第066話 ナンパ注意


 俺はレベルが上がり、強化ポーションというドーピングアイテムを作れるようになった。

 その後もハイドスケルトンを狩り続け、レベル上げを行っていったが、やっぱり今日はもう上がらなかった。


「今日はそろそろやめましょうか……」


 時計を見ると、すでに4時を回っている。

 カエデちゃんの仕事が終わるのは5時だが、俺達がシャワーを浴びる時間もいるし、ナナポンは一度、自分の家に帰るらしいのでその辺も含めると、潮時だろう。


「そうですね…………」


 ナナポンは同意したものの、俺を見ずに違う方向を見ていた。


「どうしたの?」


 俺はナナポンの目線が気になったので聞いてみる。


「鉱山の外に人がいます。それも大勢」


 人?

 こんな超不人気の場所に?


「いつ?」

「ついさっきです」

「誘拐犯? 黒スーツにグラサン?」

「いえ、私のぶ…………例の人達じゃないです。あれは普通の冒険者ですね」


 襲撃犯ではないようだ。


「ここに来る感じ?」

「いえ、クーナー遺跡と同じでゲート前でたむろってますね。あれはエレノアさん目当てかと」


 エレノアさんのおっかけか……

 もはやストーカーだわ。


「めんどうね……」

「ホントですよね……」


 ナナポンも嫌な様だ。


「誰が漏らしたのかしら? さっきの自衛隊の冒険者?」

「いえ、さすがにそれはないでしょう。ギルマスさんが言うには自衛隊の冒険者は基本的にエレノアさんのためにいます。そんなことはしないと思います」


 自分の仕事が増えるようなことはしないか。


「となると、ギルドにいたヤツらね。あいつらがネットでつぶやいたから私がフロンティアにいることを知って、ここまで来たか……」

「なんでここってわかったんですかね?」

「クーナー遺跡やエデンの森にいなかったからでしょ。他所をしらみつぶしに探しているってところじゃない? 時間的にもそんな気がする」


 俺がギルドの受付に姿を現したのが1時ごろだから3時間経っている頃になる。

 それくらいもあれば、クーナー遺跡とエデンの森にエレノアさんがいないこともわかるだろう。


「同じ池袋ギルドの冒険者も信用なりませんね」

「初心者ばっかりだしね。バズりたいか、買収されたか……」


 どっちみち、最悪だ。


「どうしましょう?」

「どうもこうもないでしょ。打ち上げがあるから帰るわ。ナナカさんは先に行って。怪しまれるかもだけど、こうなったら仕方がないわ…………大丈夫?」


 ナナポンは声をかけられるのを嫌う。

 でも、この場合だと絶対に声をかけられるだろう。


「大丈夫です。急いでますからって言って逃げます。自衛隊の方もいますし、しつこくはないと思います」


 完全にナンパのあしらい方だな。


「私もそうしようかしら?」

「それがいいと思います。勧誘かオークションのことでしょうし、話を聞く価値はないです」


 それもそうだな。

 相手はマスコミじゃないし、冷たくあしらっても問題はないだろう。

 そもそもフロンティアで不必要に声をかけること自体がマナー違反だ。

 しかも、俺は女。

 ネットで何を書き込まれようとも問題はない。


「わかったわ。じゃあ、ナナカさんは先に行って。どっかで待ち合わせる?」

「大丈夫です。ご自宅の場所はわかりますし、準備をして直接伺います」


 ナナポン、俺の家を知ってるの?

 カエデちゃんが教えたのかな?


