第62話 剃髪
56-062
「仲間の三木と木村の居場所を詳しく話せ!」
「じ、た、く?」
「そうだ!」
「し、ら、ない」
「勤めているならそこでも良い!」
「な、ご、やし」ウィークジャーナルの名古屋支店の住所を喋る美沙。
院長はその住所を書き留めた時、室内の内線電話が鳴り響いた。
「なに警察!何の用事だ!」
「桜木絢奈さんって患者がこの病院に入院していないか聞かれました。今治療中の患者さんですよね?!」
「そ、そうだが・・・しばらく待たせろ!何も言うな!」と焦って電話を切った。
「大変だ!警察が来た!直ぐに地下室に連れて行って隠せ!」
二人の看護師と溝端女医が美沙を車椅子に乗せると、治療室から秘密のエレベーターに向った。
院長は慌てた様子で急いで治療室から玄関に向った。
院長と溝端女医の関係者しか真実を知らないので、他の看護師、関係者は喋る可能性が有ると慌てていた。
院長が三宅刑事達の処に行くと「この病院に桜木絢奈さんという若い患者さんが土曜日に運び込まれたと思うのですが?」
「その様な患者居たかなあ?」惚ける。
その頃、吉永看護師が美沙の部屋を掃除していて、ベッドの隙間に挟まれたノートを見つけて読み始めていた。
読み終わると、ただ事ではないと感じた吉永看護師は誰にも分らないように外に出て警察に通報しようと玄関に向った。
玄関先の異様な雰囲気に気が付き近づくと、それが刑事だと判った。
「刑事さんですか?」大きな声で呼びかける。若い町田刑事が「何か?」と言って吉永看護師に近づく。「これを読んで下さい!」ノートを差し出す吉永看護師。
それが何か判らない院長は「今、君がこの様な場所に来なくて良い!」と怒鳴った。
ノートを広げて読んだ町田刑事は「三宅刑事!これ!」とノートを差し出した。
手に取った三宅刑事が読み始めて「院長!桜木絢奈さん!いいえ!赤城美沙の監禁容疑で緊急逮捕します!」と厳しい表情で叫んだ。
「何だ!逮捕状も無いのに、監禁の証拠は何処に有る!ここは病院だ!病人は預かっているが監禁では無い!」
「このノートに克明に記載されている!京都府警が直ぐここに来ます!諦めて赤城さんをここへ連れて来なさい!」三宅刑事が院長に強い口調言った。
既に同行していた京都府警の刑事が本部に事件の報告をして、大勢の警官の出動が開始されていた。
「逮捕状が無くても逮捕出来るのですよ!諦めて早く連れて来なさい!」
その言葉にようやく項垂れて「連絡出来ない場所に監禁しているので、一緒に付いて来て貰えるか?」
「行きましょう!」町田刑事が言うと、小南と三木の二人も付いて行く。
三宅刑事はノートを持参した吉永看護師に事情を聞くと、すぐに大阪府警に連絡を取り新和商事の家宅捜査、モーリス本社の糀谷専務と松永部長の逮捕を依頼した。
地下室に向った小南達は、美沙の姿を見るなり愕然となった。
「美沙!」と駈け寄るが殆ど反応は無く虚ろな眼差しで「・・・」言葉が消えていた。
溝端女医と静内、秋山看護師の三人は直ぐに監禁容疑で逮捕されて地下室から連れ出された。
「何故?こんな酷いことを」小南が泣きながら訴える。
「一億円を強請り取られたので、自白させる為に薬と電気治療を行ったのだ!明日になれば意識は完全に戻るから、安心しろ!」院長は投げやりに言う。
小南は美沙を抱き抱えて車椅子に乗せ地下室を出た。
「帽子か鬘は無いの?可哀想だわ!」
三木が呆然と立ち尽くしていたが、我に返り慌てて「捜して来ます!」と走って行った。
三木は、美沙の哀れな美沙に唖然としたが、無事で良かったと気を取り直していた。
救急車が到着すると小南は美沙に三木が用意した帽子を深く被らせて一緒に乗り込んだ。
京都府警のパトカーが数台来て、院長、溝端医師、二人の看護師は連行された。
三宅刑事が吉永看護師に、「公判で証言をお願いすると思いますので宜しくお願いします」と言った。
救急車の中から、小南は美沙が無事救出された事を美沙の両親と宮代会長に連絡した。安堵した両親は直ぐに病院に向うと言った。
クラブJの黒木マネージャーから、院長の携帯に着信があり、三宅刑事が黙って電話に出た。
「ボイスレコーダーはありましたが、何も録音されていません!」
「クラブJのマネージャーさんですか?愛知県警の三宅です!事情を聞きに伺いますのでそのままお待ちください」
黒木は「えっ、警察!」と言って直ぐに電話を切った。
電話の直後クラブJに大阪府警が踏み込んで、黒木もママも逮捕された。
病院を利用した誘拐監禁、背後のモーリスにまで警察の手が届くかと思われたが、警察がモーリスに入った時、既に糀谷専務は、自殺を図り救急車で病院に運ばれていた。
松永部長は、三木と木村を捜しに名古屋に向かっていて会社にはいなかった。
小南は病院に美沙を入院させると、直ぐに鬘を買いに病院を出た。
両親に見せるには余りにも衝撃が大きすぎると思った。
夜になって病院に駆けつけた両親だが、美沙は、まだ薬で眠っていた。
翌朝、美沙の目覚めと同時刻、糀谷専務は大阪市内の病院で亡くなった。
全ては自分一人が行った事で、モーリス社は全く知らない事だと遺書が残されていた。
「お父さん!お母さん!心配させてごめんなさい!」この言葉が目覚めた美沙の最初の言葉だった。
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