第063話 鍵を開けるには魔法の言葉が必要なのはわかっている
俺はカエデちゃんとのルームシェアを始めた。
俺的には同棲だったが、ルームシェアらしい。
ちょっと悲しかったが、こういうのは時間をかけるべきと己に言い聞かした。
そして、この週は冒険には行かず、部屋の整理や家具の設置等を行った。
当然、カエデちゃんは仕事があるので、作業をするのは俺だ。
俺は頼んでいた荷物を受け取り、設置する。
カエデちゃんが帰ってきたら一緒にご飯を食べ、お酒を飲むという生活を送っていた。
なお、毎日、カエデちゃんの部屋に入ろうとしているのだが、いっつも鍵がかかっている。
カエデちゃんが仕事に行っている時もかかっている。
信用ないね……
そんなこんなでこの週は冒険には行かなかった。
まあ、ナナポンもちょっと用事があるらしいので、ちょうどいいだろう。
そして、カエデちゃんと一緒に住み始めてちょうど1週間となる日曜日。
仕事から帰ってきたカエデちゃんと一緒に料理を作った。
なお、カエデちゃんがパックからお皿に乗せ、俺がご飯を炊くという料理だ。
「先輩、明日は暇です?」
対面に座っているカエデちゃんがご飯を食べながら聞いてくる。
「まあ、予定はないね。部屋も完成したし、そろそろ冒険に行こうかなーって思ってるくらい」
まだナナポンと冒険の予定を決めていないので、あいつの予定は聞いていないが、1人でも行こうと思っている。
「明日、ギルドに来られません? 先輩でもいいし、エレノアさんでもいいので。サツキさんがオークションのお金を渡したいそうです。あと、話があるそうですね」
もう24億円を受け取れるのか……
早いな。
「ちょっと待って。ナナポンに聞いてみる。どうせ行くなら冒険にも行くわ」
俺はそう言って、テーブルに置いてあるエレノアさん用のスマホを操作する。
『明日、サツキさんが話があるって言ってるけど、来る? 2億円を受け取れるわよ』
これを送ると、すぐに返事が来た。
『行きます! 2億円が欲しいです! あ、冒険は行かれます?』
『最近行ってないし、行こうかと思ってる。用事があるなら言って。1人で行くから』
『行きます!』
食いつきがすげーな。
さすがは2億円。
「ナナポンも来るみたいだからエレノアさんだな。話が終わった後に冒険に行くわ」
俺はスマホを置き、カエデちゃんに言う。
「了解です。エレノアさんだったらギルドまで一緒には行けませんね」
それはちょっと悲しい。
一緒に家を出て、同じ職場に行くのってなんか良い気もする。
「沖田君というか、俺で行くこともあるし、その時に一緒に行こうよ」
「良いですけど、ちなみに先輩、7時に起きられます?」
7時……
社会人時代は当然、起きていた。
だが、最近はどうだろう?
少なくとも、この家に住んでからは起きる時間は9時とか10時だ。
「大丈夫だよ。余裕、余裕」
昔は最悪な気分で起きていたが、今はそうでもないだろうし、カエデちゃんと一緒に行けるなら問題ない。
「ふーん、毎日、出かける前に声をかけているのにガン無視して寝ている先輩が起きられるかなー?」
「え? そうなの?」
全然、気付かなかった。
当たり前だが、俺の部屋に鍵はないし、つける気もない。
カエデちゃんが枕を持って、来るかもしれないし。
「いつも、ぐーすかと寝ていますよね。なんかエレノアさんだった時もありましたけど」
「あー、あれはナナポンと電話をしてた時だね。俺が今後のことを話そうと思って電話したらチェンジって言われて、即、電話を切られた」
「あの子はホント……」
さすがにカエデちゃんも呆れているようだ。
「まあ、あいつはそういうヤツだしなー」
「そうなんですけどね……」
カエデちゃんが手をあごに持っていき、悩む。
「どうしたの?」
「…………いえ、何でもないです。明日は午後から来ます?」
なんか誤魔化された気もするが、ナナポンだし、どうでもいいか。
「そうだね。午後から行って、話を聞いて冒険かな?」
「わかりましたー。あ、だったらナナカちゃんを誘って、オークションの打ち上げしません?」
