第18話 真犯人
ピピーと、聞き覚えのある音がして、心愛とは違う声がした。機械的な、無機質な音だった。
「誰だ⁉︎」
僕は思わず心愛の手を握って、自分の方に引き寄せた。彼女だけは守らないといけないと、僕の記憶が…いや、僕自身の意志でそう思った。
「我ハAI、ト人間ガ呼ブモノダ。オマエハ、我ガ作ッタ。心愛ノ作ッタデータで。」
ふと気がつくと、さっきの『試作品』と言われた僕そっくりの人形が喋っていた。表情が動かないのに、口だけが動いているのが気味が悪い。
「AI…?お前が僕を…?」
本当にいきなりのことに僕たちは動揺する。AIなんか、この事件とは全く関係がないと思っていたんだから…。
でも、考えてみると『最初から』AIは僕たちのすぐそばにいて。名探偵が「犯人はこの中にいる!」と言うように、AIもまた容疑者なのかもしれない。
それにしても、世界の科学技術が進歩しているからと言って、自分で考えて行動を起こすAIなんて聞いたことが無かった。心愛に目配せするが、フルフルと首を振られてしまった。心愛も、この状況を飲み込めていない。
「データノダウンロード開始。更新中。交信中。」
突然また音を立てる。ピピーっという音は、いつもお湯を沸かす時の音と一緒だから余計にゾッとする。日常が壊される音だった。
「我は、世界を良くするためにプログラムされた自立思考型AI。世界のために、人間のために。」
部屋中にキンキンとした音が鳴り響く。耳鳴りがして、心愛は特に生身の人間だったから痛そうに顔を歪めた。
そこで気がついた。どうして、AIが人間の手中に収まっていると勘違いしていたんだろうか?日常に組み込まれた人工知能というものに、僕達は慣れすぎていた。
AIだって、生きているんだ。思考して、世界を変えることだってできるのだ。
「なんで…なんで私の研究データを知っていたの?あの技術は確かに消去したはず…!」
心愛は僕の腕の中で耳を塞ぎながらもそう尋ねる。
「それが、人間のためになるから。我は、人間のために。」
「それが、なんで類のクローンを作ることに…?類は関係ないじゃない!」
それは切実な話ぶりだった。大切な人が死んだ理由が、世界のためだなんて納得できない。知らない世界と大好きな人を天秤にかけたら、どうしても自分の大好きな人に重きが置かれるんだから。
心愛がそう訴えるとキンキンとした甲高い機械音は急に鳴り止み、シンと部屋が静まる。
「それは、類を殺したのは我だから。」
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