第9話「冒険者になる(改稿済み)」
エーリカさんの小さな背中を見つめて、一呼吸。
いつか、あの背中を抱きしめたりしてみたいものだな――なんて身の丈に合わなそうな考えを頭に浮かべつつ、俺は冒険者ギルドの扉を開いた。
すると、中からはそれはまぁ想像したものと同じ通り。
どんちゃん騒ぎ――までとはいかないまでもかなり賑やかだった。
手前のテーブル席から、横には大きな掲示板に無数のクエスト以来らしく用紙の数々、それを見ながら相談している重装備の冒険者やローブを羽織った魔法使いとまさに今まで思い浮かべていた冒険者ギルドのそれと同じだった。
加えてエーリカさんが言ってFいた多種族と言われるドワーフや獣人、エルフが楽しそうに話していて盛り上がりを見せている。
そんなギルド内のざわめきを見つめながら、ふと思い出した。
そう、こんな世界に行ってみたかったんだと。
将来は科学者になるんだろうなと思っていた俺も娯楽としてラノベや漫画、そしてアニメを見ていた。
一種の現実逃避だった世界が今目の前にあるとそれをより実感させられる。まぁ、シュナイダー家に生まれて一時は奴隷として売られたりでもするのではないかと心配はしていたがここにいるということはひとまず、どうにかなったと思う。
というか、そう思わせてほしいが……って言いたいところだ。
ただ、そこを決めるのはこれからの俺だろうし、まず話は冒険者になってからだ。
そうして胸の内を熱くさせながらはその先の受付へ進む。
数人の冒険者がこぎれいな制服を着た受付嬢の女性と話しているのが見える。この時間は冒険者の活動時間なのかなと思いながら、一つだけ空いている窓口へ足を運んだ。
俺が受付前に立つと、奥にいたエルフ?らしき受付嬢のお姉さんが気付いた様で慌てて小走りで近づいてくる。
顔も整ってて銀髪と碧眼の組み合わせが言わずもがなと言ったところだが、俺の視線は走る時に揺れに揺れ捲っていたその大きな胸に焦点がぴたりと合った。
いやもう、デカすぎるだろ。
突っ込みたくなるが、思い返してみれば子供な俺よりも背が低いエーリカさんもそれなりに大きかったし、シュナイダー家の従者として働いていたメイドさんも皆総じてデカかった気がする。
もしかしたら、この世界の特性として胸が大きい女性が多いと言うのもあるのかもしれない。
と、そんな失礼なことを考えているとそのお姉さんがやや不思議そうに声を掛けてきた。
「もしかして……新規さんですか?」
「は、はいっ! その、冒険者になれると聞いてやってきました!」
柄にもなく元気に答えるとお姉さんは優しそうな笑みを浮かべて、「少々お待ちください」と呟いた。
少し待つと、何やら豪勢な水晶玉が出てきて、説明を始める。
「お客様は冒険者ギルドの新規メンバーになるということなので、まずは冒険者ギルドのギルドカードを作らせていただきますね。その際の手数料と登録料を頂きますが大丈夫でしょうか?」
そうか、あれだよな。
これも定番中の定番。
ステータスを表示させるカードの事だろう。
無論、街に入ってから今まで使わずにそのままにしておいたなけなしの金貨1枚がある。
「大丈夫ですっ」
「分かりました。ではまず、銅貨4枚になります」
銅貨4枚。意外と高い。日本円だと4000円程度と考えればその高さが窺える。
これで手持ちは……銀貨8枚が銀貨7枚と銅貨6枚に。
まぁ、ここは未来への投資と考えて割り切るしかない。
「どうぞ」
「ありがとうございます。それでは、魔道水晶の上に手をかざしてください」
「はいっ」
ポケットから取り出した金貨を渡してお釣りをもらうと、俺は諭されたように水晶の上に手をかざした。
すると、ボっと光り出して水晶自体が何か音を上げ始める。いきなりで驚いたがどうやら俺のステータスを読み取っているらしく、問題はないとのことだ。
そして1分足らずで計測が終わり、水晶玉から一枚のカードが飛び出した。
それを何の気なくキャッチするお姉さんはややギョッとした表情をして、俺を見つめた。
うん。言わんとしていることはよく分かる。
