第049話 ラーメン屋が似合わない3人


 ハリーがラーメン屋で必殺技の横入りをしようとしていた。


「ハリー、あなた、そういうことはやめなさい。迷惑でしょ」


 クレアがハリーに苦言を呈する。


「いいじゃねーか! なあ?」


 ハリーがいまだに肩を組んでいる青年に聞く。


「あ、そうですね。僕は急いでないですし、光栄です」


 …………こいつらって、マジで有名だったんだな。


「見たか、エレノア。これが普通だ。普通は俺らを知っている」


 こいつ、地味に根に持ってるし。


「ごめんなさいね。知らなくて。私、外国のことに疎いの」


 自意識過剰男め!


「…………ハリー、私にもダメージが来るからやめなさい…………それとごめんなさいね」


 クレアがハリーを止めると、譲ってくれた青年に謝った。


「い、いえ、クレアさんですよね? 握手してもらえませんか?」


 クレアはそう頼まれると、快く握手をした。

 さすがはアメリカで人気の有名人だ。


「あ、ありがとうございます………………」


 青年はクレアに感謝すると、俺を見てくる。


「…………何よ?」

「あ、いえ、すみません」


 俺を見ていた青年は謝りながらそっと目を逸らした。


「そらねーぜ。せっかく譲ってくれるってのによ」

「私はそこまでしてこのラーメン屋に行きたくもないし、譲ってもらう必要もない」


 そんなことをするくらいなら並ぶ。


「エレノア、ここまで来た以上はもうダメよ」


 クレアはすでに諦めているようだ。

 こういうことに慣れている人に従った方がいいか。


「わかったわよ。握手すればいいんでしょ。握手の何がいいかわからないわ」


 俺はツンデレみたいなことを言いながら青年と握手した。

 そして、それを何人も繰り返していき、店に入る。


 俺達は店に入ると、3人並んでカウンターに座った。


 自分でもわかる。

 絶対に場違いだ。


「せめてジャージで来ればよかったわ」


 当たり前だが、こんなところに来る予定はなかった。

 こいつらをご飯に誘ったのは俺だが、もっと普通に話せるところを想定していた。


「いや、あんたはジャージでも浮くだろ」

「そうね」


 黒ローブはもっと浮くわい!


 俺達はそれぞれラーメンを頼み、待っていると、すぐにラーメンが出てきた。


 俺はラーメンを食べようと思い、箸で麺を掴むと、長い髪が垂れてくる。

 エレノアさんで麺類を食べるのは初めてなので、こんなことが起きるとは思わなかった。


「結べば?」


 隣に座っているクレアが忠告してくる。


「髪留めもゴムもない」

「はい、あげる」


 クレアがポケットからゴムを取り出し、カウンターに置いた。


「結んでちょうだい」


 俺、結べない。


「は? 私が?」

「お願い」

「あなた、お姫様か何か?」

「実はそうなの」

「はいはい」


 絶対に信じてないであろうクレアだったが、立ち上がると、座っている俺の後ろに回って髪を結んでくれた。


「ご苦労であるぞよ」


 こら、楽だわ。

 家に帰ったら髪を結ぶ練習をしよう。

 剣を振る時に邪魔だったし、今後もこういうことがあるかもしれない。


「それ、王様とかじゃない?」


 席に戻ったクレアはきれいに箸を握り、ラーメンを食べ始める。


「気にしない、気にしない。あなた達って、普通に箸を使うのね」


 クレアもハリーも普通に箸を使っていた。

 というか、クレアに至ってはレンゲにミニラーメンを作っている。


「まあ、色々あるのよ。言葉も普通でしょ?」


 言われてみれば、こいつらってマジで日本語が上手いな。

 昔、日本にいたのかね?


「上手ね。まあ、深くは聞かないわ」

「そうして。ねえ、エレノア、あなたって、フロンティアのどこで活動しているの?」

「クーナー遺跡かな。最近は行ってないけど」


 ということにしておこう。


「ふーん、あそこか……どんなところ?」

「何? 行くの?」

「せっかく日本に来たし、ギルドの許可も得たからね」

「外国人でも行けるのね」


 知らんかった。


「普通は無理よ。ただ、日本とアメリカは協定を結んでいる。と言っても、中々、許可は下りないけどね。今回は特別」

「私?」

「まあ、あなたね。要はアイテム袋が本当にドロップするのかの検証をしてこいって」


 残念。

 ドロップしないね。


「頑張って。スライムだから」

「クーナー遺跡にスライムは出てこないわよ」


 そういやスライムじゃなくて、スケルトンだわ。


「スケルトンからも出るかもね」

「すっごい適当。まあ、観光気分よ」


 Aランクがクーナー遺跡でやることなんてないしなー。


「なあ、エレノア、おかわりを頼んでもいいか?」


 ハリーがそう言ってきたのでハリーの器を見ると、汁も残っていなかった。


「早いわねー。どうりで静かだと思ったわ。勝手に頼みなさい」


 でも、塩分を摂りすぎんなよ。


「美味しいとは思うけど、よく2杯目を食べられるわね……」


 クレアも呆れている。


「ねえ、クレア、私の追っかけさんは?」


 さすがにこんなところで下手なことは言えない。


「調査中。一応、気を付けて」

「あなた達って2人?」


 アメリカのエージェントって少ないん?


「一応、こっちにも調査員はいるわよ。でも、表立って動くのは私達ね」

「ふーん。どちらにせよ、オークションが終わるまでは大人しくしててほしいわ」

「同感ね」


 俺達はそのままラーメンを食べ続けた。

 そして、食べ終えると、長居するのも悪いので、店を出て、2人とその場で別れた。

 なお、店の大将にサインと写真を頼まれたので嫌々ながらもサインを書き、大将を含めた4人で写真を撮った。


 俺はハリーとクレアのかっこいいサインを見て、サインの練習もしようと思った。

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