第37話   囚われの身  

 56-037

三宅刑事から「村井茜ちゃん小学四年生!学校に尋ねてみるが赤城さんはもう直ぐ自宅に到着ですか?」

「はい、半時間程度で到着出来ると思いますがどの様にすれば良いでしょう?」

「赤城さんの推測のように誘拐なら、まず子供さんが家に居るかを確かめて下さい!その状況によって警察は動きます!学校にいるかどうかはこちらで直ぐに調べます」

普通電車に乗り換えて吹田に向う美沙。

しばらくして三宅刑事が「村井茜ちゃんは授業を途中で切り上げて、自宅に帰った様だ。家から呼び出しの電話が学校にあったらしい」

「内容は?」

「家族の交通事故だ!」

「嘘ですね!誘拐は確実ですね!」

「まだ断定はできないが誘拐の可能性が高くなったな!」

この電話で美沙は小南に一応待機してもらう事をお願いして、ウィークジャーナル大阪支店に応援の要請を依頼した。


しばらくして閑静な住宅地に到着した美沙は、村井憲一の表札を捜しに歩いた。

村井憲一の表札はすぐに見つかった。

「立派な自宅だわ、でも静かね!本当に誘拐が起こっているの?」と思った。

そして、深呼吸をしてからインターホンを押した。

「何方?」男の恐い声がインターホンから聞こえた。

「私、ウィークジャーナルの記者で赤城と申します。お聞きしたい事が有るのですが?」

「一人か?」

「はい、私一人です!」

「今、開ける!ゆっくり入れ!」「大した女だな!驚いたよ!」と聞こえた。美沙には言葉の意味が判ら分からなかった。ずそして、施錠の開く音がした。

美沙は、鉄の扉を開いて奧に在る玄関に向った。

玄関先に立って格子戸を開こうとした時、急に戸が開いて男の手が美沙の手首を掴んで家の中に引きずり込んだ。

「携帯、ボイスレコーダーを出せ!」恐い形相の村井課長と思われる男が叫んだ。

その横から女が、美沙の鞄を取り上げて床にばらまいた。

「何をするの!」驚いている美沙に「娘を返して!仲間に連絡をして開放して!この様な事までして記事を書くのですか?」女が必死の様相で言う。

女は村井課長の妻だと理解した。

「ガムテープを持って来い!」村井課長が言う。

「何をするのですか?娘さんの誘拐と私は何も関係無いでしょう?」

手首を持った状態で離そうとしない。

ガムテープを妻が持って来ると、「手首に巻け!」

妻は直ぐにガムテープを美沙の両手首にグルグルと巻き付けた。

「足首にも巻け、動かない様にしてから交渉だ!」

「交渉?何の話しなの?」美沙が玄関に転がされて、足首にもガムテープを巻き付けられた。

「誘拐犯の連絡先を教えて貰おうか?」

「何の話しか理解出来ません!私を捕らえて何をするおつもりですか?」

「最悪交換だな!それにしても随分早い時間に来たのだな!」

「この子、やっぱりウィークジャーナルの名古屋支店の子だわ!」鞄から散乱した名刺入れを見ながら妻が言った。

「名古屋支店から態々吹田まで来るとは、私からどの様な話を聞きたいのだ!」

「意味が判りません。が?お嬢さんの茜さんが何者かに誘拐されたのですよね?!」

「ほら、加代やっぱり共犯者だ!娘の名前を知っている!」

「私は誘拐とは関係がありません!解放して下さい!」

「誘拐犯と連絡をして、娘を解放して下さい!主人が何を話せば納得するの?」妻が必死で訴える。

意味が理解出来ない美沙は「私が連絡をしなければ警察が来ますよ!」

その言葉に驚きながら、隣の部屋に行った二人は何かを相談していた。

戻って来ると「警察に言うと娘の命は保証しないのに、お前が帰らなければ警察が来るってどう言う意味だ!」

「誘拐犯が何を貴方達に言ったの?茜さんはどの様にしたら帰して貰えるか知っているのでしょう?お金?」

「お金なら出来るだけ準備するわ、仲間に連絡してよ!」

「お金の要求じゃないの?」美沙は誘拐したであろう寺崎母子はこの夫婦に何を要求したのだろう?と考えた。

子供を殺すのが目的?この夫婦を苦しめるのが目的ならお金でも良いが、寺崎志乃さんは村井課長には恨みを持っているだろうが、妻と娘さんには恨みは無い筈だ!何を求めているのだろう?

「おい!ウィークジャーナルの記者さんは、私に何が聞きたい?いや、何を喋って欲しいのだよ!」

「そうよ!主人から何を聞いて記事にしたいの?それを言いなさいよ!」

「それより犯人と連絡をして、娘の無事を確かめさせてくれ!」

二人が次々と理解出来ない話しを美沙に言う。

「私は犯人とは・・・」

「嘘を言わないで!ポストに投函された文面と一緒なのに、知らないなんて言わせないわ!」加代が美沙の近くに来て、頬を平手で「バシッー」と叩いた。

横に倒れる美沙は頬の痛みを我慢しながら「その文章を見せて下さい!」

「自分で投函して頃合いを見計らってやって来たのだろうに、文章を見る必要が有るのか?」

「とぼけないで!」

加代が隣の部屋から持ってきて美沙の目の前にA4の紙を広げて見せた。


『村井課長

娘の茜は我々が預かった。

警察に通報したり、騒ぎ立てると娘の命はない。

解放の条件は、ウィークジャーナルの記者に、自分がこれまでモーリスで行った悪行の全てを告白して記事にして貰え!

三日の猶予を与える。それまでに告白をしなければ、残念だが娘の命は無い。

ウィークジャーナルの記者が来なければ、名古屋支店の小南圓を自宅に呼んで告白するのだ!

                     モーリスの悪行を正す男』


唖然とする美沙、この脅迫文の直後に自分が来たならこの様になると理解した。

「思い出した?!名古屋支店の赤城美沙、小南圓も同じ支店よね!」

「そうですが、全くこの様な脅迫文は知りません」

「モーリスの悪行って何!何を喋れば娘が解放されるの?」

美沙は、この様な状況になってどの様に切り抜ければ良いのか?頭がパニック状態に陥っていた。



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