(主に姿が)ミステリアスな婚約者候補!?

三国洋田

第1話 婚約者候補とお見合い?

「お初にお目にかかります。私は邦総ほうそう 凛理りんりと申します。純田すみだ ひとし様の婚約者候補に選ばれました。よろしくお願いします」


 高さ二メートル、幅一メートルくらいの、粗いモザイクがかかったプレートの向こうから、女性のような声が聞こえてきた。


 モザイクが粗すぎて、相手の姿がまったく見えない。


 人間であるかどうかも判別できない。


 分かるのは、全体的に茶色ということくらいだ。


 えっ、何これ?

 どういうこと?


 何かのイタズラなのか?



 それに婚約者候補って、なんなんだ?


 要するに、これはお見合いなのか?



 そもそも、ここはどこなんだ?


 周囲は和室だ。


 窓からは立派な日本庭園が見える。


 俺と邦総さんは、テーブルを挟んで向かい合っている。


 高級そうな座布団に座っている。


 本当にここはどこなんだ?


 なんで俺はこんなところにいるんだ?


 訳の分からないことだらけだな。



「私の職業は『ハイパーモザイクスペシャルクリエイター』です」


 邦総さんがそう言った。


「ハ、ハイパーモザイク!? なんですか、それは!?」


「ハイパーモザイクスペシャルクリエイターです。男性のきわどい映像に、モザイクや白い光を入れる素晴らしい職業です」


「そ、そうなんですか…… なるほど……」


 男性のきわどいって!?


 それって、どのくらい需要があるものなんだろうな?


「年収は一億円ほどです」


「い、一億!? そ、そうなんですか…… す、すごいですね……」


「ありがとうございます」


 はぁっ!?

 そんなに稼げるのか!?


 俺もその業界で働きたいぞ!?


 後で求人情報を見てみないとな!!


「これだけあれば、純田様を養えます」


「えっ!? え、ええ、まあ、そうですね、はい……」


 えええええええっ!?

 この人は、俺を養う気でいるのかよっ!?


 俺は専業主夫になるのか!?


 まあ、悪くはないかな。


 うん。


 お金があって悪いことはないな。


 うん。



「子供は三人以上欲しいですね」


「そうなんですか」


 三人か。

 結構多いな。


「はい、私自身、子供が好きですし、仕事を継いで欲しいとも思っていますので」


「なるほど」


 ハイパーモザイクスペシャルクリエイターって、受け継いでいけるほど需要がある職業なのか?


 まあ、一億もらえるのなら、相応にあるんだろうなぁ。



「私の趣味は筋トレです」


「そうなんですか」


「はい、この通りです」


「す、すごいですね……」


 今のは鍛えた筋肉を見せたということなのか!?


 モザイクのせいで、全然見えないぞ!?


 もしかして、あれはギャグだったのだろうか?


 マズいな、今のは笑うところだったのかもしれないぞ。


 失礼なことをしてしまったかな?


 申し訳ない気分だ。



「ドライブも好きですね。休日は車で出かけることが多いです」


「そうなんですか」


 そこは普通だな。



「映画も好きですよ。最近は『悪役令嬢に追放されて、ポーションを作って飲んだらスライムになった、と思ったら元に戻ったので、ダンジョンに潜ったらお宝見つけてハーレムができた件ですが、ナニか?』という作品を見ました」


「そうなんですか」


 なんだその訳の分からんものは!?


 タイトル長すぎだろ!?



「ギターも弾けますよ」


「そうなんですか」


 多趣味なんだな。


 というか、筋トレにドライブに映画にギターか……


 女にモテる男の趣味っぽい感じだな。



「後は、ダンジョンでモンスターを狩るのも好きですよ」


「はぁ、そうなんですか」


 ダンジョンにモンスターか。


 ゲームの話かな?



「好きな食べ物は『ネベヲザエセヴォシモチ』です」


 はぁっ!?


「『ヴェヴェヅジユレピヨセミ』と『ヅペンペシヨネキヌ』も好きです」


 えっ!?

 ナニソレ!?


 外国の料理なのか!?


 聞いたこともないぞ!?


「純田様、よろしければ食事に行きませんか?」


「え、ええ、喜んでご一緒させていただきます」


「ありがとうございます。日時は後程ご連絡いたしますね」


「はい、分かりました」


 いったいどんなものが出てくるのだろうな?



「あっ、申し訳ありません。私の話ばかりしてしまって……」


「いえいえ、構いませんよ」


 熱意は伝わってきたしな。


 関心がないよりは良いことなのだろう。


「純田様は、何か質問はありますか?」


「そうですね…… とりあえず、姿を見せていただけませんか?」


「えっ? どういうことですか? 見せていますよ?」


 モザイクに隠れているヤツが、妙なことを抜かしているぞ。


「では、そのモザイクのプレートはなんなのですか?」


「モザイク? プレート? なんのことですか?」


「いや、だから、あなたの前にあるじゃないですか」


「あの、申し訳ありませんが、なんのことかまったく分からないのですが……」


 どういうことなのだろうか?


 ちょっと彼女の側面を見てみようか。



 俺は邦総さんの周囲を回ってみた。


 邦総さんはモザイクのプレートに四方を囲まれていた。


 なんだこいつは!?

 なんでこんな状態なんだ!?


 あっ、もしかしたら、上からなら中を見れるんじゃないか?


 よし、やってみよう!


 俺はモザイクの上端に触れた。


 ん?

 意外と柔らかい?


 このプレートは、何で作られているんだ?


 金属ではないみたいだな。


「きゃあっ!? い、いきなり何をするのですか!? このド変態スケベ色情魔ドスケベ女狂い浮気者クズ変態エロ男!?」


 邦総さんが後退しながら、そう叫んだ。


「はぁっ!? いくらなんでもそれは言いすぎだろ!?」


 変態とスケベが二回もあったぞ!?


「突然、乙女に触れたのだから当然でしょう!?」


 乙女!?

 そのモザイクは乙女だったのか!?


「ちょっとプレートに触っただけだろ!? 何、訳の分からないことを言っているんだ!?」


「開き直って、言い訳をするとは、なんと見苦しい! 愚かな変質者め、こいつをくらいやがれぇぇぇっ!!!」


 突然、邦総さんの前に、白い光の球体が現れた。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」


 しかも、どんどん大きくなっていくぞ!?


 最初は直径十数センチくらいだったものが、今は直径三メートルくらいになっている。


 な、なんだこれは!?


「超必殺! 聖魔せいま月虹げっこう紅蓮ぐれん鳳凰ほうおう漆黒しっこく彗星すいせい蒼穹そうきゅう極夜きょくや懺悔ざんげ殲滅せんめつこうっ!!!!!」


 邦総さんがそう叫ぶと、球体から白い光線のようなものが放たれた。


 俺は光に飲まれ、強い衝撃を受けた。

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