ナナポンか……
カエデちゃんと2人でやりたい気もするが、それは今度でもいいだろう。
「そうするか……そういえば、エレノアさんがナナポンを誘ってたわ」
「じゃあ、ちょうどいいですね。ピザでも頼みましょうよ」
「そうするか……」
俺はスマホを取り、再び、操作する。
『明日、お金を受け取れると思うし、打ち上げしない? カエデちゃんがそう言ってる』
『行きます!』
この返事が3秒で届いた。
『じゃあ、カエデちゃんが仕事が終わる時間までレベル上げしましょう。それで夕方になったらウチにいらっしゃい』
『了解です! お邪魔します!』
返事が早いなー。
まあ、ナナポンも2億円でテンションが上がってんだろ。
「来るってさ」
俺はスマホを置き、カエデちゃんを見る。
「じゃあ、そうしましょうか。ナナカちゃん、飲むかな?」
「さあ? 飲んだことないって言ってた気がするし、軽いのでも買ってやればいいだろ」
ダメならソフトドリンクでもいい。
多分、ナナポンも明日には20歳になるだろ。
「そうしますか……じゃあ、明日はパーティーです! 今日は早く寝てください」
「頑張る」
俺達はいつものようにご飯を食べ、お風呂に入って、就寝した。
そして、いつものようにカエデちゃんの部屋に行ってみたが、鍵がかかっていた。
ピッキングのスキルかアイテムが欲しいと思いました。
◆◇◆
翌日、目が覚め、スマホを見ると、時刻は10時だった。
それと同時にカエデちゃんからメッセージが届いていたので見てみる。
『いってきます』
ハートマーク付きでこれが送られてきていた。
俺はすぐにいってらっしゃいと送り、布団から出た。
布団から出ると、少し肌寒さを感じる。
もう11月に入っているのだ。
俺は寒いなーと思いながらも部屋から出て、一応、カエデちゃんの部屋に鍵がかかっているかを確認し、リビングに向かった。
鍵?
かかってた。
俺はコップにお茶を淹れると、テーブルにつき、カエデちゃんが握ってくれたおにぎりを食べる。
「さすがカエデちゃん。美味しいけど、丸い」
おにぎりも握れないらしい。
まあ、人のことを言えないし、カエデちゃんが忙しい朝に作ってくれたものなので文句も言わずに食べることにする。
「昼までどうしようかなー……」
暇だ。
家も整ったし、やることがない。
「カエデちゃんがいないと、つまんないなー……」
明るくてかわいいカエデちゃんがいるといないとでは部屋の明るさも違う気がする。
もし、俺が池袋ギルドに行かず、渋谷ギルドに行っていたらどうなっていたのだろう?
錬金術のスキルを手に入れることはできただろうが、1人でお金儲けをしていたのだろうか?
それとも早々にスキルがばれ、失敗したのだろうか?
「やめよう。たらればだ」
こういうことは考えない方がいい。
今ある幸せを掴み、離さないようにすることだけを考えよう。
「よし! 風呂に入ろう!」
俺は嫌な考えを捨てるために前の家とは比べ物にならないほどきれいなお風呂に入った。
そして、風呂から上がると、TSポーションを飲み、エレノアさんに変わる。
俺は脱衣所の鏡で素っ裸の自分自身を見る。
「うーん、相変わらず、沖田君とは似ても似つかないわねー」
まあ、似てたらそれはそれで困るけどね。
俺は用意していたエレノアさん用の黒ローブを着込み、髪を結ぶと、脱衣所を出て、リビングに戻った。
そして、冷蔵庫にある昨日の夜の残りの総菜を食べると、透明化ポーションを飲み、家を出る。
何気にエレノアさんでここから家を出るのは初めてだが、事前に決めておいた人がいない裏通りに行き、透明化を解いた。
透明化を解くと、裏通りを抜け、表の人が多い道に出る。
すると、多くの人が俺を見てきた。
この辺も考えないとなー。
ずっとこの行動を繰り返していると、いずれエレノア・オーシャンが練馬に住んでいることがバレる。
俺はやっぱりトイレで着替えることになるなーと思いながらタクシーを捕まえ、池袋のギルドに向かった。
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