランクなんだね」


 言い訳をすると、Aランクしか調べてなかった。

 だって、Bランクってそこそこいるんだもん。


「まあ、先輩は知らないでしょうね。逆にヨシノさんを知ってるのがね…………男の子だなーって思います」


 カエデちゃんがジト目で見てくる。


「まあ、どうしてもそういう記事は目に行くからね。しゃーない」

「ふーんだ」


 カエデちゃんがわざとらしく拗ねた。


「まあまあ。それでさー、パーティーに誘われたんだわ」

「先輩が?」

「うん、エレノアさんじゃなくて、俺」

「先輩の方から攻めてきたか……」


 カエデちゃんが悩みだす。


「それでさっきサツキさんに相談したんだよ」

「サツキさんは何て言ってました?」

「好きにしろだと。ヨシノさんはバレても金でどうとでもなるそうだ」

「あー……似た者従姉妹ですもんね」


 ホント、それ。

 金のことばっか。


「それでカエデちゃんに相談しようと思って」

「先輩はどう考えているんです?」

「俺はいいかもなって思ってる。正式なパーティーじゃなくて、時間が合った時に一緒に行こうって程度なんだよ。色々と教えてくれるそうだし、何より、今日、1人で冒険して、1人がキツいことに気が付いた。危険があるとかじゃなくて、話す人がいないとつまらない」

「あー……エレノアさんはナナカちゃんがいますしねー……」


 そうなんだよね。

 あいつが俺を嫌がらなければ、何も問題はない。

 でも、わがままナナポンだからしょうがない。


「だからエレノアさんはナナポンと行くし、沖田君は時間が合えば、ヨシノさんと行ってもいいかもって思ってる。ただ、向こうはエレノアさんを調べてるからね」

「ですよねー……うーん、1つ聞いてもいいですか?」


 カエデちゃんが箸を置いた。


「なーに?」

「下心はあります?」


 カエデちゃんがマジの目で俺を見てくる。


 下心……

 確かに恐ろしい魅了魔法を持った人だが……


「ないねー。それにそこまで深く関わるつもりもない。メインの冒険はナナポンとだし、あくまでもナナポンがダメだった時にたまに行く感じ」

「すごい女タラシみたいなことを言ってますね」


 ……ホントだ!

 本妻のナナポンがダメだったら浮気相手のヨシノさんと遊ぶみたいな感じになってる!


「そういう意図はないんだけどね」

「わかってますよ。あなたは根が正直だからそんなことはできません」


 褒めてるのかな?

 うん、きっと褒めてる!


「うーん、まあ、とにかく下心はないね」

「じゃあ、いいんじゃないです? 別に一生、パーティーを組むっていうわけではないですし、合わないなとか、なんか違うなって思ったら抜ければいいんです。実際、皆さん、そんな感じです」


 これはそうなんだよな。

 俺が冒険者をやろうと思った理由の1つにそういう人間関係のドライさもあった。

 あんなクソ上司みたいなのに当たりたくなかったから。


「じゃあ、前向きに考えてみようかな……」

「いいと思います。私的にはソロよりそっちの方が安心です」


 無事を祈り、待っている方はそう思うか……


「なるほどねー……あ、それとさ、俺ってイキってる?」

「イキる? 先輩が? うーん、私にはそんなことはないですけど、そういうところがあるのは知っています。ほら、好戦的なところを直せって言ったでしょ」

「今日、剣術レベル4のヨシノさんを煽ったわ」

「ホント、やめてください。レベルが6もあって嬉しいんでしょうけど、サイテーです」


 足を払ってこけさせたことは言わない方がいいな。


「やっぱり嫌?」

「私が店員にタメ口を聞いたり、命令口調で怒ってたら嫌でしょ」


 嫌だわ。

 そんなカエデちゃんは見たくない。


「俺、敬語使えるよ?」

「当たり前です。あなた、26歳でしょ。もうちょっと人に敬意を持ちましょう。はい、サツキさんはすごいです」


 カエデちゃんがリピートアフタミーを要求してくる。


「サツキさんはすごいです」

「ヨシノさんは尊敬すべきAランクです」

「ヨシノさんは尊敬すべきAランクです」


 なんだこれ?


「カエデちゃんはかわいいです」

「カエデちゃんはかわいいです」


 言うまでもあるまい。


「はい、よろしい! かんぱーい!」

「かんぱーい」


 俺とカエデちゃんは残り少ないジョッキで乾杯をする。


「いやー、明日が休みって素晴らしいですね!」

「だねー。飲もう、飲もう!」

「はい! あ、カラオケに行きましょうよ! 盛り上げマスターの私に任せておいてください!」


 カエデちゃんって色々マスターしてるね。


 その後、俺とカエデちゃんはおかわりを頼むと、楽しく飲んだ。

 そして、二次会でカラオケに行き、べろんべろんになったカエデちゃんを連れて、家に帰った。


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