第3話 半透明の歯車

 ◆

 病院を出ると、閃輝暗点についてスマホで検索した。

 どうやら芥川龍之介の「歯車」にも出てくる有名な症状らしい。


 青空文庫のアプリで「歯車」を開いた。


「歯車」は芥川の晩年に書かれた小説だ。


 自殺間際の芥川の精神状態が書かれていると読書家の人のBLOGに書いてあった。

 

 話の内容は作者の身辺日記みたいな感じで、芥川が読んだ本の話がたくさん出てくる。特にストーリーらしいストーリーはなく、内容はよくわからなかった。


 閃輝暗点について芥川は「半透明の歯車」と書いていた。


 頭痛の前触れとして歯車は登場する。右目の瞼の裏だけに映り、最初は一つだけだった半透明の歯車が次第に数を増やしていき視界を塞いでいく。


 ボクには難しくて意味のわからない小説だったけど、この描写だけは、やけに生々しく感じた。


 ただ、自分の身に起きていることとは微妙に違うような気がした。


 文字なのでビジュアルは想像するしかないけど、ボクの場合は、半透明というよりは、ピカピカと点滅する無数の光が視界を覆っているという感じだ。


しかも、とても色鮮やか。


 金、銀、赤、青、黄、紫、緑エトセトラ、エトセトラ……。

 さまざまな色の光が飛び交っている。


 陳腐な言い方しかできないけど、万華鏡の中にいるみたいだ。

 どうにも気持ちが落ち着かない。

 

 ただ、四方八方に光が拡散している様子は、確かに歯車と言えないことはない。


 他にも近い症例がないかと閃輝暗点」で検索してみた。

 病院で言われたこと以上の情報は見つからなかった。


 眼科にも行くべきか?


 心因性のストレスなら、言われることは同じか。


 ◆◆


 家に帰り、病院でもらった軟膏を塗ると、痒みはだいぶ引いた。


「あんたが小さい時もアトピーで大変だったのよ」


 母はそういうと肌荒れが広がらない対策についていろいろと教えてくれた。


 とにかく肌を掻きむしらないことが大事らしい。

 爪を短く切り、痒くなったらすぐに患部を冷やすかシャワーを浴びるようにと、母に言われた。


 部屋も散らかっていて埃っぽかったので、すぐに掃除して、窓を開いて換気した。


 しばらくすると皮膚から痒みが引いて少し安心した。

 でも、目の前の光は消えなかった。


 疲れたので目を瞑り、ベッドに横になった。

 目を瞑っても、無数の光がチカチカと点滅している。



 星空やホタルを見ているみたいだと考えれば、ロマンチックな光景だけど、強制的に見せられるものは、どんなにきれいでも不愉快だ。


 意識を失うまでこの状態が続くのだから、ストレスが溜まるのは当然だった。


 光は次第に数を増やしていき、視界を覆っていく。


「いい加減にしろ!」


 思わず口に出してしまった。

 神様か悪魔かわからないけど、この状況を作り出したヤツに文句を言ってやりたかった。


 光は四方八方へと飛び散った。

 

 声が届いた?


 突然のことに驚いたが「これも心因性ってやつか」と思い、勝手に納得した。

 納得すると安心したのか、ボクはすぐに眠ってしまった。

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