第7話 目覚めの時

「ハァハァハァ」


「いたぞ!あいつだ!!」


「私がなにしたっていうんだよ、あっ!」


少女の脚を弾丸が貫く。


「うっ・・・・・うぅ・・・・」


倒れ込んだ少女に近寄る銃を持った男達。


「私がなにしたっていうんだよ」


「さあ、よく知らん」


「はぁ?ふざけるんじゃない・・・・ぐは」


「うるさいな。人が来るだろ?」


「うっ、うっ・・・・」


「なんでお前を始末しなきゃならんのか知らないけど、自分の生まれを呪えばいいんじゃないか?」


「私の生まれだ・・・・・?」


「じゃあな異常発達児」


「!?」


パーンパーン・・・・・・




「おはよう父さん。どうしたの難しい顔して」


とある休日。エマは起きてリビングに向かうと新聞を手に険しい表情をする父が座っていた。


「また、異常発達児絡みの事件があったみたいだ」


「!?見せて父さん。」


「おいエマ。」


9/7ロストックの公園にて散歩中の女性が血まみれの女の子が倒れていると警察に通報。現場に警察が到着すると女の子は既に死亡。警察の身元確認の結果、先月から捜索願が提出されていた。異常発達児であることが判明。警察は殺人事件として捜査を開始した。


「これって」


「ここ2年間に急増してるっていう【異常発達児殺人】だろうな。犯行が異常発達児目当てというのはわかるが犯人が一行に捕まらない。不気味な事件だ」


「おかしいわよ。異常発達児といっても彼等は未成年だし人よりちょっとかけ離れた能力を持って生まれただけじゃない。」


「人間は自分とかけ離れた存在。理解の範疇を超えた存在に畏怖し対象に攻撃的になる。・・・・・兄貴の下で教わらなかったか?」


「確かに、伯父さんはそう言っていたけど」


「お前が研究している『チャツウェルウイルス』によるパンデミックで世界が混乱して8年。終息したと言っても人類が抵抗力を身に着けただけで、ウイルス自体は今も存在しているからな。それに異常発達児への抵抗感・拒否感は5年前の『モルドバ一家殺害事件』が影響しているんだろう」


「確か、モルドバにある農村で暮らしていた『ルガール』一家が襲撃された事件よね?一人息子が現在も行方不明でそのご両親と襲撃犯と思われる男達が殺害されたって」


「あぁ。噂によれば、行方不明の息子は異常発達児だった疑いがあるそうだ。惨たらしい現場に熟練の捜査員ですらもどしたって話だ」


「それも酷い話よ。親を亡くして死に物狂いで生き残ったのに、異常発達児ってだけで疑いの目を向けらるなんて」


「だが状況だけみれば、殺人を犯したその息子が現場から逃げた。が一般的な見解になるからな。真相がどうであれあの事件が異常発達児を世の中が排除しようとする風潮を作りだしたのは事実だろう」


