じいちゃんはたぶん異世界転生?
渡貫とゐち
じいちゃんはたぶん異世界転生?
「先日、祖父が亡くなりまして……」
上司に報告すると、気まずい空気が流れ始める。社交辞令で間を埋めても、やはり重くなった空気はなかなか戻らず、おれもこんな空気にしたいわけではなかったのだが……、
「大丈夫? 有休、使ってもいいんだぞ?」
「はい。それは追々……、ただ、そこまで悲しくはないんです。
親や姉が号泣していたので、その隣にいたら、悲しいですけど冷静になれたと言うか……」
祖父は八十歳だった。
もう少し長く生きられたとは思うが、この年齢で亡くなっても、まあ長生きしたとは言える年齢だろう。
四十代までは「早過ぎる」と思うけど、八十まで生きていてくれれば、役目は全うしたとも言えた。他殺でも、自殺でも、事故死でもなく、病気で亡くなったのだ……仕方ないと言える。
冷たい人間だろうか? でも、いつまでも悲しんでいても、じいちゃんが困るだけだと思う……いや、もうおれたちのことなんて忘れて楽しんでいるのかもしれないな――。
向こうの世界で。
「祖父は異世界転生をしたんでしょうね」
「……漫画の読み過ぎだ」
「でも、否定できますか? 天国と地獄がある、という説や、なにもない無の世界だ、という説もありますが、別の世界――異世界へいって新しい人生を過ごしている『かも』しれないじゃないですか。こっちから確認できない以上、絶対に違う! とは言えませんよ」
「それは、そうだが……」
漫画のように前世の記憶を持っているかどうかは分からないが……。
否定できないなら、そういう可能性もあるし、じいちゃんがそっちで楽しんでいると考えていた方が気持ち的にも楽だ。
「亡くなったとは言いますけど、この世界でもう二度と会えないだけです。言ってしまえばそれだけなんですよ。
亡くなって、生きていた痕跡が全て消えるわけじゃない。記録されますし、記憶もしています。おれたちが死んだ後も、同じ異世界へ飛ぶのだとすれば、そこで再会する楽しみがあります。再会すると分かっていれば、別れを長く引きずることもないと思います――」
死んだ人間は異世界へ飛ぶ。
今いるこの世界が、【レベル1】だと仮定すれば、じいちゃんが飛んだ世界は【レベル2】なのだろう……、もしかしたら過去の偉人も、異世界に飛んでいるのかもしれない。
死者が集う世界。
ただ、死んだ人間を飛ばし続けていれば、異世界もパンクするだろう……だから異世界でも死んだ人間は、また異世界へ飛ばされる――たとえば【レベル3】。
長命と短命が、同時にレベル3へいくことも考えられる。
レベル2では出会わなかった二人が、レベル3では『よーいどん』でスタートできるかもしれない……。
「どう思いますか、先輩」
「そうだな、とは言えないが、なくはないだろうな……」
「ですね。昔の偉人に死後、会えるかもしれませんよ」
「でもさすがに、織田信長とかは【レベル4】にいそうだな……、
早死を続けていないと絶対に追いつけないだろう」
大差を縮めるために自殺をする……あれ?
仮定の話をしていたけど、もしかしたら……――過去にこの世界で自殺をした人たちは、既におれと同じ仮定を思いついていて、偉人との差を縮めるため、早めに死んだのではないか……?
早々にレベル4や5にいくために、自殺を繰り返していたりしたら……。
「織田信長を追い越して、レベル6や7までいったら……先輩面できるかも――」
「まあ、そんなわけないだろうがな」
「ですよねー」
すごろくのマスみたいだ。
そんな軽く渡れる異世界ではないだろう。
だけど、
そこまで極端ではなくとも、じいちゃんはきっと、異世界で楽しくやっているはずだ。
「ほんと、漫画みたいに女を引き連れて、冒険してるかも……」
否定はできない……、そんな第二の人生もあるかもしれないな。
―― 完 ――
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