「わかったわ。待ってる」

「はい。では、後ほど……」


 ナナポンはそう言って、鉱山の出口の方に歩いていった。


 俺は少し時間を開けるため、カバンの中から折り畳みの椅子を取り出し、座った。

 もちろん、ハイドスケルトンを警戒することを忘れない。

 ハイドスケルトンは見えないが、音を出すため、接近したらわかるのだ。


 俺はその場でじっと待ち、ひたすら待つ。

 そして、10分程度が経つと、立ち上がり、鉱山の出口の方に歩いていった。


 鉱山から出ると、確かにゲート前に冒険者がたむろっているのが見える。

 冒険者達は鉱山から出た俺を見ると、全員が一斉に俺に向かって歩いてやってきた。


 一気に来られると怖いなー……


 俺は一応、こいつらが鉱山の中に入る可能性も危惧し、端に避けて歩いていく。

 だが、当然、冒険者達はそんな俺に向かってきた。


 俺は冒険者達との距離が10メートル程度になったところでカバンの中に手を突っ込み、剣を抜く。

 すると、冒険者たちの足が止まった。


「何をしているのかね?」


 俺と冒険者達との間に自衛隊の冒険者が割り込むと、剣を抜いた俺に向かって聞いてくる。


「見てわからないの? 武器を持った屈強な男達が大勢で私を囲もうとしている。自衛のために斬るわ」


 俺がそう言うと、自衛隊員はチラッと後ろにいる冒険者達を見る。


「剣をしまいなさい」


 自衛隊員は再び、俺の方を見ると、指示をしてきた。

 俺は素直に剣をカバンに入れる。

 すると、自衛隊員は冒険者達のもとに向かった。


「君達、ここで何をしている?」


 自衛隊員は冒険者達のもとに行くと、冒険者達に聞く。


「ちょっと話をするだけだよ。何か問題でもあるのか?」


 ありまくりだよ。


「話? この大人数でか?」

「別に俺らは同調しているわけじゃねーよ。たまたま一緒になっただけだ」

「本当かね?」


 自衛隊員が他の冒険者に確認すると、他の冒険者達は顔を見合わせながらも頷いた。


「ふむ…………わかった。だが、フロンティア内では不必要な接触は避けなさい」


 自衛隊員は納得したようだが、苦言を呈した。


「なんであんたにそんなことを言われなきゃならんのだ? 個人の自由だろ」

「マナーを守りなさい」


 そうだ、そうだ。


「別に法律に違反しているわけではないだろ」

「あちらの女性から身の危険を感じると訴えが来ている」

「俺がそんなことをするわけねーだろ!」


 男が怒鳴ると、他の冒険者も頷く。


「あなた達、誰よ? 信用のある人なの? 申し訳ないけど、私は信用できないわね」


 一応、言っておこう。

 怖い、怖い。


「な、なんだと!?」


 俺の言葉に男が怒った。


「…………君達、冷静になって考えなさい。こんな薄暗いところで武器を持った大勢の男性が1人の女性を囲む行為が問題ないわけないだろう」


 自衛隊員に諭された冒険者達は顔を見合わせる。

 すると、すぐに状況に気付いたらしく、気まずそうな顔をした。


「少し、話がしたいだけなんだが……」

「私はない。あなた達の要望も全部拒否。どうしてもな用事がある場合はギルドを通してちょうだい。今のあなた達はナンパを通り越して暴漢にしか見えないわ」


 せめて武器は置いてこいよ。

 殺しちゃうだろ。


「君達、今日は帰りなさい。私もこれを問題にするつもりはないが、これ以上はギルドに報告することになる」


 男達はそう言われると、さすがにギルドに報告されるのはマズいらしく、ぞろぞろと引き返していく。


「ねえ、ナナカさんは?」


 俺は残っている自衛隊員に聞く。


「君の連れか? 先に出てきたんだが、あの冒険者達を見て、私にゲートまで連れていってほしいと頼んできたからゲートまで送った。もうギルドに帰還しているだろう」


 なるほど。

 最初から自衛隊員を頼ればよかったのか。


「そう」

「君も不必要に剣を抜くような行為は控えなさい。向こうが逆上したらどうする」

「ふふっ、死体ができるだけね」


 瞬殺じゃい。


「そういうのをやめなさいと言っているんだ。協力しろとは言わないが、不必要な争いは厳罰対象となる。冒険者資格のはく奪もあるし、逮捕もあり得る」

「結構、厳しいのね」

「当然だ。冒険者が罪を犯した場合は普通の人より重くなる。気を付けなさい」


 まあ、そうだろうね。

 レベルが上がって普通の人より強いだろうし、スキルもある。


「わかりました。以後、気を付けます」

「うむ。今回のことは問題にはしないが、各ギルドに注意喚起してもらうように通達はする」

「お願いします。私だけでなく、ナンパが多くて嫌なの」


 って、ナナポンが言ってた。

 なお、エレノアさんはナンパされたことない。

 でも、沖田君は三枝さんに逆ナンされた。


「了解した。その辺も含めてギルドに通達する」

「ありがと」


 俺は自衛隊員にお礼を言うと、もう誰もいないゲートに向かって歩いていく。

 そして、ゲートをくぐり、ギルドに帰還した。

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