「・・・・・そういえばラカムは?」


「ラカム君なら起きて早々ブリューゲル伯父さんの所に向かったわよ。随分朝早かったわね」


「もう!私の買い物に付き合うって約束したのに」


「・・・・・彼がこの家に来て3年か」


「お義兄さんがラカムくんを連れてきた時は驚きましたね。養子を取ったとは聞いてましたけど」


「養子として迎えたのはもっと幼い時なんじゃないか?その一報から2年くらい何の音沙汰も無かったし」


「研究で世話が出来なくなるから預かってくれと言われ預かり3年・・・・・最初は人見知りが激しくて心配だったが、いまではちゃんとこの家に馴染むことが出来てるものな」


「家のことも積極的に手伝ってくれて助かるわ。どこかの誰かさんにも見習って欲しいくらいだわ」


「私は研究で忙しいのお母さん。・・・・・じゃあ私も伯父さんのところ行ってくる」


「気をつけてな」


「わかってるわよ」




「また・・・・・救えなかった。」


ブリューゲルの下を訪ねていたラカムは悔しさを滲ませていた。


「お前のせいではないラカム。自分を責めるな」


「俺は爺さんあんたに救われた。だからこうして今こうして生きていられる。」


「『キメラ』の真相を知るのは儂とお前の2人のみじゃ。いくら【血を継ぐ者】達を把握していても、救うには限界がある」


「だからって、クソ!苦しんでいる同じ境遇の人達に救いの手を差し出すことも出来ないなんて」


「今回は救えなかった。だが今まで2人で救えた命もある。そうじゃろ?」


「それは、そうだけど」


ガチャ


「こんにちは伯父さん~ラカムいる~?」


「!?」


「よいか、前を向けラカム。次救えるかもしれない命のことを考えるんじゃ」


「わかったよ、爺さん」


「伯父さん~?やっぱりここって・・・・・ラカムあんたいるなら返事しなさいよね!」


「ごめんエマ」


「約束。忘れたわけじゃないでしょうね?」


「買い物だろ?」


「忘れてはないのね、ほら行くわよ!じゃあね伯父さん!」


「うん。楽しんでくるんじゃよ」


「は~い」



住む町一番の大型ショッピングモールを訪れた2人。


「さ~て、どこから見て周るかな。」


「程ほどになエマ。先月も結構買ってるんだし」


「いいのよ!欲しいと思った時に手にしないと次があるかなんてわかんないんだから」


「・・・・・。」


「なによ」


「前回買った新品の服が泣いてるぞ」


「!?うっさいわね、その時が来れば着るわよ」


ショッピングを楽しむエマとその荷物持ちをさせられるラカム。


「そういえばさ、前々から思ってたんだけど」


「なんだ急に」


「あんたそんなに荷物持たされて不満は無いの?」


「・・・・・持たせてる自覚があるって知れて少し和らいだ」


「あはは・・・・やっぱり?」


「自覚あるなら少しは自分で持て!」


「いいの!力仕事はあんたの仕事なんだから」


「あのな・・・・」


「どうしたの?」


ラカムの視線の先には両親の間で手を繋ぎ笑顔で歩く女の子がいた。


「あれ・・・・エルフマン教授かな?」


「知り合いなのか?」


「私と伯父さんが勤める大学の教授よ」


「そうか」


「ラカム?」


「あっごめん。行こう」


「・・・・・少し、休憩しよっか」


「いいよ別に」


「いいから!私お腹すいたし」


「なら、休もうか」


近くのフードコートで軽食をとることにした2人。


「さて、次はどこを巡ろうかな」


「まだ買う気かよ」


「当たり前じゃない。私の息抜きなんだから」


「・・・・・・。」


「ラカム?どうしたのよ」


突然席を立つラカム。


「ちょっと、ラカム!」


(なにあいつあんなに足速かったの?)


