第010話 エデンの森 ★
ゲートをくぐり、エデンの森の前まで来た俺はすぐに森に入って探索することにした。
この森は普通なら迷いやすいが、実はあちこちに杭が打ってあり、それが地図にも載っている。
だから杭を目印にすれば、まず迷って遭難することはないようだ。
俺は最初の杭を発見し、地図と見比べながら自分の位置を確認する。
「これは安全だわ……っていうか、逆に言うと、地図がないとヤバい」
ほぼ必需品だろう。
最初の探索の時、カエデちゃんは俺がカバンを持っていなかったから言わなかったんだろうが、俺がカエデちゃんの想像以上のバカだったらどうすんだよ。
水も持ってなかったし、普通に死んじゃうよ。
まったく!
俺は自分の落ち度を棚に上げ、モンスターを探し続ける。
今日の俺の目的はレベル上げ兼小金稼ぎである。
レベルを上げ、強くなり、新しいレシピも手に入れるのだ。
俺は意気揚々と森の中の道を進んでいると、前方で森からゴブリンが出てきた。
ゴブリンは道を横切ろうとしたらしく、道の真ん中で一瞬、動きが止まると、俺と目が合った。
「ギー!!」
俺に気付いたゴブリンは当然、襲いかかってくる。
俺は腰の刀に手を伸ばし、そのまま構えた。
そして、俺の間合いに入ったゴブリンを居合抜きで斬る。
ゴブリンは一刀両断され、ナイフを残し、煙となって消えていった。
「うん、この刀、すげーわ」
軽いし、切れ味もいい。
しかも、店員曰く頑丈らしい。
「高いと思ったけど、これで50万円は安いなー」
これより高い刀ってどんなんなんだろう?
火でも出るのかな?
俺は昔読んだ漫画を思い出しながらナイフを拾い、カバンに収納した。
そして、再び、道を歩き始め、モンスターを探していった。
◆◇◆
森を歩き始めて、2時間が経過した。
これまで多くのスライムやゴブリンを狩り、ドロップしたアイテムを集めている。
「ウルフが出ないなー」
ウルフは滅多に出ないとは聞いているが、2時間も探索して出ないとは思わなかった。
俺は喉が渇いたのでカバンの中からペットボトルの水を出す。
「うーん、さすがにカバンも一杯になってきたなー」
俺はカバンに入っている薬草を1つ掴む。
「これが500円かー。時給にすれば儲かっている方だとは思うが、回復ポーションのインパクトには負けるな」
俺は薬草を見ながら水を飲み、ふと、ひらめいた。
「ペットボトルの場合はどうなるんだろう?」
俺は気になったので、まず、ペットボトルの水を純水に変えると、その中に薬草を投入する。
そして、じーっと見つめ、回復ポーションを作成した。
すると、俺の手の中にあったペットボトルがフラスコに姿を変えた。
しかし、いつものやつよりも軽い。
「容器がガラスではなくて、ペットボトルの素材……名前は知らんが、それになってるし…………」
俺が強く握るとべこべことへこむ。
どう見ても、ペットフラスコ(?)だ。
「こっちの方が軽くていいな。しかも、割れないし」
俺は今度からこれにしよう思い、ポーションを飲む。
すると、すーっと身体が軽くなる気がする。
どうやら疲労が取れたようだ。
「これも無味無臭の水……だったらこっちの方が良いじゃん」
水代を合わせて600円の水は高いが、疲労も取れるならこっちの方が断然良い。
疲労が取れた俺は再び、森の中を歩き続け、スライムとゴブリンを狩り続けた。
「そういや、レベルは?」
俺はカバンからステータスカードを取り出し、見てみる。
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名前 沖田ハジメ
レベル3
ジョブ 剣士
スキル
≪剣術lv5≫
☆≪錬金術≫
----------------------
「レベル、上がってるし…………」
いつの間にかレベルが3になってる……
テレレ、テッテッテーのお知らせはないのかよ……
不親切だなー。
「あ、でも、レシピが増えているはず!」
俺はステータスカードの錬金術のところをタップする。
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☆≪錬金術≫
素材を消費し、新たな物を作ることができる。
レシピはスキル保持者のレベルが上がれば増える。
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レベル3
回復ポーションlv1、性転換ポーション
眠り薬、純水
翻訳ポーション、アイテム袋
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「あ、カニ……じゃない、アイテム袋だ……」
作れるのか……
それに翻訳ポーションか。
まあ、名前からして、違う言語を理解できるとかそういうのだろう。
問題は必要な素材だ。
「えーっと、翻訳ポーションは純水と砂糖…………」
人はそれを砂糖水って言うんやで?
