第14話 「ジ·ネクスト」

「ラカム・・・・・」


目が覚めると、知らないベットの上腕には点滴がつけられていた。


「ここは…………」


「ダンスフォードさん!先生に連絡よ」


「ハイ!」


白衣の女性達が慌ただしく動き回る。


「わかりますか?」


「えぇ、ここは?」


「ミューヘン州病院です。どこまで覚えますか?」


「確か、とある会社の施設を見学中にバイオハザードに巻き込まれて…………」


「そうです。そこで緊急搬送されたんです。ダンスフォードさんは。日頃の過労と『CH-2020』の影響で丸2日ずっと寝られてました。」


「2日も………あの連れは無事でしょうか?ルー·プティという女の子なんですけど」


「少し待ってください…………当院の患者リストに名前はありませんね」


「そうですか…………」


「それにしてもダンスフォードさん運が良いですね」


「どういう意味ですか?」


「ワクチンのお陰で『CH-2020』の影響は現時点で身体にありません」


(これまでワクチンを投薬した記憶は無いのだけど、どういうこと?)


「私の寝ている間何がありましたか?」


「そうですね………ダンスフォードさんが救出された施設のテロを実行したという犯人から声明があったくらいですかね?」


「テロリストからの声明?」


「はい。メディアや動画配信サービスを通して世界中に声明を出してました。」


「それって………見られますか?」


「えっえぇ………規制はかけられ始めているけどまだ見れるんじゃないかしら」


あまりに真剣な眼差しに思わず臆する担当のナース。


担当のナースにお願いし、情報端末を手にとるエマ。


画面に映ったのは朧げながら記憶にある場所と雰囲気。


「この世界に暮す全ての人々に告げる」


露骨な機械の声がエマの耳に刺さる。


「我々は『ジ・ネクスト』。虐げられし同胞を救い、自らの行いを秘匿し己の罪と向き合うことから欺き続ける世界に真実を問いただす者」


「御覧の諸君は私が何を言っているのか、理解に苦しんでいるだろう。・・・・・無理もない。諸君はその真実を知らずに今まで生きてきたのだから」


「世界に蔓延し約37万人を死に至らしめた『チャツウェルウイルス』。これは今世界中の英知が結集し終息に向かいつつある。実に喜ばしいことだ。我々の生活を脅かし人類に不必要な不安と恐怖を与えたウイルスを葬り去ることは素晴らしいことだ!」


「・・・・・しかし、皆さんご存知であろうか?『チャツウェルウイルス』は陰で新たな問題を生み出していたことを」


「皆さんが恐れ忌み嫌う『異常発達児』。一定数の20歳未満の男女に突然発現する脅威の身体能力や研ぎ澄まされた五感を上手く制御出来ず、社会的に恐れられ今や『異常発達児』なる差別的呼称までつけられてしまった。何故恐れるのか?それは己が無知だからだ。己の無知が自分の想像を超えた現実を自分には到底叶わないという本能的敗北が彼らを避け嫌うようになってしまった。」


「・・・・・では彼等の立場で考えてみて欲しい。朝。目が覚めると昨日までとは違う自分、混乱の中頼りの大人も原因がわからず苦悩する。そんな状況で己の置かれた環境と戦わねばならない彼等に何故支援ではなく敵意を向けるのか?」


「彼等が生まれた原因はまさに『チャツウェルウイルス』が体内で突然変異を起こし、ある遺伝子を呼び覚ましたからである」


ドクンドクン


自分鼓動が高まるのを感じるエマ。


(待ってアレを公表する気なの?貴方達テロリストが………)


「断罪されるべきはウイルスであり『異常発達児』と呼ばれる人々では無い。それを人為的に作り出した者達が罪を背負い罰を受けるべきなのだ」


「何故『チャツウェルウイルス』が人為的と言えるか。それは『チャツウェルウイルス』がウイルスの異種配合によって生まれた人工ウイルスだからである。」


「そしてその人工ウイルスが人体で突然変異し【ある遺伝子】を目覚めさせた。それが『異常発達児』が誕生した真実だ。」


「【ある遺伝子】と抽象的な表現をしたのは、私のせめてもの慈悲だ。その真実を知った時。皆さんの日常は壊れてしまうからだ。」


「真実を知りたい者は追求すればいい。その必要が無い者は先程述べた事実を頭に入れた上で私達の行いを判断して欲しい。」


「『ジ·ネクスト』はここに宣言する。我々は『異常発達児』と貴方方が呼称する『新人類【キメラ】』を護り。『キメラ』の存在を否定する者、『キメラ』の歴史を否定する者、『キメラ』に危害を加える者達。そしてこの世界の理に対して宣戦布告する。」


「…………と高らかに叫んだところで、失笑を受けることは重々承知している。なので我々の覚悟を見せよう。」


画面に写し出された1人の男性。画面越しでも生気が無いのがわかる。


(…………この人まさか!?)


「この男をご存知の方もいるでしょう。とある国で薬品の研究をしていたこの男。『チャツウェルウイルス』のワクチン開発に多大な貢献をされた

ステファン·シェイド氏です。そのような方が何故貴方方からみたらテロリストの私の側にいるのか」


「彼はワクチン開発と同時に私達『キメラ』を殺す化学兵器を開発していました。私達は彼のような偉大な功績を残された方がそのような開発に関わることなどあり得ないと願っていましたが、残念ながら事実でした。私達は彼と交渉しましたが彼が我々とは決して相容れない組織『フル・ブラット』のメンバーだとわかり、理解しあえないと判断し。我々の手で葬りました。」


「彼のような世界に偉大な貢献をされた方でも我々『キメラ』に対して弾圧をする者ならば我々は抗う。そのことを頭の片隅に記憶し『キメラ』と共に歩もうと一歩踏み出す方々が声をあげることを切に願っている」


「……………」


「ダンスフォードさん………どうされましたか?」


「1人にしていただけますか?」


「…………わかりました。落ち着いたらコールしてください。先生に診ていただきます。」


「ありがとう御座います。」


病室で1人になるエマ。


(シェイドさんの遺体………見覚えのある場所………あの声の主はアイツしかいないじゃない…………)


「なんで、なんでそうなるのよ…………バカ!!!」


溢れる涙は止まることを知らず。我儘をいう幼子のようにエマはひたすら泣き続けた。


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