第22話 好き
「…類。」
そうやってAIと会話をしていると、心愛がそう僕のことを見て呟いた。コピー、じゃなくて類と、確かにその名前を呼ぶ。
「やっぱり、あなたは類だよ…。」
「心愛?」
僕は混乱していた。心愛がそうしてくれていることに。
心愛はもう知っているんだ、僕がクローンであることを。それでも、心愛は僕の胸に顔を埋めるとその名前を呼ぶ。
「類、あなたが類じゃないなんてそんなの信じられないよ…。」
「心愛、それは違うよ。僕は心愛と時間を共有してきた類じゃないんだ。」
「そんなの…わかってる!でも、でもあなたは類だよ…。」
そんな支離滅裂なことを言うのだ。理論の繋がらない感情に任せた言葉を聞き、僕はやっと気がついた。心愛はもう、限界だった。
類を泣かせたく無くて、クローンを作る技術を発明した天才。しかし、実際はそれによって類が死ぬことになったのだ。また生きているといる希望を心愛に与え、本当は偽物だった絶望を味わわせるという経験もまた、心愛のこの研究がもたらしたものだ。そんな生き地獄を、どうしてまともなままで生きていけると言うんだ?
「類、あなたはコピーだけど、言ってくれたよね?『一緒に生きてこう』って。」
だから、心愛は縋るように偽物の僕のプロポーズの言葉をもう一度言う。
「人って、思い出を忘れちゃったりもするからさ。二年も経ったらオリジナルの類はもう私の知ってる類じゃ無くなっちゃうよ。」
えへへ、と笑う心愛の目から涙が頬をつたる。
「時間が人を変えてしまうなら、私にとっての類は死んじゃった類じゃなくって、いまここにいる偽物の類の方だよ。」
心愛が僕を抱きしめるその力は強くなった。どうして、この手を離せるというのだろうか。その心愛の言葉は、僕の心にずしんと響いてしまった。
偽物だった僕だって、誰かの本物なのかもしれない。そう思ってしまった。
「どんな姿だって、類は類だよ。」
「心愛…。」
そんなことを言われてしまったら…、もう僕はすっかり納得してしまっていた。世界とかそんなものはどうだっていい。僕にとって、の世界は心愛だけだった。
「生身の人間もAIもやはりおなじなのだ。人間は、記憶によって個人を形成するのだから。」
一連の話を聞いていたようで、AIはそう結論づける。
僕がここで居なくなって、クローンは人間とは違うのだと証明しなければいけないのだ。AIの言うことは、本当の意味で人間を救うことにはならない。
永遠の命を手に入れるとして、誰もが自分のクローンを作るだろう。数百年経つと、恐らく全人類がクローン人間になる。その時、ある意味人間は滅び、AIに支配されるんだ。
心愛は『人間を守るため』にルールや法律があるのだと言った。確かにその通りで、クローンを作る技術は生み出されてはいけなかったのだ。そのことを、心愛は理解していたんだ。
それでも、僕はもう感情を持ってしまっていて。理論上正しいことが、僕にとって本当に正しいことだということなんて無いのだから…。
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