いつだって雪兎くんだけを見てる
みなさんこんにちは、長谷川理玖です…。って、ゴメン。今ちょっと、呑気に挨拶してる場合でもねぇわ。
いや、ついについに骨折が完治したので再び接骨院にてギブスを外しに来たんですよ。前にも言ったけれど、いやもう本当に遠かった長かった。すでに、暦としては6月に入っちゃいましたしね。
何だかんだ、拘束具でしかなかったギブスにも愛着が湧いてきた。これ外したら、この話今から全部タイトル詐欺になるんじゃ?でも、これで終わりじゃないぞよ。もうちっとだけ、続くんじゃ…。だから読者のみなさん、良ければもうちょいお付き合い頂ければ幸いです。
なんて考えてたら、軽く自分の目を疑った。接骨院の爺さんが、電マの先に刃をつけたような機械を取り出してきやがったぞ!?え?ちょい待って。これもしかして、外すって言うか切るの?切るって言うか、斬るの!?
「ギプスカッターじゃよ。あと、ギブスじゃなくて『ギプス』な」
なんか知らんが、爺さんが少年漫画の必殺技みたいな単語発して来やがったぞ!?それと、知らんがなそんなもん。椎○林檎だって、「ギブス」って歌ってたでしょ?あぁ、あれは歌詞の中に入ってた訳でもないのか。
爺さんが多分スイッチを入れたと同時に、刃がヴヴヴ…と凄い音を立てて回転する。こんな所まで、電マとそっくりだな…。って、ちょちょちょ待って。それ絶対、皮膚まで切断するやつじゃ?
「ご安心あれ。ギプスカッターは歯が回転して切断する訳じゃなく、歯の振動により切断していく仕組みになっておる。だから、皮膚を切断してしまう事はないのじゃよ」
なーんだそうか、安心した。って、全然分からんわ!「回転」と「振動」で、何かが変わるのか?これって、オレに国語力が無いから理解出来ないの?もしくは、その他の理系的な知識?
「まぁまぁ、怖いのは一瞬じゃよ。ほれ、サクッとな」
そうして、爺さんが機械を固定したギプスに押し当てると…。宣言した通り、あっと言う間に切断してしまった。うぅ、安心したけれど…。我ながら、情けない。中学生にもなって、あれやこれや色々と漏らす所だったわ…。
だけど、他人から電マ押し当てられてる気がしてそこはちょっと興奮したかな。もし要望あれば、雪兎くんと電マで抜き合う話もしくは電マで抜いた過去話を掲載しますね。
雪兎くんで思い出した。やっとこさで利き腕…左手が自由になったので、その事はいの一番に彼に報告したい。だけど、さっきからしばらくLIMEの返信がないんだよなぁ。
爺さんが居場所の心当たりあるってんで、こうやって近所の公園までやって来たよ。高崎市で日本庭園のある公園って行ったら、土地勘のある人はだいたい分かるんじゃないかな。
言い忘れてたけど、外は雨。最近、多くなってきた。まだ梅雨入りはしてないけど、言った通り6月には入ったしね。接骨院の爺さんは、足の古傷が痛んで難儀してるってさ。
何となく、言っている事が分かる。オレも、傷そのものはとっくに完治してるけど…。何だか、負傷した方の腕が疼く気がするんだ。って言ったら、何だか中二病キャラっぽいな。あかんわ、雨で調子出ない。雪兎くんの顔でも見て、癒やさせてもらおう。
日本庭園のあずま屋に、彼がいた。傘は持ってなくて、レインコートだけみたいだ。一瞬寝てるのかと思ったが、座って考え事でもしてるっぽい。一瞬と言えば、足元に光るうさぎさんみたいな物体が跳ねてた気もするけど…。これは、オレの気のせいだろう。2、3回瞬きする間に見えなくなったしね。