正直な話、覚悟はしていたがやっぱりそう思われるのも仕方がないのかもしれない。
そんな顔で手渡しされたギルドカードには細かくこう書かれていた。
――――――――――――――――――――
名前:レオン
年齢:10
種族:人間
性別:男
魔法適性:0/5
魔法属性:なし
オリジナルスキル:【
クエスト達成数:0
魔物討伐数:0
賞罰:無し
Lv:3
――――――――――――――――――――――――――――――
やっぱり。
俺の魔法適性まですべてがバレていた。
さっきも言ったがこの世界は魔法が使えない人の方が少ない。いくら差別がないと言っても魔法が使えない俺ははみ出し者になる。
俄然。お姉さんが言ってくることがあるならば。
「あ、あの……魔法適性が0と書かれてありますが魔法は使えないと言うことでよろしいでしょうか?」
「ま、まぁ。そうですね。僕は魔法が使えませんから。0です」
「そ、そうですか……珍しいですね。でもその、大丈夫ですか? 危険な依頼などもありますが……?」
しっかりと心配していてくれていたようでちょっと安心したが生憎とそれは無用だ。
「そこは分かっているので大丈夫です」
きりっと言い切ると分かってくれたのかそれ以上は言い返さなかった。
さすがプロ。ポーカーフェイスがうまいな。
「……そ、それじゃあ気を取り直して、まずは冒険者ギルドの説明をしていきますね」
「お願いします」
「まず、冒険者ギルドと言うのは非政府機関です。独立して存在し、国に縛られないことを特徴としていて運営されています。ギルドの一員としてレオン様も今後今手にしているギルドカードがあれば基本的にどの都市や国に行き来することができますので無くさないようにしてください」
「はいっ」
さすが異世界。、冒険者と言ったところか。
ギルドカードは便利だな。
「では、冒険者についてもお話ししましょう。冒険者にはクラスと呼ばれる階級があります。下から、
の様になっています。レオンさんは初めてなので白翼からのスタートになりますね。
この階級によって受付できるクエストが異なるのであちらの掲示板に張られている白翼クラスの欄をご覧ください。あとい、騎士翼クラスになりますとギルド長直々の推薦がないとなれませんのでご注意を。それと、ギルドカードの情報は逐一更新されますのでクラスアップやクエスト達成を確認する場合はこのカードの方を見てください」
ギルド長の推薦が必要なのか……。
凄いクラスもあるものだ。
ひとまず俺は、鉄翼あたりを目指すのがいい感じだろうか。
「また、最後に念のためですがこのギルドカードの方を紛失された場合、もう一度手数料を頂くことになります。それと、偽造されると最悪、冒険者資格の永久はく奪になりますのでよろしくお願いします」
「……はいっ」
いや、怖い話だな。
今のところ、俺にできる唯一の職業を取られると困るし、気を付けなければいけないな。
「というわけで、説明は異常となります。質問はございませんか?」
「質問は……とりあえずないです!」
「では、ギルドの一員として誠心誠意頑張ってください。そして、くれぐれも無理はなさらず。ご忠告失礼しますが魔法が使えなくても慣れる職業と言われますがこのっ世界はあまり甘くはありません。とにかく身の安全を第一にしてください」
「あぁ……分かりました」
さすがに言われるよなと苦笑が漏れる。
ただ、やっぱり優しそうで大丈夫そうだ。
「クエストの方は受注しますか? 夜は魔物も活性化するのでお勧めしませんが……」
「いや、今日は大丈夫です。ありがとうございました」
そう言って踵を返す。
色々と心配されたがまずは認められるところからだな。
今日は武器や装備を整えて、明日クエストでも受けることにしよう。こういう時こそ冷静にゆっくりだ。準備不足で失敗した高校受験の荷の前は踏むわけにはいかないからな。
<あとがき>
遅れました。すみません!
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