「次のアイテム袋は…………入れ物と輪ゴム?」
入れ物は物が入れば、何でもいいみたいだ。
このカバンでもいいし、ダンボールでもいい。
「ふーん、さすがに輪ゴムは持ってないから後で買うか……」
とはいえ、今日はカエデちゃんとご飯に行くし、その帰りにコンビニに行こう。
多分、売ってる。
「作ったら売るか……?」
カニ?
「うーん、保留」
まだポーションで儲けることはできるし、今は便利になったことを喜ぼう。
部屋のポーションとかを片付けられるし、持っていく荷物も減らせる。
「よし! そろそろ戻るか」
俺は来た道を引き返そうと思い、その場でくるっと回転する。
そして、数歩歩いた瞬間、左に何かの気配を感じた。
俺は特に動揺もせずに、腰の刀を抜きながら左に刀を振った。
「――ギャン!」
チラッと左を見ると、狼が真っ二つで横たわっている。
狼はすぐに煙となって消えていき、小指くらいの白い物体を残した。
「ウルフか? 確かにこの奇襲は危ないわ」
剣術を習っていてよかった!
こんなん、普通の人間は無理だろ。
「うーん、ウルフって雑魚ちゃうん?」
よーわからん。
とても雑魚には見えない。
「まあいいや」
俺は気にしないようにし、ドロップ品である小指サイズの尖った白い物体を拾う。
「牙……かな?」
狼だし、牙だろう。
高いのかね?
俺はとりあえず、カバンに入れ、再度、ステータスカードを見てみた。
だが、レベルは3のままだった。
「やっぱりか……」
実はネット情報だが、エデンの森ではレベル3まではすんなりと上がるらしい。
だが、そこから中々、上がらなくなり、レベル5まで到達すると、一切上がらなくなると書いてあった。
多分、経験値的な考えだと思われる。
「もうエデンの森はもういいかなー……」
森で1人だと、ちょっと怖いし……
俺はスマホの時計を見て、すでに4時になっていることを確認すると、ギルドに帰還することにした。
そのまま引き返していくと、森の浅い所で何人かとすれ違う。
男女問わず、比較的、若い人が多かったが、明らかに高校生くらいのグループには強そうな大人がついていた。
多分、引率者か何かだと思う。
俺は初めて自分以外の探索者を見かけたことでちょっとほっとした。
そして、森を出ると、そのままゲートをくぐって帰還する。
ゲートをくぐり、ロビーまで戻ると、昼間は閑散としていた受付がそこそこにぎわっていた。
さっきのエデンも森ですれ違った人やこのロビーを見る限り、どうやらにぎわうのは夕方のようだ。
俺はカエデちゃんのところに並ぼうと思い、カエデちゃんの受付を見ると、そこには誰も並んでいなかった。
理由は明白である。
カエデちゃんは受付には座っているが、受付には『受付休止中』と書かれたプレートが置いてあるのからだ。
俺は他のところに並ばないといけないのかなと思ったが、俺と目が合ったカエデちゃんが手招きをして、俺を呼んできていた。
俺はそのままカエデちゃんのところに行く。
「おかえりなさい」
俺がカエデちゃんの前に行くと、カエデちゃんがプレートを横にずらした。
「いいの?」
俺はプレートを指差しながら聞く。
「もう5時は過ぎてますもん。でも、先輩は専属なのでサービス残業です」
俺はそう言われて、壁にかけられている時計を見ると、5時5分だった。
「あー、ごめん、ごめん」
「いえ、いいんですよ。フロンティアに冒険に行ってたんですからね。少しくらい遅れるのはしょうがないです。むしろ、慌てられて事故に遭うのが怖いです」
確かにそうかもしれない。
余裕が大事だろう。
「なるほどねー。あ、これが取ってきたやつ」
俺は肩にかけているカバンを受付に置く。
「お疲れ様です。じゃあ、見てみますねー………………」
カエデちゃんはカバンを開け、まず、空のペットフラスコを取り出した。
そして、それを凝視する。
「…………よいしょっと」
俺は手に持っているペットフラスコを凝視しているカエデちゃんからペットフラスコを没収すると、べこべこに潰し、ポケットに入れた。
「見て、見て、ウルフからこんなんがドロップした」
俺はカバンから牙らしき物を取り出す。
「ハァ…………すごいですね! これはウルフの牙です。2000円ですよ」
カエデちゃんはため息をつきながら首を横に振ったが、すぐに笑顔になってくれた。
「2000円? 安くね?」
「そんなもんですよ」
「危険度と釣り合わん」
「あー、奇襲を受けたんですね…………確かに奇襲は怖いですが、死にはしませんよ。ウルフって名前は狼ですけど、そんなに力は強くないです。子犬程度ですよ」
マジで雑魚だったのか……
「なるほどねー。だからか……」
「ですね。しかし、多いですねー。初心者の量じゃないです」
「全部、一撃だからね。もうエデンの森はいいかと思っている」