こないだ、トオイの事を綺麗な顔立ちだって言ったばかりだけど…。こうやってじっくり見ると、雪兎くんだって決して負けてないな。むしろ、ただ整ってるだけじゃなくて妙な色気がある。そう感じるのは、オレだけかなぁ?ってか、まつ毛長ぇ…。
彼がもしノンケで一言も喋らなくてオタクじゃなくて一歩も動かなかったら、きっと女子にはモテただろうな。って、条件多っ。だけど、その世界線のオレはきっと雪兎くん…。ってか、男に惚れる事はなかったと思う。オレはやっぱ、コロコロと表情の変わるいつもの雪兎くんが好きだ。
「りっくん、いたんだ。それ(ギプス)、外れたんだね。…おめでとう」
目を開けて、雪兎くんが言った。言葉とは裏腹に、あんまりおめでたいと思ってる感じでもない。状況的に、アニメ映画の「言の葉の庭」を思い出した。面白かったけど、どうしても話の都合上暗いシーンが多かったなぁ。今の雪兎くんも、ちょっとそんな感じ。心を読んだように、彼が言った。
「ごめんね。せっかくりっくんが完治したってのに、暗くて…雨は苦手。ってか、よくここが分かったね」
「接骨院の爺さんに、聞いたんだよ。子供の頃から、『楓兄貴』の塾が終わるのを待ってたって?」
「あったなぁ、そんな事も。だけど今は、そうじゃない…。男だか女だか、それすら分からない。だけど、誰かを待っている。ここにいれば、その人に会える気がして…」
「…雪兎くんは、その人が好きだったの?」
「さぁ。恋が何かも、分からない年頃だったから。だけどその人に会って、自分の中でケリをつけないと…。自分自身の恋が、いつまで経っても始まらない気がして」
雪兎くんは、そう言って俯いた。何だか、目の前のオレとは話すのも億劫って感じだ。オレは、多少それにイラッと来たのもあるけど…。
気がついたら、雪兎くんの唇を奪っていた。ついでに、舌もブチこんでめちゃくちゃ掻き回してやった。想像はしてたけど、超柔らかくて気持ちいい…。庭園の遠くの方に通行人がいたかもだけど、知るか。このまま勢いに乗じて、あずま屋の椅子に押し倒してやろうとすると…。
突然、雪兎くんから押し返されて引っぺがされた。華奢なように見えて、思ってたよりも凄い力だ。そりゃそうだよな。これでも一応、男なんだし…。
「りっくん、突然何するの…?こう言うのはね、本当に好きな人とするもんだよ」
そう言って、少し軽蔑するような眼でオレを見た。いや、雪兎くんは人を軽蔑するような人間じゃないと知ってるけど。少なくとも、今のオレにはそう見えたんだ。
ってか、何だよ本当に「好きな人」って。オレの事、好きじゃなかったの?雪兎くんの事、好きじゃないと思われてたの…?ネカフェで、フェラまでしてもらった仲じゃん!だけど、色々と順番が逆だったのかなぁ…。冷静に考えればそうなんだろうけど、この時のオレは怒りで頭が働かなくなっていた。そして、雪兎くんに当たっていた。
「何だよ、『誰だか分からない人』って。いねぇんだよ、そんな人は!いつまでもいない人の事ばっか考えてないで、オレを見てよ!オレだけを見てよ!オレは、いつだって雪兎くんだけを見てるのに…」
それだけ言うのが、精一杯だった。耐えきれなくなって、あずま屋を後にする。目の端に、雪兎くんの涙が見えたような気もするけど…。
うぅ、一番大好きな人を泣かせてしまった。だけど、何ならオレだって泣いてたわ。いつ振りだろう、涙なんて流すの…。腕が折れた時も、泣きゃしなかったのにな。
あずま屋に傘忘れていったけど、まぁいいや。このまま濡れて帰るのも、悪くないし…。馬鹿だから、風邪引かねぇだろ。
それより、雪兎くんがこの雨で風邪引かないといいな。
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