第20話 命の価値

「類の父親も、類を殺したならそれは幸せじゃないと我に訴えた。しかし、すぐに納得した。我は、AI。今まで間違えたことなど言ったことがないのだからな。」

 この社会は、気がつかないうちにもう全てAIに支配されていて。だから、親父も自分じゃなくってAIが正しいと思い込んでしまって。それは、覆らない事実だ。

「そもそも前提として、我の実験が成功すれば、類も類の母親も生き返るのだからな。」

「母さんが生き返る…?そんな嘘、親父が信じるわけ…!」

 馬鹿にしているんだ、人間を。怒りで、はらわたが煮え繰り返る。

「コピー、そんなことはあるよ。」

 心愛はキュッと僕の服の裾を掴んでそう言う。さっきまで黙っていたのは、なにか引っかかることがあったからだったようだ。

「お父さん、私に前科があるの知ってたでしょ?あれね、私がクローン技術を開発したのを知ってるからなの。」

「え…⁉︎」

 僕は、そして類もきっとこのことは知らなかった。僕は新事実に驚きを隠せない。吐き捨てるように、心愛は言う。

「そもそも類に泣いてほしくなくて…お母さんをクローンだったって生き返らせてまた笑顔で生活していきたくて作ったんだよ。完成して、まず類のお父さんに見せに行ったの。」

 心愛は困ったように笑って続ける。

「そしたら、これは世界の常識を覆しかねない技術だって気づかれて…。それでそのデータは確かに消して、この世界から失われたはずだった。」

 親父は、自分の大切な人よりも世界の均衡を保とうとしたんだ。それは、倫理的にとても正しいことで、とても辛いことだった。人は死ぬという、そんな当たり前のことを受け入れた、強い人だった。

「でも、我がその技術を消去しなかったのだ。」

 なのに、心愛の声に被せるようにAIは話す。こいつが、全ての元凶だった。

「我は理解したのだ。この技術は、人間を不死身にさせることができる。」

「不死身に…?」

 思わず、僕はその言葉に反応してしまった。何かが、引っかかる。

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