28.何とか合流した
ざざざ、と木の枝や下草をかき分ける音がする。ま、当然というかドラゴンには聞こえているだろうな。
聞かせている、というのもある。ドラゴンの意識を、コルトたちからこちらに向けるために。
「いざ、参ります!」
「姐さんに続けええええ!」
「おおおおおっ!」
……あーいや、リュントが突貫するのにアードとチャーリーが元気よく着いてってるだけか。まあ、いずれにしろドラゴンがこっちに気づいてる前提で急がないとな。
そう考えているうちに森が開けた。小さな広場にこんもりと小さな丘、そこに洞窟の口が開いている。
そして、そこを睨んでいるような、くすんだ緑色のドラゴン。
「バッケ、あそこ!」
「おー、あったあった!」
俺を盾に、身体を低くして走ってるバッケに入り口を指し示すと小さく頷いてくれた。そのまま、ドラゴンに向き直る三人の陰を突っ切って洞窟に飛び込む。
「え、え、えーる?」
入り口のすぐ脇に、コルトがいた。剣を両手で構えて、なんかガタガタ震えている。怪我がひどいな……ポーションも、ラーニャの魔力も切れてるっぽい。
つーか、洞窟の中、血の匂いが充満してるなと思ってざっと一瞥する。そうしてうわ、と思った。
ガロアとラーニャは、ほぼコルトと同じ状態。というか、彼女たちのほうが傷が多くないか? おいコルト、お前後で絞られても知らないからな。
それに、地面にフルールが横たわっているんだけど、彼女の状態が一番ひどい。まあ、剣士だから先頭に立って戦ったんだと思うけど。
「全員、生きてはいるな。よし」
同じように洞窟内を見回したバッケが、状況を確認してからマジックバッグを開いた。俺も収納スキルから、ポーションを山ほど取り出す。
といっても、一度に十本以上飲んだら中毒症状というのか、酔っ払うみたいな症状が出るのでいくら瀕死のフルールでも、それ以上飲ませるのは無理だ。最低限傷を癒やして、あとは。
「ガロア、ラーニャ、ポーションとマジックポーションだ」
ざっくり五本くらいずつ、それぞれの前に置いていく。この二人は魔力も枯渇してるだろうから、マジックポーションも同じだけ。
「そっちの女の子がひどいな。聖女さん、任せていいか」
「え、あ、は、はひっ」
バッケが防御魔術を入り口に展開しながら、ラーニャに指示をする。何がなんだか分かってないっぽい彼女だったけど、つまりフルールの治癒だと気づいて慌てて頷いた。ま、これなら大丈夫だろう。
で、残るはコルトなんだが。
「てめえら! 今頃何しに来た!」
「何って、帰って来ねえっつーから探しに来たんだよ。ほらポーション」
噛みつくように叫んでくるけど、膝がくがくしてるじゃねえか。とりあえず回復用に一本渡して、さっさと飲めと促す。
「あ、おう、ってそうじゃなくて!」
「いいから飲めよ。アード、バッケ、チャーリーの三人組は、貨物輸送の依頼で一緒になった。俺は今リュント、あの子とパーティ組んでる」
「んぐ。え、パーティ?」
……お前、知らなかったのか。まあ、俺はあれからお前に会ってないけどさ。
そのくらい、お前は俺に興味も何もなかったってことか。ま、いいか。
お前が興味あるのは、女の子のほうだもんなってうわ、やばいリュントがっ。
「リュントってあの子か……おい、どこでだまくらかしてきた犯罪者」
「お前と一緒にするな」
「んだとこら……っ」
いやほんと、お前みたいに下半身でよそのパーティからもぎ取ってくるやつと一緒にするんじゃねえよ。
で、ポーションを飲んで回復したコルトが俺に掴みかかろうとした瞬間、俺とやつの間にすとんと何かが突き刺さった。岩の壁に。
「エールに手を上げることは許しません」
リュントがこちら、というかコルトを肩越しに睨みつけている。剣はドラゴンの爪をうまく押し留めているからいいとして、何で予備の短剣こっちに投げてくる余裕があるのかね、お前は。ドラゴンだからか。
「ぐるるるるううううう」
「おりゃあ!」
「はあっ!」
唸りを上げるドラゴンに、アードとチャーリーが同時に飛びかかる。ぶんと振られた長く太いしっぽに跳ね飛ばされ……あ、すげえアード、しがみついたぞ。
「そうしてあなたは、止まりなさい!」
ぐい、とリュントの剣が押し出される。彼女の爪だそうだから、爪同士で押し合いしてるってとこなんだろうな。
チャーリーが体勢を立て直し、ドラゴンの腹の下に潜り込もうとする。アードがしっぽをしっかりつかんでるから、ドラゴンの意識はそっちとリュントに向いてるだろうな。
「フルール、フルール、だいじょうぶだからねっ」
一方こちらでは、ラーニャが回復した魔力を使ってフルールの治癒に専念している。ガロアもどうにか回復して、杖をぶんと振った。
「ああもう、情けないとこ見られちゃったじゃない。恥ずかしいったら」
とか言いつつ、ドラゴンに魔術ぶつける気だろ。杖がうっすら光ってるぞ。
で、コルトもポーションを三本飲み下してすっかり回復したようで。
「ち。てめえらなんぞに、ドラゴンの首は取らせねえよ」
「なら、やってみせろよ『竜殺し』」
尻を叩く意味でそう呼ぶと、コルトは俺を睨みつけてから洞窟を飛び出した。そして。
「んなああああ!」
ドラゴンのひと吠えで、横殴りにされたように吹っ飛んだ。おい、お前そんなに弱かったけ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます