詩集、雑。

半月 工未

短編・前

雑、

「ねえ、何読んでるの?」

 視線は文字を追ったままに、私は小説の表紙だけ見せる。

「それ前にも読んでたよね」

 頷く。

「おもしろい?」

 頷く。

「わたしも読んでみようかなあ」

 返事に困った末に、私はマグカップに手を伸ばす。そうやって口に含んだコーヒーを咀嚼しながら再び文字に視線を落とした。

 数秒の間の後、彼女はまた口を開く。

「どんな話?」

 視線を文字から外す。考えていた。

 数回読み直しても自分なりに解釈できない話を他人にどう説明したら良いのだろう。雑に教えてもいいが、それで彼女は小説をおもしろそうだと思うだろうか。私が適当に話していると彼女に思われないだろうか。

 外した視線が宙を泳いだ。乱雑な机上に目が滑って、窓辺で揺れる花を見た。遠くの電灯が瞬きをして、それに気を取られる。空がもう暗くなりはじめていた。

「邪魔かな、わたし」

 そんなことない。君は邪魔なんかしていない。

 彼女が立ち上がって衣擦れの音がする。電車の走る音がする。水が滴る音がする。

 私は視線を窓から強引に引き剥がす。嫌でも鼓膜に届く雑音は放っておく。読んでいたページで小説を裏返し、それをテーブルの上に置いてからやっと

「話そうか」

と、引き留めるように言う。

 彼女も振り向いてから言う。

「どんな話?」

 私たちは話し始めた。

 それは何とも取り留めの無い言葉たちだった。

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