第054話 読んでますが?
ナナポンに説得された俺はスキル習得を諦め、レベル上げに専念することにした。
俺達は鉱山に入ると、ナナポンが以前のように火魔法でたいまつを作る。
俺はそれを見て、カバンから電気製のカンテラを出し、カバンに吊り下げた。
「あ、今日は灯りを持ってきたんですね」
ナナポンがカンテラを見る。
「そうそう。ナナカさんが魔法を使う時に見えないからね。正直、明るくなったり、暗くなったりすると、目が疲れる」
「フロンティアは余計に疲労しますしね。それに光源が2つあると明るいです」
確かに以前来た時よりかは明るい。
「よし! ハイドスケルトンを狩りましょう。ナナカさん、敵はどこ?」
「あっちです。頑張りましょう」
俺達は前回と同じように交互にスケルトンを狩っていく。
そして、狩りを始めて、1時間ぐらいが経った。
「うーん、レベルが上がんないなー」
俺はステータスカードを見て、変わらないレベル6の数字に首を傾げる。
「そんなに簡単に上がりませんよ。ハイドスケルトンしか狩ってないじゃないですか」
「あなたはいくつ?」
「私も8のままです」
ナナポンに追いつきたい。
19歳に負けたくない。
でも、よく考えたら一緒に冒険してるんだから追いつかなくない?
「経験値って倒した人が得るんだっけ?」
確かネットにそう書いてあった。
「基本的にはそうです。ただ魔法を使っても経験値は得られるみたいですね。回復魔法ばっかり使っている人のレベルが上がった事例もあるので」
へー……
ということは、たいまつ代わりに火を灯しているナナポンも現在進行形で経験値を稼いでいるわけだ。
マズい……差が開く。
「錬金術でアイテムを作っても経験値を得てない気がするのよねー」
「そうなんです?」
「素材が安いし、無駄にいっぱい作ってるもの。でも、レベルが上がらない。あなたは? 透視してるでしょ」
「私もしょっちゅう透視してますけど、上がんないですね」
むっつりめ……
何を透視してるんだい?
いいなー……
「私は魔法を使えないから地道にやるしかないかー」
ナナポンが大学に行っている間は沖田君にフロンティアに行ってもらおう。
最近、全然、行ってないし。
「頑張ってください。新しいレシピが出たら売れるかもしれません」
そうだよなー。
やるか。
俺達はその後もハイドスケルトンを狩り続け、いい時間になると、休憩のために鉱山を出て、小屋の前のぼろいテーブルで休憩をすることにした。
「アイテム袋があるし、休憩用のテーブルと椅子でも買おうかしら?」
このテーブル、壊れそうだし、椅子もぎーぎーと音を出している。
「良いと思います。私は嫌ですが、上位ランカーは泊まることもあるそうですよ」
「遠征的な?」
「ですね。私達が行けるようなところは範囲が狭いですが、別の所は広いところもありますし、未調査の所もあります。私もロマンとは思いますが、野宿は嫌です」
ナナポン、わがままだもんなー。
「キャンプと思えば楽しそうじゃない?」
「昔、小学校の研修でそういうのをやりました。虫が嫌です」
女子だなー。
虫くらい我慢すればいいのに。
「まあ、ナナカさんは私と2人のテントは嫌だろうしね」
弱男性恐怖症だもん。
「エレノアさんならいいですよ」
ナナポンが意外なことを言ってきた。
「マジ? ごめんね。私にはカエデちゃんがいるの……」
「沖田さんだったら舌を噛み切ります」
微妙に傷つく。
「お前、エレノアさん優遇をやめろよ」
「言葉遣いに気を付けて下さい。エレノアさんはそんなしゃべり方じゃないです」
えー……
こいつ、完全に沖田君とエレノアさんを分けてるし。
「今度、沖田君と一緒に冒険に行こうよ」
「嫌ですよ。沖田さん、怖いですもん」
「どこがよ!?」
「無駄にスケルトンの首を刎ねるところです」
やってんのはエレノアさんじゃん。
こいつ、悪いところは全部沖田君で、良いところは全部エレノアさんとして見てるな。
そら、沖田君が嫌われるわ。
「もうやんないわ。普通にやる」
「そうしてください。それよりも今日からオークションですよね?」
ナナポンも取り分がもらえるから興味津々だ。
「今日12時からだからもう始まってるわね。終了が金曜の23時59分まで」
正確に言えば、金曜の23時59分59秒。
「予想落札額を見ました? 7億から8億ですって!」
「見た、見た。すごいわよね」
「2個だから15億前後です。私の取り分は10パーセントだから1億5000万円です! ど、どうしましょう!?」
内気なナナポンがめっちゃ興奮している。