「私もそう思います。先輩は元が初心者ではないですからもう次のステップに行くべきですね」
年収1000万にならないといけないしね。
「そうするわー。次はどこにするか、また考えておく」
「そうしてください。アドバイスもできますが、今はネットで大抵の情報が書いてありますからね」
攻略サイトを見ながらゲームをするようなもんだな。
「了解。あ、これ、全部、売却ね。それとカードと武器」
俺は腰から刀を抜くと、受付に置き、カードも提出する。
「はい、確かに。じゃあ、ちょっと待ってくださいね」
カエデちゃんはカバンごと奥に持っていった。
しばらくすると、空になったカバンを持って戻ってくる。
「35400円ですねー。すごいです」
カエデちゃんが嬉しそうに明細を渡してくる。
「すげーなー。前の会社の何日分だろ?」
あんな地獄を何日も味わうよりもずっと楽だったのに。
「先輩、忘れましょ。先輩はもう冒険者です…………」
カエデちゃんが俺の肩に手を置き、首を横に振る。
「おー……今、カエデちゃんに抱きつきたくなったわ。しかも、涙が出そう」
「…………先輩、ギリ病んでないって言ってましたけど、絶対にすでに病んでます」
やっぱり?
「飲もう……」
こういう時は酒だ。
最近、いっつも飲んでるけど。
「ですね。じゃあ、私も着替えてきますんで、外で待ち合わせしょう」
「俺、着替える前にシャワー浴びとこ」
「それがいいです。あ、これが先輩から預かっていた荷物です」
カエデちゃんは受付の下から俺のカバンを取り出し、渡してくれる。
「あんがとさん。じゃあ、外でね」
「はい。ゆっくりでいいですよ」
「はーい」
俺はカエデちゃんに手を振り、更衣室に向かった。
◆◇◆
私は更衣室に向かった先輩に手を振る。
そして、先輩が更衣室に入ると、思わず、ため息が出た。
あの人、前職ではホントに大変だったんだろうなー……
しかし、ホント、バカだわ。
私の中のエレノアさん=先輩説が99パーセントから100パーセントに変わった。
あのフラスコ型のペットボトルは何?
隠しとけ!
エレノアさんと同じ白いカバンを持っているのは何故?
違うのを持ってこい!
フロンティアにまだ2回しか行ってないって何?
先輩はまだ1回でしょ!
マジで隠す気あるんか!?
ハァ……多分、先輩はバカなこともあるが、それ以上に私を信頼してくれているのだと思う。
だから警戒心がまったくなく、素で話すのだ。
それがさっきの先輩でわかった。
あの人、ガチで病んでるわ。
うーん、優しくしてあげよう。
でも、どうしようか?
このままではマズいのは確かだ。
間違いなく、明日、先輩はエレノアさんの姿でここに来る。
私が休みなのを知っているからだ。
そして、おそらく、ポーションを売る。
だって、さっきの空のペットボトル…………いや、ペットフラスコはポーションが入っていたものだろう。
すべて一撃で倒したという先輩に高価なポーションが必要なわけがない。
つまり、ケガもしてないのに飲んだ。
先輩は間違いなく、ポーションを軽視できるだけの量を持っている。
そして、何より…………
私は先輩から受け取ったステータスカードとこっそり持ってきたエレノアさんのステータスカードを見比べる。
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名前 沖田ハジメ
レベル3
ジョブ 剣士
スキル
≪剣術lv5≫
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名前 エレノア・オーシャン
レベル3
ジョブ 剣士
スキル
≪剣術lv5≫
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…………レベルが連動してるし。
私は先輩がフロンティアに向かってから暇だったのでエレノアさんのステータスカードをこっそり持ちだし、眺めていたのだ。
すると、急にレベルが上がったのでビックリした。
多分、先輩のレベルが上がったと同時にエレノアさんもレベルが上がったのだと推理できた。
だって、エレノアさん、今日は来てないもん。
もう証拠は完全に揃っている。
なんでステータスカードが2枚もあるのかとか、ポーションの出所との謎の部分は残っているが、これだけあれば先輩も白状するだろう。
この後の飲みで問い詰めて吐かせるか?
いや…………今日の飲みは嫌だ。
久しぶりの先輩との飲みだし、先輩がかわいそうだもん。
あと、奢りだし……
となると…………明日は休めないな……
めんどくさい先輩だよ、ホント。
…………しかし、女装かー。
しかも、あのレベル。
許容できる……かな?
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