エマは一瞬でラカムを見失った。




「そこの御家族少しよろしいですか?」


ショッピングを終えた家族は帰り道の小路地で見知らぬ白い衣装を纏った3人に声をかけられた。


「あの・・・・・なにか?」


「『ドクトル・エルフマン』教授でよろしいですか?ミューヘン大学の」


「そうだが、今はプライベートだ。仕事の話なら別の日にアポを・・・・」


「【サマエルファイル】を何処にやった。」


「!?貴様ら『FBNK(ファブニック)』か」


「・・・・・。」


「俺は持ってない」


「いいのか?嘘をつけば奥さんと娘さんはさようならだ」


「もう俺は持ってない」


「そうか・・・・・」


「逃げろ!!」


グサ


「カハッ!」


蹲るエルフマン教授。


「あっあなた!?」「パパ!?」


周りの地面は赤く染まり始めた。


「2人に先立つ己を詫びるがいい、あちらでな」


ディュン・・・・・


顔を上げたエルフマン教授の額を1発の弾丸が貫いた。


「いやーー-」「パパ!パパ!!」


2人の叫びが虚しく響く。


「安心してくださいすぐに一緒の場所に送りますから」


娘を庇うように強く抱きしめる母親。


「お母さん。安心してください。すぐに終わりますから」


「あの人が・・・・主人が何をしたっていうんですか?」


「そうですね・・・・・人類に敵対する行いをした。差し詰めそんなところです。」


「なにを」


ディュン、ディュン、ディュン


「ママ・・・・ママ!!」


娘に覆いかぶさるように倒れる母親。


「あっ、あぁ・・・・」


「お嬢ちゃん。ごめんね、辛かったね。パパもママも目の前でこんなに冷たくなっちゃって」


「・・・・・・。」


「安心してお嬢ちゃん。今パパとママのいる場所に連れていってあげるから」


「ウッ、ウッ・・・・」


「成程。エルフマンが関与するようになったのはこの為か。お嬢ちゃん残念だけど前言撤回。君はパパとママとは一緒に行けない。【存在した】ことすら無かったことにしてあげないといけなくなったからね」


「ウァーーー」


「己の血を呪え!!異常発達児!!」


ズシャ・・・・・


「あっあぁ・・・・・」


女の子を撃とうとした白い衣装の男は身体を3枚に卸されていた。


「なんだ貴様どこから・・・・・グホ」


2人目の胸部に腕がめり込み、その手に球状の臓器が乗る。


「くっ来るな、来るな!!」


持っているものを握り潰すと怯える3人目の男にゆっくり近づく。


「やめろ、やめてくれ、やめてくだ・・・・・」


首から持ち上げられ、白目となり泡を吹いた男はその場に投げ捨てられた。


辺りの惨状を目のあたりにするラカム。


(同じだ、あの時と)


「あっうっ・・・・・」


生き残った少女に目を向けるラカム。


「ごめんな。間に合わなくて」


「・・・・・・。」


落ち着かせようと少女に触れようとしたが、ラカムは躊躇った。


「カ、ティア」


「ママ!!」


「大、丈夫?」


「うん、うん」


「あなたが、カティアを?」


「・・・・・。」


「あり、がとう、ご、ざいます」


「俺は、なにも」


「この子を頼め、ますか?」


「・・・・・なんで俺に?」


「あなたもこの子と同じ・・・・ですよね?」


「・・・・・・」


「どうか、この娘を、おねがい、します」


「ママ!」


「カティア・・・・・どうか幸せに」


「!?」



貴方は………生きて、どうか強く幸せに




ラカムに突き刺さる母親の願い。


「ママ・・・・ママ!いや、ママ!!」


(また・・・・間に合わなかった。俺と同じ思いをする子を・・・・・)


女の子の泣き叫ぶ姿を目に後悔と懺悔がラカムの背中にのしかかる。


「君、歩ける?」


「・・・・・・。」


「お母さんはああ言ってたけど、どうする?」


「私って変なの?」


「!?」


「あのお兄さん言ってた呪われてるって、私って呪われてるの?だからパパとママは・・・・そのせいで」


一度は躊躇った少女への接触を今度は迷わず抱擁するラカム。


「お兄さん?」


「そんなことない、そんなことはないよ、君は呪われてなんかないんだ」


「・・・・・俺達は人の新たな希望なんだ」


「希望?」


「そう。俺達は新しいステージに・・・・・進化した新しい人なんだ」


「新しい・・・・・人。」


「行こう。カティアちゃん」


「!?」


「俺達2人で人の新しい未来を探すんだ」


「・・・・・うん。」




(ハァハァ、確かラカムはこの辺に来たはずなんだけど・・・・・?何?あそこ人が集まって。パトカーまで)


野次馬に紛れるエマ。


「!?嘘・・・・・エルフマン教授!」


血なまぐさいむごたらしい現場を目撃してしまうエマ。彼女の歯車もゆっくり動き始めた。



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