これが黄金の魔法だ。
「親に預ければ?」
「は? ないない。これは私のお金です」
金は人を変える。
いや、元からこんなヤツか……
「欲しがってた杖でも買いなさいよ。でも、散財は止めておきなさい。目立つわよ」
「それは朝倉さんにも忠告されましたね。どっかの先輩さんが無職のくせに急に金回りがよくなり、宝くじが当たったってバレバレな嘘をついていたそうです」
あの子、めっちゃばらすな……
俺を反面教師にすんなよ。
「…………まあ、そういうことになるから気を付けてね」
「そうします。でも、杖と防具は買います。危ないので」
「そうね。あなた、普通の格好だもんね」
ナナポンはいつも黒のパンツに白いTシャツ、赤いカーディガンだ。
杖はともかく、冒険者には見えない。
「動きやすくて、汚れてもいい服を選んでいるんですよ」
黒ローブとジャージしか着たことがないエレノアさんにはその辺はわからない。
俺の頭にある動きやすい服はジャージ一択だ。
「黒ローブ、買う?」
「嫌ですよ。エレノアさんと被るし、私が着ると重くなります」
「重い?」
別にローブなんて軽いけど……
「ファッションの話です」
どうでも良くね、と言いたいが、やめておこう。
おっさん認定は嫌だ。
「じゃあ、どうするの? インナースーツでも買う?」
俺は黒ローブの下はインナースーツだ。
軽くて動きやすくて頑丈という良いとこ取りな謎装備。
「それは買います。あとは上かー……まあ、このままでもいいけど、せっかくだし、買おうかなー……うーん」
ナナポンが悩んでいる。
「まあ、ゆっくり考えなさいよ。あなたの場合は奇襲を受けないし、あなたに近づく敵は私が消してあげるわ」
「エレノアさん、かっこいい!」
ほらね。
絶対に褒める時はエレノアさんって言う。
そして、貶したり、バカにする時は沖田さんって言う。
「ありがとう。それと今週だけど、明後日の水曜日に冒険に行きましょう。それ以外は休み」
「私は良いですけど、1日だけで良いんですか? 先週は私の都合でしたけど、全然行ってませんよね?」
まあ、ナナポンは学生だからしゃーない。
テストはカンニングだろうけど、出席日数とかあるし、大学を優先すべきだ。
「オークションもあるし、個人的に部屋を片付けないといけないのよ」
「そんなに汚いんですか? ぼろいとは思いますけど」
趣があると言いなさい。
「来週、引っ越すのよ」
「あー……謎の同棲ですか……」
謎って何だよ。
「彼氏彼女が一緒に住むだけ」
「沖田さん、大丈夫です? 頭の中で完全に付き合ってません?」
そうだよ。
付き合ってるよ。
一緒に旅行に行って、腕を組んだもん。
「子供のお前にはわかるまい」
「いや、まあ、好きにしたらいいとは思いますけどね。どこに住むんです?」
「練馬。結構、良いとこだぞ。そういや、お前はどこに住んでんの?」
「沖田さん、口調、口調」
おーっと、カエデちゃんとの同棲の話題になったから変わってた。
「あなたってどこ? 中野?」
前にタクシーで送ろうとした時に中野駅までって言ってた。
なお、俺が誘拐されたため、結局、1人で帰らせてしまった。
「ですね。大学に入って、一人暮らしを始めました。でも、私も引っ越そうかな……ワンルームだし」
「よほど不満がない限り、やめた方がいいわよ。広すぎて管理が大変だし、親に何て言うのよ」
どうせ、そのアパートを借りてるは親御さんでしょ。
「それもそうですね。まあ、いっか。とりあえず、今週の予定は了解です」
「オークションが終わったら打ち上げでもしましょうか。新居に呼んであげるわ」
カエデちゃんと2人でやるのとは別にやっても良いだろう。
サツキさんは…………家に招くと、うざそうだな。
「その時は絶対にエレノアさんでお願いします」
「あなた、そんなに沖田君のことが嫌い?」
いい加減、傷つくぞ。
こちとら、メンタル修復中なんだぞ。
「いえ、そういうわけではないです。ただ、同棲する男女の家にお邪魔するのが嫌です…………なんか生々しいし」
こいつ、本当にムッツリだなー。
エロい漫画とか読んでそう。
「じゃあ、私になっておいてあげるわよ」
「お願いします」
「はいはい。じゃあ、休憩もこの辺にして、再開しますか……」
「ですね」
俺達は休憩を終えると、ハイドスケルトン狩りを再開した。
そして、ある程度のハイドスケルトンを狩ると、夕方になったので、ナナポンを先に帰らせ、この場で解散となった。
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